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18 第二回ハーレムキャンセル(お色気枠)

よろしくお願いいたします。



 見かけた魔物を倒しながら進み、四日後に到着したその村は、冒険者の多いところだった。

 どちらかというと、冒険者の拠点という側面が強いのだろう。

 森や山が近く、魔物も比較的多い。


 そして、宿を決めて冒険者ギルドに入った途端に声をかけられた。


「あっ!あんたが勇者だね?!その豪華な杖に使い込んだ長剣、勇者トールヴァルドだろ?」


 かなりの軽装備な女性だ。

 腕も足も胸元も、あちこち肌が見えていて、戦闘になったら一番にやられそうに見える。

 多分、遠距離か斥候か、戦いには直接かかわらないスタイルなのだろう。


「そうだが」

「やっぱり!ね、あたしをパーティに入れてくれない?斥候だからあんたたちの気づかないとこまで見えるし、なんなら夜の相手もしてあげるよ」


 そう言いながら、女性は身体をくねらせた。

 なかなかのバランスだ。


『あらま、お色気要員?サバサバ系っぽい子ね、いいじゃない』

「斥候か。間に合ってるぞ。ピヒラは魔法で気配を探っているから見えてないところまで感じ取れるし、俺も大体気配が読めるから一キロ先くらいまでなら余裕だ」

「えっ」

『えっ』

 なぜか魔法剣(待機)まで驚いた。


 斜め下からトールヴァルドを見上げるような体勢になっていた女性は、驚いて背を伸ばした。


 胸が揺れているが、痛くないのだろうか。

 きちんと押さえた方が動きやすいだろうに。

 それに、母が言っていた。

 若いうちから、下着で支えるようにしておかないといけないらしい。


「将来垂れるぞ」

「えっ?」


「すまん、こっちの話だ。とにかく、斥候は必要ない。ほかをあたってくれ」

 トールヴァルドがすげなくそう言うと、ピヒラが横に並んだ。


「お呼びじゃないの!変な心配もいらないわ!あたしたち、こういう仲なんだから」

 怒ったように言ったピヒラは、トールヴァルドの腕にぴたりとひっついて手を握ってきた。

『ひゅぅ♪ピヒラちゃんってば大胆!』

 魔法剣(待機)は、口笛風の言葉を発した。


 なるほど、パーティの仲がいいなら入り込めないと思ってくれるだろう。


 友人も言っていた。

 三人以上で仲がいいグループなら入っていきやすいが、二人で仲良くしているところには割り込みにくいと。


 トールヴァルドは、ピヒラの手をぎゅっと握った。


「じゃあ、これで」

「え、でも」

「なんだ?納得できないのか?」

「だって、あたしならきっといろんなトコで勇者の役に立てると思うから!」

『そうそう!頑張って。お色気担当枠は空いてるんだから!』

 よく分からないことを言っている魔法剣(待機)は無視だ。


 トールヴァルドは上から下まで女性を見た。


 斥候としてはそれなりかもしれないが、短剣しか持っていない彼女は戦闘においては邪魔になりそうだ。

 さらに、こちらの拒絶を跳ねのけるだけの利点を論理的に出せないところも良くない。


「俺にできることを代わりにできるって言われても、同程度なら不要だ。役に立てると思うって、具体的に何ができるんだ?子どもの修行ならともかく、今回の目的に限っては頑張りなど関係なく結果が出なければまったく意味がない。君がどう思うかではなく、事実を教えてくれ」

『やだコテンパン』


「う、あ……ま、魔物と戦っているときの斥候だって重要でしょ!」

 トールヴァルドは、思わずため息をついた。


「それくらい自分でやっている。十体を超える魔物を一人で相手にするくらいだからな」

「なっ……。あ、じゃあ、そっちの女はどうなのよ!大剣を持ってるからって、勇者の方が強いんでしょ?!だったら、一緒にいる意味なんてないじゃない!」

 ピヒラがピクリと動いたので、トールヴァルドは手をきゅっと握った。


「ピヒラはA級冒険者だぞ、何を言っているんだ。俺は剣ではピヒラにかなわない。ピヒラは大剣の天才だからな。俺と手合わせしたときには、戦いの中で俺の技術を習得していたくらいだ。魔法は俺の方が魔力容量も多いしすぐに習得するが、知識は完全にピヒラだ。少なくとも、俺はピヒラになら安心して背中を預ける。君を庇いながら戦う理由もないし、連れて行けば君は無駄死にする可能性が高い。だから、断る」


 そう言って女性を見やると、彼女は口をパクパクとさせた後で肩を落とした。


『だから、なんで自らハーレムキャンセルしてんのよっ!あぁ可哀そうに。彼女、斥候の腕は悪くないわよ?ただトールヴァルドの基準に追いつかないだけで。って、それがダメなのよね。あら、じゃあ仕方ないわね。命は大事よ』

 女性を庇うようなことを言った魔法剣(待機)は、しかしすぐに意見を覆した。

 その通り、メンバーにしたところで無駄に散ると予想できるのに同行を許すつもりなどない。


「それじゃあ。俺たちは報告があるから」


 言い置いてピヒラを見下ろすと、腕にしがみついたピヒラは真っ赤な頬のまま固まっていた。

『ピヒラちゃんが!』

 魔法剣(待機)はそこで言葉を切った。

 体調でも悪いのかと思ったが、しがみつく身体は特に熱くはない。

 少し呼吸は浅いようだが、突然妙な女性に絡まれたので混乱しているのだろうか。


「ピヒラ、行こう」

「えっ、ええ!行きましょ」

 つないだ手は小さいが、きちんと力が入っている。


 ちらりとトールヴァルドを見上げたピヒラは、嬉しそうに微笑んだ。

 どうやら、ピヒラを色々と褒めたために照れているようだ。


 あんなに大剣の腕が素晴らしいのに、褒められ慣れていないのかもしれない。


伸びたら元に戻らない。


読了ありがとうございました。

続きます。

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― 新着の感想 ―
クーパー靭帯、大事。 勇者が安心して背中を預けられるって相当な褒め言葉ですよね……
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