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02 トールヴァルド、王都へ

よろしくお願いいたします。



 トールヴァルドは、魔界との境界にある『魔の森』の近くの村に生まれた。


 ご多分に漏れず、勇者の伝説を聞かされ、近所の男の子たちとともに「俺が勇者だ!」と言いながら走り回り、砂山に突き刺した木の棒を『勇者の剣』に見立てては引き抜いて遊んで育った。

 特にトールヴァルドは勇者に憧れが強く、必ず勇者役を買って出ていた。


 辺境と言っていい村のため、あまり冒険者が来ることはない。

 魔物は武器を使える村民が討伐するので、子どもたちも小さいころから剣を習っていた。


 そしてトールヴァルドは、悲しいことに剣の腕がイマイチだった。


 背は低くないのだがひょろりとしていて、一緒に鍛えた友人が程よく筋肉質になっていく中、身長は伸びても貧相な身体つきのまま。

 剣を振ったところで逆に振り回される始末で、村で剣を教えてくれているおじさんには「諦めろ、ほかにも村に貢献できる仕事はある」とまで言われてしまったほどだ。


 しかし、ほかの誰よりも勇者に傾倒していたトールヴァルドは諦めなかった。


 おとぎ話の勇者であれば、この村の全員を守れる。

 毎日増え続ける魔物を退治しに出ている父を待って不安になることはないし、畑仕事に出かける母が魔物にケガをさせられていないか心配する必要もない。

 村の誰かが魔物に襲われて亡くなるという悲劇も減らせるはずである。


 その想いが強くなったのは、剣の訓練を始めて数年後、十歳のころ母と一緒に村の外の畑に出たときに初めて魔物に遭遇し、自分が何もできずに母に守られたからだ。

 母は危なげなく魔物を倒してトールヴァルドを守ってくれたので、ケガ一つなかった。

 しかしトールヴァルドは敵意しか向けてこない魔物がひたすらに恐ろしく、剣を持って震えるだけで何もできなかった。


 母は強く、自分は弱い。


 それが悔しくて情けなくて、絶対に強くなろうと決めた。

 家族やこの村が好きだからこそ、トールヴァルドは自分が勇者になって全員を守りたかった。


 家の農作業を手伝うかたわら、自分の時間をすべて使って筋力トレーニングとランニング、素振りなどの基礎訓練に励み、そのうえで剣術も鍛錬し続けた。


 食事にも気を使い、睡眠をきっちりとり、身体を作りながらこつこつと積み重ね続けて十五年。



「トールヴァルド、俺からはもう教えることはない。免許皆伝だ」

 鍛冶職人と村の剣術師範を兼任しているおじさんは、とうとうトールヴァルドに合格を出した。


 普通はある程度鍛えて魔物を倒せるようになったら、腕がなまらない程度に維持する訓練に切り替えるため、おじさんが免許皆伝を出すほど技術を磨く者はいなかった。


 ちなみに、教えられるほどに剣術への造詣が深いおじさんは、元A級の冒険者だ。

 たまたま立ち寄ったこの村の娘(今の彼の妻である)に一目惚れし、移り住んだのだという。


 そんな彼は、初めこそトールヴァルドに剣を諦めた方がいいと言った。

 だが、トールヴァルドはやりきったのである。


 実家の農作業をサボることなく、友人たちとともに魔物退治にもいそしみながら、村の中では一目置かれるほどの腕前になった。


 魔界との境界に近い村なので、魔物はかなり多い。

 ここで一目置かれるということは、他でも十分通用するといえるだろう。


 免許皆伝も得て、トールヴァルドは以前から考えていた通り冒険者になることに決めた。



「いってきます」

「気を付けてね、トール。たまには手紙を出してちょうだい」

「手紙もだが、何年かに一回くらいは帰ってこい」

 両親は、トールヴァルドを快く送り出してくれた。


「トール、王都にも行くのか?」

「ああ」

 まずは近くの町で冒険者登録をして、その後は魔物を倒しながら王都に向かう予定だ。


「じゃあ、勇者の剣を抜きに行くんだな!」

「もちろんだ」

 勇者に憧れてここまできたのだから、試さないという選択肢はない。

 にかっと笑ったトールヴァルドを、友人たちは軽く小突いた。


「いいな!もし引き抜けたら、勇者の幼馴染だぜって自慢してもいいか?」

「あぁ、いいぞ!」

「そうなったら、ここが勇者の出身地ってことになるな」

「観光地になったりしないかな」

「こんな何もない村なのに?」

「割と広い農地があって、あと魔物はいるぞ」

「いや普通の辺境の村」

 あははは!と笑いあう友人たちは、多くがもう結婚しており、子どもを持つ者もいる。

 けれども、誰もトールヴァルドに結婚しろとか、もう諦めて普通に生活しろとか、そんなことは一度も言わなかった。


 夢を追って頑張り続けるトールヴァルドを笑うような者は、一人もいなかったのだ。


 トールヴァルドはこの村が大好きだ。

 だから、勇者になってこの国を、そしてこの村を救いたい。


 本気でそう思うからこそ、トールヴァルドは冒険者となって村を離れたのである。




 背が高く、筋肉も隆々としたトールヴァルドの得物は長剣だ。

 一般的な武器だが、村で免許皆伝を得ただけあって、冒険者登録での簡単な試験も何も問題なかった。


 年齢こそ二十三歳とそれなりだったが、ほかの冒険者と遜色ない身体つきに身のこなしだったため、誰にも何も言われなかった。

 ただ、試験官には自分の力を過信しないようにと注意されたくらいだ。


 子どもならEランクから始めるが、トールヴァルドは最初からDランクになった。


 村でしていたように魔物を倒すと、冒険者ギルドから配布されたタグに勝手にその成果が記録されていく。

 これは古代の魔法技術を使っており、一説には昔の勇者が考案したものらしい。

 他人の成果を横取りできない仕様になっているため、実力を誇大・過少評価することがない。


 ちなみに、パーティを組んで討伐した場合は、パーティでの討伐数として記録される。

 トールヴァルドはまだパーティを組んだことはないので、そうなると聞いただけである。


 数カ月かけて、トールヴァルドはどんどん魔物を倒しながら王都へと移動した。

 その間に倒した魔物の数は五百体を超えている。


 そして、冒険者ギルドでのランクもBランクへと急上昇していた。



母が強し。


読了ありがとうございました。

続きます。

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