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やり直し魔女は、三度目の人生を大嫌いだった男と生きる  作者: 狭山ひびき
第一部 三回目の人生

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小姑みたいな男 2

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 下着をたらいに入れて、石鹸をつけてせっせと洗ったわたしは、畑がある裏庭に物干し竿を準備して洗った下着を干していった。

 すると、わたしのあとに洗濯を抱えて降りてきたクリストバルが、裏庭を覗いてギョッとする。


「下着は室内に干せ! 馬鹿かっ!」


 え? 世の中の常識だとそうなの?


 振り返ると、クリストバルが真っ赤な顔をして顔を背けているから、なんか、わたしまで恥ずかしくなっちゃったわ。


 せっかく干したのにと心の中で文句を言いつつ、わたしは下着を回収すると、使っていない適当な部屋に干しに向かった。

 ちまちまと下着を干して裏庭に戻ると、わたしの大量の洗濯物をせっせと洗っているクリストバルがいて、ちょっぴり申し訳なくなってくる。


 前の人生で死んだばかりだったこともあってイライラしちゃったけど、よく考えてみたら、これ、クリストバルがする仕事じゃないよね?

 もちろん彼が勝手にはじめたことだけど、さすがにわたしの洗濯物を洗わせるのは申し訳ない。


「クリストバル……その、手伝う、わ?」


 手伝うと言うのもなんか変な感じがするけど、それ以外に言葉が思いつかなかった。

 するとクリストバルは洗濯物を洗う手を止めずに言う。


「だったら、そっちの洗い終わったやつを干してくれ」

「う、うん……」


 普段あんまりやらないから手間取っちゃうけど、洗濯を干すくらいはわたしにもできる。

 さっきまで下着をぶら下げていた物干しざおに洗濯物を干して、それを何度か繰り返すと、裏庭に大量の洗濯物がぶら下がった。


「よくもまあこんなにため込んだものだな」

「苦手なのよ、こういうの」


 だって、誰にも教えてもらったことがないもの。だから、ラロに口で言われるまま、なんとなくで頑張って家のことをやって来たけど、容量悪いし時間かかるしで、気が乗らないからいつも後回しにしていたのよね。

 クリストバルはちらっとわたしを見て、肩をすくめる。


「まあ、本来こういうことは使用人がすることだからな」

「平民は自分でするでしょ」

「お前は王女だ。平民じゃない。本来、家事なんてお前がする仕事じゃないんだ」

「そういうの、虚しくなるからやめてくれる?」


 要するに、わたしは王女だけど王女扱いされていない、この国には不要な存在ってことでしょ。

 やり直す前の人生だって、大好きだったエミディオと結婚できて、ようやく幸せになれると思ったのに火刑にかけられるとか、踏んだり蹴ったりもいいところよ。

 火刑にかけられた時だって、誰もわたしに同情なんてしなかったわ。

 むしろ、エミディオの心を操ったとかいう冤罪をみんな信じて、「この性悪魔女め!」って国民にののしられながら火刑に処されたのよ。


 ……ああ、そういえば、あのときクリストバルはいたかしら?


 今から火刑に処されますって時に、冷静でいられるはずもなく、あのときのわたしの記憶は曖昧だ。ただ、エミディオを憎んで、自分の人生を恨んだ。


 ……こいつも、わたしがエミディオの心を操ったって、信じたのかしらね?


 こいつは嫌味な男だしムカつくけど、人の噂を鵜呑みにするようなやつじゃない。

 だから、もしかしたらこいつだけは、わたしが冤罪だって信じてくれたような気がするけど……公爵令息である彼が、国家の方針に否なんて唱えられない。

 あの時も、どこかでわたしが炎に包まれて死んでいくのを見ていたのかしら。


 ……いやなものを見せちゃったわね。


 ここにいる彼と、前の時間軸での彼は別人だから、今のクリストバルがわたしが死ぬところを見たわけではないでしょうけど、なんとなく、悪いことをしたなって気になるわ。

 そう考えると、ちょっぴり殊勝な気持ちになって来た。

 わたしの部屋を片付けて洗濯までしてくれた彼に対して、わたし、失礼だったかしら。

 わたしが頼んだわけじゃないけど……クリストバルは一応、好意でしてくれたのよ、ね?


 ……嫌味なやつだけど、悪いやつじゃないのよね。


 一度目の人生と二度目の人生を思い出してみても、エミディオがわたしの身の回りの世話をした記憶はない。

 定期的に花束を持ってやってくるあの男は、けれどもわたしとお茶をしておしゃべりをして帰るだけで、わたしの生活のことなんてこれっぽっちも気にかけたことはなかったのだ。


 その点クリストバルは、文句を言いながら掃除をしてくれたり、服がボロボロだと馬鹿にしながら新しい服を差し入れてくれたり、お菓子とかも持って来てくれる。

 そう言えば以前、内緒でメイドを雇ってやろうかと訊かれたこともあったわね。

 また裏切られて逃げられたら嫌だから、メイドなんて必要ないわよって返したら、ちょっと悲しそうな顔をしていたわ。


「別に、お前を馬鹿にしたわけじゃない。ただ、当然の権利なんだと言いたかっただけだ。……ほら、片づけが残っているから部屋に戻るぞ」


 クリストバルがぷいっと顔を背けて歩いていく。

 その後ろ姿を見ながら、わたしは、不思議なものねと首をひねった。


 ……あれだけ大嫌いだったし、何なら今でも別に好きじゃないんだけど……、人生を二回経験したからかしら、前より冷静にあいつを見られる気がするわ。


 そして、意外と……いいやつなのかもしれない。






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