アサレア、人生観を語る 3
お読みいただきありがとうございます!
次の更新は明日です(#^^#)
ではまず、わたしの一回目の人生で何があったのかを説明しよう。
わたし、サモラ王国第三王女アサレアは、驚くべきことに、大好きで大好きでどうしようもないほど大好きだったエミディオ・クベードに求婚された。
そう、求婚である。
当然、一度目の人生のわたしは舞い上がった。
当たり前である。
だって、大好きだったんだもん‼
そして、嬉し涙を流しながらエミディオの求婚を受けたわたしは、その後、エミディオが国王に嘆願してくれたおかげで幽閉生活を終えた。
エミディオが、わたしのために王都に邸を買ってくれたからだ。
一年ほど婚約期間を作り、わたしとエミディオはその間に結婚準備を進めていた。
しかし、悲劇が起きる。
結婚が目前に迫ったある日。
エミディオと郊外にデートに出かけていたときに、馬車が暴漢に襲われたのだ。
わたしはともかくとして、国王の甥であるエミディオには大勢の護衛がついていた(わたしはお父様からどうでもいいと思われていたので護衛なんて一人もついたことがないけどね!)。
けれども、襲って来た暴漢の数が多くて、護衛の騎士たちは苦戦していた。
そしてついに、暴漢の一人が剣を片手に、エミディオに襲い掛かって――わたしは、彼を庇ってあっけなく命を落としたというわけだ。
好きな人を守れたんだもの、我が人生に悔いなし――
なーんて聖女みたいな気持ちになるわけもなく。
あともうちょっとで結婚式だったのにこんちくしょー暴漢ども地獄に落ちろ‼
と襲って来た暴漢を呪いながら散ったわたしは、ふと目を覚ますと十六歳のときに戻っていた。
まだエミディオから求婚される前のことだ。
……あのときは、本気でパニックになったわねえ。
死んだと思ったら生きていて、過去に戻ってきていました、なんて、普通の神経をしていたら受け入れられるはずもない。
ラロに「頭でも打っておかしくなった?」と心配されているのか馬鹿にされているのかわからないことを言われながら、ぎゃーぎゃーと騒いで騒ぎ疲れたわたしは、最終的にその摩訶不思議現象を受け入れることにした。
だって魔女だし。
魔女なんだから、不思議の一つくらい起きても仕方ないよね。
という具合に。
楽観的かもしれないけれど、そう自分を納得させないとやってられなかったわけよ! だってそうでしょ? 死んで蘇るだけでもびっくらぽんなのに、過去に戻って来たんだよ? あり得なくない?
とまあ、そんなこんなで人生二回目。
わたしは考えたわけよ。
一度目の人生を経験したってことは、逆を言えばあの時の暴漢事件を回避できるってわけよね?
ええ、ええ、わたしは馬鹿ではありませんからね。
危険だと思ったらもちろん回避しましたよ。
そして見事に、一度目で死んだあの日をやり過ごし、念願のエミディオとの結婚にこぎつけましたとも!
だけどね、まさかあんな結末が待っていたなんて。
一度目の経験を生かして危機を回避したわたしは、エミディオと結婚式を挙げた。
十八歳の春だった。
そして三年。
エミディオの買ってくれた王都のお邸で、きゃっきゃうふふと楽しい新婚生活を送っていたわたしは、ある日絶望に落とされた。
――アサレア、すまないが別れてくれ。
幸せは唐突に、エミディオのこの発言で壊されたのだ。
寝耳に水だった。
一体どういうことなのかと思ったわたしに、エミディオは好きな女性がいるのだと言い出した。
その女性は隣国の一つであるベセラ王国の第二王女殿下で、エミディオは彼女と結婚する予定なのだとふざけたことを宣ったのだ。
妻であるわたしに向かって、別の女と結婚する予定だと、あの男は言ったのよ‼
唖然としたけれど、わたしはもちろん抵抗しましたとも!
だってそうでしょ?
幸せいっぱいの新婚生活を送っていたんだよ?
夫は大好きなエミディオなんだよ?
はいそうですか、なんて納得できるわけないでしょうこんちくしょー‼
だけどこのときは、わたしのこの抵抗がわたし自身の命を縮めることになるとは思いもしなかった。
あとから知ったことだけど、エミディオはサモラ王国の玉座を狙っていたらしい。
そのためにわたしとの結婚を利用したんだって。
顔も見たことがない姉二人は、すでに結婚して他国に嫁いでいて、残った王女はわたししかいなかった。
だからエミディオはわたしを妻に迎えて、病弱な王太子(お兄様だけど、こちらとも会ったことがないのよねえ)に変わって次の王になろうと目論んでいたという。
だけど、狙いが外れた。
お父様である国王が、いつまで経っても折れなかったんだとさ。
そりゃそうでしょ。
だってわたしが生まれて、目の色を見た瞬間にわたしへの興味を失ったお父様よ?
わたしが王妃になることを容認するわけないじゃないの。
エミディオも、考えが甘いのよ。
で、小癪なエミディオは考えたわけよ。
わたしがダメなら別の女を探そうってね。
そして知り合ったのがベセラ王国の第二王女。
彼女と結婚して今度こそ王太子を引きずり下ろして自分が、と企んだエミディオにとって、わたしは邪魔でしかなかったわけよね。
エミディオはいつまでも離婚に応じないわたしに業を煮やし、ついに強硬手段に出ることにした。
そう、三百年前の王妃ベルナルディタと同じ人生をたどるように仕向けたのよ。
エミディオはわたしが魔女の力を使って彼の心を操ったのだと主張した。
そして、お父様に奏上してわたしを処刑することに決めたのよ。
ベルナルディタと同じ、火刑でね‼
あれは地獄だったわ。思い出したくもないし語りたくもない。
ただただ恨んだ。
憎んだ。
殺してやると思った。
そしてわたしは死んだ――はずだった。
結果はご覧の通り。
三回目の人生の幕あけってわけよ!
だからね、わたしは悟ったのよ。
男なんてくそくらえ‼
愛なんて、恋なんて、魚の餌にでもしてしまえってね!
そう、粉々にして、ばら~って湖とか海にばらまいてしまえばいいのよ!
わたしはもう、二度と誰かに恋なんてしない!
今度こそ、冷静に、ただただ生きることだけを考えるの!
少なくともエミディオ・クベードとは絶対に結婚しない!
誰かを好きになるのも、裏切られて傷つくのも、そして殺されるのも、まっぴらなのよ‼
わたしは、恋愛とは無縁の人生を送るんだから‼