11 お約束のアレっぽいやつ
よろしくお願いいたします。
買った馬には、シュネルという名前を付けた。
栗毛の大きな馬で、とても賢く大人しく、走らせればかなり速い。
魔物にも驚かず、きちんと指示を聞けるというのでシュネルを買うことに決めた。
「魔の森まで、このまままっすぐ進んで一ヶ月か」
実際の旅路としては、その倍以上かかるだろう。
ただ進むわけではなく、魔物を見かけたら倒していく予定なのである。
とりあえず、この調子なら見かけた魔物を倒しながらでも次の町までは二日ほどだ。
『魔物も倒さないとだけど、もしも魔力溜まりを見つけたら、それもちゃんと壊してよね』
腰の魔法剣(待機)は当たり前のようにそう言った。
しかし、トールヴァルドは初耳である。
「魔力溜まりってなんだ?」
『んー、人界にはめったにないのよ。普通はないの。でも、勇者が現れるくらい魔物が増えてるならどっかにあるかもしれないわ。その魔力溜まりが、魔物を引きつけちゃうし生み出しちゃうのよね』
「その魔力溜まりっていうのが、魔物の発生源なのか」
知らなかった情報に、トールヴァルドは眉を寄せた。
『魔物の発生源の一つではあるわ。普通、魔物ってそこらへんに留まった魔力が集まってできるのよ。だから魔力が一ヶ所に溜まってれば生まれもするってわけ。魔力だまりはその集まりの濃いやつね。生まれるっていうよりは出来上がるって感じかも。あいつら生きてると言っていいかわかんないし』
「どういうことだ。魔物は、魔力から生まれるのか?」
シュネルの背に揺られながら、トールヴァルドは衝撃の事実を耳にした。
『そうよ。でも諸説あるってことになってるの。魔力を留まらせて時間を置いたら魔物ができるなんて、悪い奴に知られたら大変でしょ』
「魔力を留まらせないためにはどうするんだ?」
『魔法を使えばいいのよ。勝手に魔力が動くから、魔物は出てこない。ほら、田舎よりも都会の方が魔物は出にくいでしょ。人が多くて魔力の動きが多いと、魔物も出てこないの』
その理屈であれば、日常的に魔法や魔道具を使うのが普通である民家の中で魔物が見つからないことも納得できる。
王都の中にはほとんど魔物がいなかったことも、トールヴァルドが生まれた村の外には魔物が多かったことも。
その知識を悪用する人なんていない、と言いたいところだが、どこにでも悪いやつはいるし、興味本位でやってみてしまうやつもいる。
確かに、あまり公開していい情報ではなさそうだ。
「なるほど、だったら魔法が便利なことを広めるのが一番か」
『そういうこと!ってか、トールヴァルドって結構脳筋っぽい見た目してるのに実はそうでもないわよね。毎日の筋トレだってすごい計算してやってるし、食事だってそう。なんか意外だけど、そういう性質って魔法を使うにはすごく向いてるわよ!』
魔法剣(待機)に貶されて褒められた。
そして実際、自分でも魔法は何の苦労もなくできるものだと実感していた。
昨晩野宿したときにも、一瞬でタープを張ることができたし火も起こせた。
朝起きてからタープの夜露を一瞬で乾かして、鞄に収納するのも簡単だった。
もしも魔法の修行にいそしんでいる魔法使いにこれを知られたら、嫉妬の炎で焼き殺されるかもしれない。
「お、町が見えてきたな」
『ほんとね。あぁ、この感覚久しぶりぃ!何にもないところから人の営みを眺めて感動するの。人ってたくましくて愛おしいわねぇ』
よくわからないが、魔法剣(待機)は人が好きらしい。
昼前には、町の入り口に着いた。
馬を預けられる宿は少し高かったが、支給された金があるので気にせずに決めることができた。
非常にありがたい。
宿が決まったので、まずは魔物退治の情報を得ようと考えて、町の冒険者ギルドを訪れた。
「なぁ?女一人なんて危険だって。俺らと一緒に組もうぜ」
「いいえ、いらないわ。これでもAランクなのよ」
「ひゅぅ!そりゃあ強ぇなぁ。でもな、魔物に対しては強くても、男に対しては強いとは限らねぇだろ?俺らが一緒だったらそういうのから守ってやるからさぁ」
「いらないってば。近づかないで!」
久しぶりに、お手本のようなガラの悪い冒険者を見た。
『ちょっと、助けてあげなさいよ勇者さん』
「言われずとも」
トールヴァルドは、大剣を背負ったツインテールの女の子の腕を掴もうとした男の腕をひょいとひねり上げた。
「いってぇえええ?!」
「なんだ、この程度の気配も読めないのか?『守る』なんてずいぶん大口を叩いたもんだな」
ぎゅ、と男の首元に指を一本押し付けた。ちょうど頸動脈の位置である。
ひねり上げられた男は、ひゅっと息をのんだ。
「去ね」
パッと手を離した途端、その男は「ひぃぃ」と言いながら走っていった。
『ひゃぁん!トールヴァルドったらかぁっこいい!』
魔法剣(待機)を無視して、去った男には見向きもせず、残りの二人にゆらりと向き合うと、彼らは武器を構えようとした。
二対一なら、と考えたらしい。
仕方がないので、トールヴァルドはそれぞれの懐に素早く入ってみぞおちを打ち、ギルドの外に放り出した。
トールヴァルドの動きについてこれなかったらしい二人は、しばらく悶絶したのち、それぞれにふらふらと立ち去っていった。
『一昨日来やがれってね!』
「大丈夫だったか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
こちらを見上げてくる女の子は、長い黒髪をツインテールにしていて、軽そうな皮鎧を着けていた。
一見服と見まがうそれは、非常に高価で効果も高い防具だ。
『あら可愛い子ね』
大剣は彼女の背丈よりも大きい。
しかし女の子は体幹をぶれさせることがない。
そこまで筋骨隆々とした感じではないから、見る目のない者なら誤解するのだろう。
「もしかしたら、余計なことだったか?」
ぶっちゃけ、この子ならきっとあの三人がまとめてかかってきても軽くぶちのめしただろう。
Aランクだと言っていたし、実際それくらいか、それ以上の実力がありそうだ。
だからといって、男慣れしているかどうかはまた別問題である。
トールヴァルドの肩よりも下までしかない背丈の彼女を威圧しないよう、一歩引いてみた。
女の子は、笑顔でこちらを見上げた。
「ううん!ちょっとめんどくさかったから、助かったわ」
やっぱり、対処はできたんだろう。
女の子はこの町に来てまだ二日ほどだと言った。
魔物の情報を確認していると、魔物討伐の報告を終えたらしい女の子はトールヴァルドのところへやってきた。
「さっきはほんとにありがとう。お礼をしたいんだけど、エールか何かを一杯奢るんでいい?あそこのお店なら飲めるから」
女の子が指さした先は、こじんまりした定食屋だ。
「いや、そこまではいらない。ただそうだな、このあたりの情報を教えてくれたらその方がありがたい」
「わかったわ!じゃあ、食べながら教えてあげる」
どういうわけか、魔法剣(待機)は静かに待機していた。
ツインテールヒロイン。
読了ありがとうございました。
続きます。