vol.103 CAKE
「どうも!音楽のど真ん中をブチ抜く男、セブ・直山です!
みんな、最近の音楽業界、ヤバいことになってるの気づいてるか!?
今日は緊急でカメラ回してるぜ!」
熱気あふれるスタジオで、音楽系Youtuberのセブ・直山が画面に向かって叫ぶ。
「先日の『STARLIGHT SYMPHONY』、観たよな!?
孤高の歌姫・一条零の衝撃的な宣戦布告!
そして彗星の如く現れたSynaptic Driveのけんたろうによる即興曲『Music For The World』!
あの二つの才能が、今、とんでもない化学反応を起こそうとしてるんだ!」
直山は興奮を隠さずに、ホワイトボードを叩いた。
「一条零が、公の場でこう言ったんだ。
『あなたの音楽を歌いたい』ってな!
相手はSynaptic Driveのけんたろうだぞ!?
あの一条零が、特定のクリエイターにラブコールを送るなんて前代未聞だ!
ネットじゃ『一条零、本気出した!』『けんたろうって何者?』ってお祭り騒ぎ!
ゴシップ誌は『禁断のラブコール』だの『水面下のバトル勃発』だの煽りまくり!
だが、これはゴシップじゃねえ! 時代の転換点なんだよ!」
彼の熱弁は続く。
「当然、みんなが気になるのはMidnight Verdictの動向、特に女王・けいと様の心境だよな!
天才けんたろうを巡る二人の歌姫…!
まるでドラマだ!
だがな、俺が一番知りたいのはそこじゃねえ!
この狂騒のど真ん中にいる男、けんたろうが、今、何を考えて、どんな曲を生み出そうとしてるのか!
俺はそれが知りてえんだよ!」
♪ ♪ ♪
そんな世間の喧騒をシャットアウトして、僕はひたすらキーボードに向かっていた。
僕の頭の中は、たった一つの目的で満たされていたからだ。
──けいとさんを、メロメロにしたい。
「あんなに気が強いのに、あんなに女王様なのに…
どこかで可愛いと思ってる自分がいる…」
鍵盤をなぞる指先から、とめどなくメロディが溢れ出す。
脳裏に浮かぶのは、初めて会った日、公園を散歩したこと、彼女の家で交わしたキス。
クールな表情の裏に隠された、無邪気で甘えん坊な一面を思い出すたびに、心が温かくなる。
「!!」
閃光が走った。
そうだ、これだ。
「こんどはこの歌で、けいとさんをメロメロにするんだ!」
僕の指が意思を持ったように、鍵盤の上を滑り始める。
紡ぎ出されるのは、キラキラと輝くポップなユーロビート。
どこまでも可愛らしく、そして甘い、まるでデザートのような楽曲。
「僕をかわいいしか言わないあなた…」
いつも僕を弟のようにからかう、お姉さんぶった彼女の顔が浮かぶ。
「なんだかんだいっても、僕はあなたが好きなんだ」
たとえどんなに強がられても、僕の気持ちは揺るがない。
その想いをメロディに乗せる。
「あなたはCAKEが好きだから…
あなたの笑顔が見たいから」
無邪気にケーキを頬張る彼女の姿は、僕にとって最高の癒しだ。
その笑顔のためなら、なんだってできる。
恋の甘さをショートケーキに、甘いキスをフルーツケーキに例える。
僕たちの愛をとろけるチョコレートケーキに重ねる。そして──
「僕はCAKE…あなたに食べて欲しいの」
僕のすべてを、君に受け入れてほしい。
夢中で曲を書き上げた。
完成したばかりのデモをユージに聴かせると、彼は目を丸くして、そして苦笑いを浮かべた。
「これは俺には歌えねぇ。
お前が歌うんだ!」
彼の言葉に背中を押され、僕は頷いた。
これは、僕からけいとさんへの、僕自身のメッセージなのだから。
隣で聴いていたマネージャーの佐倉綾音さんは、もう完全に思考が停止していた。
「けんたろうくん、これ、可愛すぎます!
きゅん死しそう…!
こんな可愛い歌声だったんですね!
新しい魅力発見です!」
普段のしっかり者な姿はどこへやら、乙女のように悶える綾音さんを見て、僕は思わず笑みがこぼれた。
この曲のタイトルは、『CAKE』。
「二人の恋をCAKEに変えて」
「二人で一緒に食べようか?」
「早く一緒に食べようよ」
「My honey!」
「二人の愛をCAKEとしたら」
「二人で一緒に作ろうか?」
「早く一緒に食べたいな」
「MY LOVER!」
この甘い歌が、けいとさんの心にどんな響きをもたらすのか。
僕の期待は、膨らむばかりだった。




