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vol.96 Music For The World

『STARLIGHT SYMPHONY -輝く星々の祭典-』はいよいよフィナーレを迎える。

 熱狂と感動に包まれた会場に、参加アーティスト全員が登壇し、

 まばゆいスポットライトの中、観客へ感謝の言葉を届けていく。

 惜しみない拍手と、別れを惜しむ声が会場を満たしていた。


 MCが締めくくりの挨拶を始めようとした、その時——

 ステージの端、キーボードの前に立つけんたろうが、静寂を破る。


「ちょっと待って!」


 突然の声に、観客もMCも息を呑み、ステージに視線が集まる。


「今、曲が頭に浮かびました……みなさんと一緒に歌いたいです!」


 一瞬の静けさの後、会場は爆発的な歓声に包まれた。


「マジかよ!」「けんたろう、天才すぎる!」「またサプライズ!?」


 さらに彼は続ける。


「もちろん、この場に来てくれた方、全員です!」


 観客のボルテージは最高潮。だが、次の一言がまた笑いとざわめきを呼んだ。


「5分待ってください…!」


 ——ライブのクライマックスで即興作曲。常識では考えられない奇行だ。

 だが誰もが「けんたろうならやってくれる」と、その奇跡を信じていた。


 舞台袖では、ひとりの男だけが厳しい表情を浮かべていた。

 伝説のプロデューサー・真壁。

 彼はインカムに静かに、だが有無を言わせぬ口調で指示を飛ばす。


「止めさせなさい。

 けんたろう……あの才能は我々が守るべき音楽界の宝だ。

 完璧に磨き上げられた環境以外で、一瞬の気の迷いで名声に傷がつくようなことがあってはならない。

 リスクを冒させるな」


 その声音には、けんたろうの才能への深い敬愛と、大人としての静かな決意が宿っていた。


 しかし、そんな真壁の前にユージが立ちはだかる。


「あんたほどの人間が、一番大事なことを見誤るのか?」


 揺るぎない信頼をこめて続ける。


「あいつの才能は、あんたの言う『完璧な環境』なんて窮屈な箱に収まるもんじゃねぇ。

 今この瞬間に生まれて、ここで鳴りたがってるんだよ。

 見てなよ。

 あんたの想像なんて、こいつは5分で軽く超えていく」


 真壁は静かにステージを見つめる。

(……お前の音楽は、誰にも止められない。世界のすべてを、信じて歩け)


 前代未聞の宣言に、会場の視線と期待が一点に集まる。


 譜面台とペンが運ばれ、けんたろうは一心不乱に五線譜へ向かう。

 その指先は、空中で鍵盤を叩くように舞い、頭の中の旋律を世界に写し取っていく。


 そして——ちょうど5分後。


「できました!」


 スタッフが歌詞をスクリーンに映し出し、温かいピアノの音が流れはじめた。

 タイトルは『Music For The World』。


【寂しい時も 悲しい時も  いつもそばには 音楽がある】


 けんたろうの優しい歌声が、会場に響き渡る。彼のシルエットは、この瞬間、まるで光そのものだった。


【言葉はいらない 心で繋がる  歌声合わせれば 一つになれる】


 ユージの力強く、しかしどこまでも優しいボーカルが重なる。


【遠く離れていても 響き合うメロディ  希望の光 届けたいから】


 あやのキュートな歌声が、メロディに華を添える。


【星降る夜に 誓った夢を  未来へ繋ぐ Music For The World】


 けいとのクールで透明感のある歌声。その視線は、時折、けんたろうのシルエットに向けられていた。


【争いなんて いらない世界へ  平和の歌を 届けよう 今】


 一条零の歌声は、慈愛に満ちた、まるで女神のような響きだった。


【手を取り合って 輪になって踊ろう  笑顔が広がる Music For The World】


 めぐみの希望に満ちた声が、最後のバトンを繋ぐ。そして――


【ラララ… 歌おう Music For The World  ラララ… 心を一つに Music For The World】


 サビで、奇跡が起きた。  

 アーティスト全員と、会場にいる数万人の観客が、文字通り一つになって歌い上げたのだ。

 国籍も、年齢も、性別も関係ない。

 ただ、そこにいる誰もが、同じメロディを口ずさみ、隣の見知らぬ誰かと笑い合っていた。

 ペンライトの光が、誰かの涙で滲んで、一つの巨大な銀河のように見えた。  

 音楽が、本当に世界を一つにした瞬間だった。



 VIP席で全てを見守る真壁は、静かに自分の無力と歓喜を受け入れる。

(……守るとは、箱に入れることじゃない。

 自由に解き放ち、世界と響かせることだったか。

 見事だよ、少年。

 私の人生に、新しいページを加えてくれた)


 彼の口元に浮かぶのは、稀有な才能、そして若者たちへの心からの敬意をこめた微笑だった。


【ネット民の反応】

「けんたろう、また天才的なことしやがった!即興でこのクオリティはヤバすぎ!」

「みんなで歌う『Music For The World』、感動で涙止まらない…」

「これぞ音楽の力!今日の『STARLIGHT SYMPHONY』、絶対忘れない」

「会場にいたけど、マジで全員で歌ってた。一生の思い出。」



【YouTuberたちの終幕宣言】


 音楽YouTuber セブ直山チャンネル

「みんな、見たか!?

 これが音楽だ!

 これがライブだ!

 理屈なんか超えてさ、今この瞬間に生まれた歌が何万人の心を一つにしちまったんだよ!

 俺たちは今日、ただのライブじゃなく、音楽の神が降りてきた瞬間を見届けたんだ!

 STARLIGHT SYMPHONYは伝説ですッ!!」


 女王の騎士団チャンネル ザッツ小泉

「今夜は本来、我がMidnight Verdictの活躍について語りつくすつもりでした…

 ええ、けいと様の気品、こはる様の天使の微笑み…。

 ですが今夜だけは、この一言に尽きます。

 Synaptic Drive、けんたろう。

 最後の即興パフォーマンスは、もはや批評も不要。

 あれは音楽そのものでした。

 …心から敬意を表します。」


『STARLIGHT SYMPHONY -輝く星々の祭典-』は、『Music For The World』の大合唱と共に、伝説となって幕を閉じた。

 だが、これは終わりではない。


 宇宙から来たような一人の少年が、その指先で世界を繋いだ物語の、本当の始まりなのだ。

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