08 メンシュ王国の国王
よろしくお願いいたします。
廊下に出ると、従僕についてふかふかの絨毯を踏みながら進む。
王城の中はどこもピカピカに磨き上げられていて、塵一つ、くすみ一つすら見当たらない。
手が届かない上の方の窓ガラスまですべて綺麗になっているので、もしかすると掃除の担当者は魔法を使って磨いているのかもしれない。
『このお城、アタシに負けないくらい綺麗にされてるわよね?こういうのも好きよぉ』
謁見室のドアの前には、白い制服を着た騎士が二人立っていた。
従僕が合図をすると、特に言葉を交わすこともなく静かにドアを開ける。
思ったよりも豪華で広い部屋には、貴族らしい男性が幾人も並んでいた。
従僕に案内されて室内の中央を進み、一段高くなったところを前にして、少し離れて待つように言われた。
目の前の豪華な椅子はまだ空なので、あとから国王が来るのだろう。
確か、適当に頭を下げておいて、許可が出たら上げていいんだったか。
そして、魔法剣(飾り)は当たり前のようにしゃべりだした。
『あらぁ、こういう部屋っていっつもやたら豪華でごてごてしてるものよねぇ。今はこういうのが流行ってるの?すんごいキラッキラ』
確かにキラキラしいが、頼むから黙っていてほしい。
『あ!見てみて!顔は向こうにやらないで、右斜め後ろよ!』
そんな無茶ができるか、と思ったが、ほんの少し顔を動かして目線だけで見ることはできた。
『あの青い服の人、カツラよ!見た瞬間にわかるやつ!え、なんでもっとこう自然なのにしないの?もしかして、ああいう〝カツラつけてます〟っていうのが今のおしゃれなの?』
そんなはずがない。
『待って待って、あっちの緑の服の人は裾にレースがいっぱいあるズボンで誤魔化してるけど、めっちゃ底上げしたブーツ履いてるわよ!え、十五センチは盛りすぎじゃない?歩きにくいと思うわ』
シークレットを暴かないでさしあげてくれ。
トールヴァルドが腹筋を試されているうちに、国王が来る時間になった。
「陛下のおなりです」
ちらりと周りを見て、貴族たちと似たような姿勢で腰から軽く身体を折って頭を下げた。
『おなりって、いつなるのかしら』
マジで黙れ。
魔法剣(飾り)の言葉は無視だ。
今は司会進行役らしい男性の声に集中する。
重そうな布の音がして、今度は重々しい声が聞こえた。
「面を上げて、楽にしてくれ」
ひと呼吸おいてから顔を上げると、豪華な椅子には豪華な衣装を着た国王が座っていた。
「よくぞ来てくれた。本来ならこちらから訪れてもいいところを、来訪してもらって感謝する、勇者トールヴァルドよ。して、それが『勇者の剣』か?」
「はい、これが『勇者の剣』、魔法剣(飾り)のツァオバァです」
『ちょっとぉ!魔法剣(飾り)は余計よ余計!!』
トールヴァルドは、腰に下げていた魔法剣(飾り)を引き抜き、両手に掲げて国王の方へ差し出した。
周りにいた貴族たちは、困惑にざわめいた。
「えっ、アレが『勇者の剣』なのか」
「噂では聞いたが、まさか」
「しかし、あの柄の部分は確かに刺さっていたのと同じものだ」
「どう見ても魔法の杖だろう」
「杖なのに『勇者の剣』なのか」
「いや、勇者は魔法剣と言っていたぞ」
「あの見た目で、もしかして魔法剣なのか」
ざわざわとおさまらないので、トールヴァルドは一段と魔法剣(飾り)を高く掲げた。
なんなら、怪しいものを見る目を寄こしてくる者もいる。
「これは勇者の剣です!本剣も自らを勇者の武器だと名乗っています。魔法を使う補助ができるので、魔法剣だったのでしょう」
『もぉぉおおお!だから、勇者の杖だってば!剣じゃないの!飾りでもないわっ!!』
魔法剣(飾り)は野太い声で叫んだが、それは誰にも聞こえなかった。
『魔法の杖で合ってるわよ!なんでみんなにそんな疑惑の目を向けられないといけないわけ?アタシは、勇者の杖なの!もっと羨ましそうな視線を寄こすべきよ!!』
「うるさいぞ魔法剣(飾り)」
トールヴァルドは、思わずつっこんでしまった。
それを聞いた国王は、なるほどとうなずいた。
「やはり、その剣(と断言するもの)は勇者と話せるのか」
「はい。とても賑やかにしゃべっています。名前も本剣から聞き出しました。魔法の補助ができることも教わっています」
