28 まさかの事実発覚
よろしくお願いいたします。
二人を乗せてたったか歩くシュネルは、最後の村に置いていく予定だ。
魔の森に連れて行くことはできないし、ただ放置するわけにもいかない。
万が一戻らないことも考えれば、最後の村に置いて役に立ってもらうのが一番だ。
故郷の村と似た雰囲気の村を訪れ、厩の端を借りるつもりでいたら、空き家があるというので使わせてもらった。
「ここから魔の森までに、村はあるか?」
『そろそろ最後っぽいわよねぇ』
お礼代わりに周りの魔物を一通り倒した後、そう聞いてみた。
村長は、向こうで畑を耕している家族を見ながら言った。
「村か。知っている村は、数ヶ月前にやられました。あそこにいる家族は命からがら逃げ延びてきたんですよ。ほかの村民も、逃げてきたものは一旦この村に来たが、先月冒険者と一緒に別の町へ移住しました。私たちも、今月中には荷物をまとめて向こうに引っ越す予定で、冒険者を依頼しているんです」
『あー、そういう感じ。ここより王都側の町なら、通ってきたところかしら』
村長がそう説明してくれた。
確かに、このあたりには小型の魔物はほとんどおらず、小さくても中型。
大型の魔物も跋扈しているので、生活に適さなくなっている。
村の近辺こそ、人が生活していることもあって魔物は発生しないが、離れたところで発生した魔物が近寄ってくることはある。
今のところなんとか魔道具も使いながら村民だけで撃退できてはいるものの、ケガ人も増えたので限界を感じているそうだ。
「それなら、このシュネルを引き取ってもらえないか?賢いからきちんと言うことを聞くし、力が強いから普通の人なら三人くらい乗れるだろう。いざとなれば魔物に追いつかれずに走れる。頼めるだろうか?」
『やだぁ、シュネルちゃんとお別れなのね。アタシにも目を向けてくれる優しい子なのよ。ぜひともいい人に引き取ってもらいたいわねぇ』
何となく想定していたのか、村長はゆっくりとうなずいた。
「わかりました。お預かりします。私たちはこのまま王都方面の町へ移住します。お戻りになられたら、ぜひお立ち寄りください。シュネルはしっかりお世話しておきますので」
自分たちが戻るかわからない、と言いかけたトールヴァルドだが、すんでのところで言葉を呑み込んだ。
村長含め、この村の人たちはトールヴァルドが勇者だと気づいている。
だからこそ、後ろ向きなことは言えない。
ピヒラは、シュネルをゆっくりと撫でている。
「ありがとうございます。戻り次第引き取りに行きますので、どうかお願いします。これは、その間の飼葉代です」
これまで、シュネルの食事はトールヴァルドのアイテムボックスに大量に入れてあったので気にもしていなかったが、普通にお世話するなら当然飼葉を用意してもらわないといけない。
村長は固辞したが、これも必ず迎えに行くためだからといって金貨の入った袋を押し付けた。
手間賃も含んでいるからどうか、と押し切った。
移住するとなれば、何かと物いりだろうし、そもそも国を出るのでしばらくは金を持っていても仕方がない。
そして、トールヴァルドとピヒラはその村を発った。
「今日はこのあたりで野営だな」
「そうね」
『徒歩も野営も飽きてきたわねぇ』
歩いてもいないのに、勇者の魔法剣(ごり押し)がそう言った。
最後の村を出て十日ほど経っている。夕方になって周辺の魔物を一掃した二人は、木の下で結界の魔道具を発動させた。
これは、魔物がこちらを認識できなくなる道具だ。
内側に入ったものの魔力の流れを見えなくさせるものらしい。
魔物の赤い目は、魔力を見ているというのが通説だ。
それを念のため二つ起動させ、夜露を凌ぐタープを張った。
結界の範囲は直径をある程度調整できる球形で、四メートルもあれば二人で使うには十分だ。
前までは六メートルくらいにして、シュネルも範囲内に入れて休んでいた。
二人だけなので、タープの下にコットを二つ並べて寝袋を置けば完了だ。
「これもまずくはないが、ピヒラが前に作ったスープとか、温かいものが欲しくなるな」
万が一のために持っている携帯食は、あまり美味しくない。
今食べているのは、持ち歩きの食事として定番のサンドイッチだ。
こういう持ち歩ける食事や水は、大量にアイテムボックスに準備してあった。
もしずっと味気ない携帯食だけなら、モチベーションが下がっていただろう。
「そう?あたしの料理は適当だから、そんなに美味しいとは思わないけど」
頬を染めたピヒラは、どうやら照れているようだ。
『そりゃあ、手作りのできたてって絶対美味しいわ。それが可愛い子だったら五割増で美味しいわよ。強くて可愛いピヒラちゃんの手作りなら三倍美味しいわよ』
それはさすがに過言だろう。
二倍くらいだ。
「ピヒラの料理はうまいと思うぞ。俺は手伝いしかしてないが、手際が良いし、味も良い。俺が作ったら焼くか……いや、焼くしか選択肢がないな」
「ふっふふふ!そういえば、一回調理をお願いしたら肉野菜焼きだったわね」
「あれしかできない。煮たら生煮えかドロドロになるんだ」
『トールヴァルドは料理しない方がいいわ。なんでああなるのかしら。料理ができないデバフでもかかってんじゃないの?』
ここで料理をしないのは、魔物に気づかれるからだ。
いくら結界を張っていても、火を使えば煙が出るし、気づかれやすくなる。
ササっと夕飯を平らげた二人は、夕闇が迫る中で武器の手入れをした。
西の方には、黒い森が見えている。
「明日には魔の森に入る。ピヒラ、本当に魔界に入って大丈夫なんだな?」
「うん、もちろん!それに、そろそろ一回実家に帰らないと心配させてる気がするし」
ピヒラは、元気よくうなずいた。
『あっ』
「え?」
「え?」
ピヒラは、実家に帰ると言った。
トールヴァルドは、魔界に入ると言った。
導き出される答えは。
「……ピヒラは、魔人だったのか?」
「ん?え、あっ!」
料理下手デバフつき勇者。
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