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2 ――農村があった場所――

普通のちょっとした民家よりも高い針葉樹が並ぶ、鬱蒼としたジャングルをハイドたちはようやく抜けた。


それぞれ汗だくになりながら、肩で息をして空を拝む。


熱帯樹林のようなそこには幸い魔物が居なかったのだが――――思い返せば、その理由もすぐにわかった。


多数存在する底なし沼に、酷く高い湿度、多く、高い木々の精で視界が最悪で、さらに道がない。


人間が通るだけでも諦めかけるのだから、さすがの魔物もそこを生息地にはしたがらないだろう。


「でもま、すぐに行けば村があるからね」


3度。底なし沼に引っかかって、死を覚悟したハイドの肩を、『元気出せよ』と叩くシャロン。


2度あることは3度あるとその身で実感したので、別段落ち込んでなどは居なかったが、疲労は蓄積したので元気は出ない。


隣のノラは、監禁状態で体が鈍っていた為か、既に虫の息である。


それにまともに休めないという環境も追い討ちを掛けているのだろう。


「村に着いたら、一先ず宿で休みましょう。俺お金ないけど」


折角レギロスで整えた荷物も、ウィザリィで拉致られた時に全て没収された。武具があったから荷物も仕舞ってくれたのかと淡い期待もあったが、「甘ったれるな」という一言で一蹴された。


「あたしは持ってるから――――君だけ野宿か、可哀想」


「俺は村長にゴマすって止めてもらうよ。用心棒として」


冗談めかしく笑いながら行ってみたものの、存外に真面目な顔で、真面目な返答が来たので、シャロンは思わず口ごもった。


「……いや、じょう」


「――――なんて冗談ですよ」


はっはっはと笑いながら、また真顔で「お金貸してください」と言ってのけるハイドを見て、シャロンは胸の底から息を吐く。


「あんまり驚かせてくれないでよ」


驚いたと肩をすくめて表現をするシャロンだが――――今度はハイドが驚く羽目になる。


それは目の前に広がる光景、ようやく見えた、民家の集まり――目的地――が見えてきたところから、煙が上がっているからである。


そうして、そこに眼を凝らす。次いで、理解する。


民家だと思って見ていたのは、その焼け跡。そこには壁も屋根もなく、ただ黒くこげ果てた残骸。


息を呑んだ。そのせいで苦しくなったので胃にたまった空気をゆっくりと吐きながら、


「襲撃、ですかね」


緊張のこもった声がシャロンの耳に届く。彼女は小さく首肯して、自分なりの考えを伝えてみた。


「”面倒”だったり、”嫌”ならまだ退けるけど、どうする?」


「ノラの体調が万全ではないから一旦退きましょう」


ハイドが即答する。その台詞に呆れたという風に溜息をつきかけた瞬間、ハイドは更に続ける。


「――――って言うでしょうね。昨日このまえまでの俺なら。行きましょう。今退いたって、あるのは熱帯樹林いきじごくですからね」


ただ単に――――面倒な揉め事か、熱帯樹林をまた戻って道を変えるだと、どちらがいいかで考えた末の答えかもしれない。


シャロンは考えて、微妙な心境になりながらもハイドの返答に頷いて、村を目指した。





そこはやはり、酷い光景であった。


村はこんがり焼けたばかりでまだ焦げ臭く、消火されたというより、完全燃焼されたらしいので木造建造物の殆どは崩れ、灰と化し、またその中で未だ燻っている火種は煙を上げている。


人の形をする黒い影もあった。それは地面に張り付いていて、シャロンはソレを見るなり、ノラの眼を慌てて覆い、他を回る。


村はそれほど広くはなく、適当に見て回るのに半日も掛からなかった。


――――湿度の低い、高熱を持つ村の中。ハイドはこう結論付けた。


「凄まじい火力をもつ『何者』かが村を襲撃。目的は多分略奪。そこから見るに複数人の行動と考えられる。そんで、だ。村の裏側にはご丁寧に馬の足跡があった。辿っていけばたぶん、船着場辺りに到着するだろう。これが常習犯なら、船はまずアソコには来ない。これが初犯なら、船が襲われる確立が大って訳だが――――どうする?」


鉄筋で作られた建物の中、僅かに燃え残る家具などが酷く荒らされていた。その中には、生焼けになっていた”半裸”の女性の焼死体が発見されもした。


蔵の入り口も乱暴に破壊されていたし、地下の避難壕まで余すことなく血生臭い状況。


多分、と付け加えるのは勘違いであった際の保険。だがハイドには、否、その光景を見たものは誰もが確信するであろう。


「どうするって、ねぇ?」


ふざけるようにシャロンはノラと顔を見合わせる。


「はい、コレほどまでする方々です。聞くまでもありませんよ」


疲れなんてどこ吹く風、ノラは曇りもない眼差しで、今度はハイドを見つめた。


「とっちめちゃいなよ」「お仕置きですっ」


2人の言葉が重なった。――――思い入れもない、初めて訪れたこの村だったが、流石にこの仕打ちは酷いと、ハイドは久しぶりに、正義ゆうしゃの血が騒いでいた。


激情、と言うには冷静すぎ、また平然、と言うに激昂しているハイドは――――大きく息を吐く。


「これは怨み辛みじゃあない。俺の単なる自己満足だ。それでもいいか?」


自然と眉間に皺がよってしまう。最後の質問をその顔で聞くと、2人のその真剣な眼差しで、揃って首肯した。


ソレを見てハイドも頷く。


そうして3人は、先ほどの疲労を払拭したように、力強く走り出した。

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