『魔法の補助っていうか、威力増大よ!国宝モノなの!すごいのっ!勇者専用だからほかの人は使えないけど!』
今度は魔法剣(飾り)には突っ込まず、国王の言葉を待つ。
「その剣(には見えないもの)、私にも持てるだろうか」
「はい、お持ちになることは可能です。ただ、魔法剣(飾り)によると、勇者以外には使えないそうです」
トールヴァルドの声を聞いて、国王は満足そうにうなずいた。
「うむ。伝承の通りだな。勇者と『勇者の剣』は意思疎通でき、それは外には聞こえない。そして、『勇者の剣』は、勇者以外が持っても特別な力を発揮することはない。勇者トールヴァルドは、正しく今代の勇者である」
並んでいた貴族たちから、「おおおぉ」「おおお……?」「お、おお」と、疑問交じりの歓声が上がった。
『当たり前でしょう?アタシを目覚めさせたんだから。魔力容量だって桁違い!あ、あの人たちはトールヴァルドの魔力容量が何となくわかるみたいね。あのシークレットブーツの人とか』
トールヴァルドは、魔法剣(飾り)を力いっぱい掴んだ。
「今後は、腕を磨きながらメンシュ王国を横断し、魔界へ向かってくれ。大変な旅になるとは思うが、きっと『勇者の剣』が助けてくれることだろう。勇者トールヴァルドよ、メンシュ王国を、人界を救ってくれ」
国王が重々しくそういうので、トールヴァルドはさっと頭を下げた。
「はい。勇者として、魔物を倒し、元凶を潰して平穏を取り戻します」
『もぉお。だから剣じゃないんだってば。ちょっとそこのカツラの人、ちゃんと魔法の杖だってデカい声で言ってよ!』
カツラについては何も言わないであげるのが思いやりというものだ。
「うむ、頼む。道中の資金については、冒険者ギルドを通して渡そう。戻ったら、報奨金でもなんでもつかわす。望みの物を考えておいてくれ。王座でもよいぞ」
「いえ、王座は結構です。俺は故郷に帰ってのんびり暮らすことを望みますので」
『あらぁ、いいわねスローライフ!アタシも連れてってほしいわぁ』
国王の横で控えていた、多分宰相らしい男性が口を開いた。
「陛下。ほいほいと王座を渡そうとなさらないでください。この間も魔物から村を救った騎士に王座を、などと。彼も困っていたでしょう。決まったことなんですから国王業務はご自身で全うしてください」
「ううぅ。だって国王って、このでかい国のまとめ役なんだぞ?陛下だなんだって言われても結局議会で色々決めるし。休日なんてほとんどないし。給料もそんなに高くないし。好きな仕事なんて選べないし。でも責任だけはあるし。何かあったら夜中でもたたき起こされるし。そもそも誰もやりたがらないじゃないか!なのに、侯爵家以上限定じゃんけん大会で負けたから国王とかマジでないわ」
国王は、べそべそと文句を言った。
確か数年前に代替わりしたはずだったが、国王は世襲制ではない。
話し合いや推薦で選ばれたものだと勝手に思っていたのだが、どうやらじゃんけん大会で決まったようだ。
この国は大丈夫なのだろうか。
「高位貴族で決められたこと、私にはわかりかねます」
「伯爵家だからって関係ないと思いやがって!十年後の代替わりのときには伯爵家以上を指定してやるからな!」
「そのころには私は定年です」
「国王に定年なんぞないわ!」
「家督を息子に譲っております」
「だったらお前の息子が国王候補だな!」
「まぁなんとか逃げ切ることでしょう」
国王と宰相が掛け合い漫才をはじめた。
周りの貴族たちは、我関せずとばかりにわざとらしく別の方を見たり雑談に興じたりしている。
『あらら。この国の王様、みんながなりたくないのは何百年たっても同じなのね』
魔法剣(飾り)によると、ずっとこの調子で誰もが国王になりたがらないらしい。
『人間なんてそうそう変わらないものなのねぇ。ほんと、この国の人たちって面白いわぁ』
正式名「国王強要じゃんけん大会」。
国王をしている間、元の担当領地は国の専門チームが運営しておいてくれる。
じゃんけんが弱すぎて二回連続国王になった人がおり、可哀そう過ぎたので、一度国王になると次のじゃんけん大会は免除されることになった。
読了ありがとうございました。
続きます。




