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やり直し魔女は、三度目の人生を大嫌いだった男と生きる  作者: 狭山ひびき
第一部 三回目の人生

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吊り橋効果はやっかいな病気 3

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 食事を終えて、わたしはモニカさんに手伝ってもらって入浴を終えると、なんとなく落ち着かない気持ちでベッドに座って本を読んでいた。


 わたしがお風呂から上がった後、入れ替わりで今はクリストバルが入浴している。

 モニカさんはわたしの髪を乾かすのを手伝ってくれて、ハーブティーを入れてくれたあと、自分の部屋に下がっていった。

 つまり、この部屋には、わたしと入浴中のクリストバルしかいない。


 ……うぅ。心臓~~~~~~!


 どうしてもクリストバルを意識しちゃって、さっきからドキドキがおさまらないわ。

 わたしの使ったお風呂に、クリストバルが入っているというのもいただけない。だって、とっても恥ずかしいじゃない!

 ここにラロがいたら「アサレアにも恥じらいってあったんだね」なんて失礼なことを言いそうだけど、あるわよ! そのくらい! 多少は!


 本を開いているけど、内容が全然頭に入ってこないわ。

 バスルームにばかり意識が向いちゃってどうしようもない。


 だけど、何もせずにぼーっとしてると、なんかクリストバルがお風呂から上がるのを待っているみたいじゃない?

 それは、意識してますって言っているようなものだわ!

 だから、全然頭に入って来なくても、必死に本を読んでいるふりをするのよ。


 ページをめくっては戻ってをひたすら繰り返していると、バスルームから音がした。

 扉が開いて、ガウン姿のクリストバルがタオルで髪を拭きながら出て来る。


 ……うぐっ、この、無駄に顔のいい男め!


 濡れて、クリストバルの銀髪が顔の輪郭に張り付いているんだけど……なんなんだ! なんでそれだけで、そんな壮絶な色気を醸し出すのか、わかんないわっ!

 直視できなくて、わたしは必至に本に視線を落とした。


 ……昨日の吊り橋効果、いったいいつまで続くのよ!


 わたしのぐっちゃぐちゃな部屋を見られても、ぼっろぼろの服を着ているところを見られても、これまではなーんにも感じなかったはずなのに、なんでクリストバルをこんなに意識してしまうのだろう。


 ……うぅ~、ラロ~ラロ~、吊り橋効果をどうにかする方法教えて~!


 鼓動が、どっくんどっくん言ってる。

 クリストバルが片手でがしがしと頭を拭きながら、水差しからコップに水を注いで一気に飲み干した。

 その、こくんと水を飲んだ時に動く喉を、意味もなく見つめてしまってハッとする。


 水を飲み終わって、クリストバルがわたしの隣のベッドまで歩いてきた。

 ベッドの縁に座って、タオルで髪を拭くクリストバルの背中をちらちらと見てしまう。


「髪乾かすやつあるわよ。ええっと、魔道具?」

「ああ。エチェリア公国にいた時に買ったやつだな」


 魔道具は、魔女にしか作れない(わたしは作れないけど)。

 サモラ王国でも、魔女をあれだけ忌避するくせに魔道具の輸入はしている。だけど、それほどたくさんは流通していないんだって。

 クリストバルが筒状の温風が出て来る魔道具を起動させて、髪を乾かしはじめた。


「魔道具って便利ね」

「そうだな。この国には少ないが、エチェリア公国にはたくさんあった。世界中から魔女が集まってくるマダリアード帝国はもっとすごいんだろうなと思う。行ったことはないけどな」

「どんなところなのかしら」

「便利で平和な国だと聞いているな。エチェリア公国もいいところだった。帝国は無理でも、隣のエチェリア公国にはいつか連れて行ってやれればいいな」

「さすがに、わたしを国外に旅行に連れて行くのは無理だと思うわ」


 そんなこと、許可が下りるわけがない。今回だって例外中の例外なのだろうし。

 まあ、ラロが逃亡資金を貯めているから、いつかはこの国とおさらばできると思うけど、それはもう旅行じゃなくて亡命だからね。


「今は無理でも、ファウスト殿下が王になれば、多少は変わるはずだ」

「だったらいいわね」


 期待はできないけどね。王様が柔軟な考えをしても、他の王族や貴族は頭の固い連中ばっかりでしょうから。

 わたしよりずっと髪が短いから、クリストバルはすぐに髪を乾かし終わって魔道具を止める。

 魔道具を片付けて、クリストバルはわたしを振り返った。


「まだ読むか?」

「う、ううん、もういいわ」

「じゃあ灯りを消すぞ」

「ありがとう」


 クリストバルが灯りを消してベッドにもぐりこんだ。

 もぞもぞとお布団が擦れる音を無性に意識してしまう。


「おやすみ、アサレア」

「お、おやすみ」


 クリストバルと「おやすみ」と言い合って隣のベッドで寝る日が来るなんてね。


 はあ……。ドキドキして、眠れそうにないわね。






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