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4 ――始まりの終わり――

総てが治まった頃、室内の電気は総て切れ、真っ暗になっていた。


息遣いだけが聞こえるその中で、誰かが手を握っていることに気がついたハイドは、誰か分からないが、取りあえず強く握り返しておいた。


「お兄ちゃん……」


気弱だが、どこか聞き覚えのあるような声が耳元で聞こえて、「お前は要らん」とハイドは手を離して立ち上がる。


掌に炎を紡ぎ、辺りを照らすと、すぐ前にソウジュが立っていた。


「うわあっ」


驚いたハイドはその炎を投げるが、簡単に避けられてしまう。


「一時休戦と言ったな。賛成だ」


ソウジュはハイドの隣で尻餅をついているアオに手を差し伸べ、同じように光を灯させる。


粘着質な炎を天井に投げ、照明の代わりにすると、以前より更に明るくなった。


「……一体何が起こったのさ」


「私も、何が何だか……」


シャロンとメノウも、それぞれ立ち上がり、状況を確認しようとするが、地上で起こったことを地下でどう思索しても答えが出ず、取り合えず外に出てみようという事になった。


だがソレも、入り口を塞ぐ瓦礫を前にして不可能となってしまう。


「面倒を起こしてくれたな」


「知らん」


ソウジュに責められるが、ハイドはそっぽを向く。仕方がないと息を吐くと、


「アオ、瞬間移動テレポートを頼む」


「わかったっ!」


小さくぴょんと跳ねてソウジュに抱きついたアオは、そのまま魔法を紡ぎ、一瞬にして、ソウジュ共々姿を消した。


やれやれ。ハイドは溜息をついて、天井を見上げた。


「俺、視界の中でしか移動できないんだよね」


このまま瞬間移動してもたどり着くのは数メートル先の天井である。そんなことを告げると、メノウは胸を張って前に出た。


「あらジャン君。私が魔力を節約してたのは、何のためだかわからなかったの?」


「ああ、てっきり俺とメアリーさんを酷使するための言い訳かと思ってました」


さらりと嫌味を言うと、ハイドは頭を強く殴られた。振り向くとそれはシャロンであった。


「あんまそう言う事言わないの。それじゃ悪いけど、お願いできる?」


ノラを肩に担ぎ、シャロンはメノウに手を伸ばす。それを優しく握り、さらにハイドの肩を掴んで、メノウもまた魔法を紡ぐ。


――――そうして、ハイドの本来の目的は達成された。






目の前に広がる景色は、何の変哲も無いものだった。


変わらぬビル群。一等背の高い竜聖院本部ビル。所々に灯かりの宿る民家を見下ろすと、どれ程平和かうかがい知ることが出来た。


雨は気がつくと止んでいて、雲の切れ間から綺麗な満月。月の灯かりに、透き通る空気の中の水気が反射していた。


幻想的。先ほどの、薄暗い室内の死闘とは真逆の風景。


胸いっぱいに空気を吸って、それから吐いて。ハイドは思わずその場に座り込んだ。


どこか適当にあるビルの屋上。冷たい人造石は何処と無く心地が良い。


「……、ジャン君。何か変わったトコがあるか、わかるかしら」


フェンスに張り付いて街を見下ろすメノウは、その後ろで寝転ぶハイドに声を掛けた。


「爆発が起こった”らしい”のにその跡が無い。何かしらあるはずなのに無いってことは――――あー……、考えるのも面倒だ」


大きく息を吐く。筋肉の締まった腹がしぼんでいくのを見ながら、シャロンも隣に腰掛ける。


寝転がるハイドの髪をクシャクシャにかき回しながら、ハイドの代わりに続けた。


「爆発ってのは、何も『破壊』することだけじゃないと思うのよ。何かを犠牲にするときだって、爆発はする。爆発するけど被害を出さずに、その代わりに仲間の命を復活させるっていう魔法もあるし……、まぁそんな感じじゃ、ないのかね」


立ち上がり、しりに付いた砂埃を払うと、亜空間を展開する。その中から、柄の赤い、だが刀身は透き通るような白色の、少し長い剣を取り出して、ハイドの上に重ねた。


「ちゃんと仕舞っておいた」


「助かるよ」


ハイドはソレを手に、立ち上がる。それから、メノウに背を向けて歩き出した。


「さ、旅立とう。これ以上この街には関わっちゃいられねぇ……。それじゃ、メノウさん今までありがとうございます。それと」


服は地下。脱いだものは返却されずに置いてきぼり。上半身裸のハイドはシャロンの腕を掴んで振り向かず、片手を上げた。


「さよなら」


鈍くそれを伝えるように揺れる手は、その姿は、また一瞬の内にその場から消えうせた。その代わりに現れたのは、街から遠く離れた草原に浮かぶ、小さな影だけだった。





――――世界に代表する2つの大陸は東西に分かれていた。


その中の、西大陸の南側に存在する魔術師の街『ウィザリィ』。


季節も冬へと移行し始める頃。大きな戦いがあったと、歴史に刻まれた。


烈しい戦いがあったのにもかかわらず、戦死者はただ1名。大賢者『ラン=デュラム』。


それは、その戦いで命を失ったものを蘇らせた代償に、命を失った。


それとは別に、同時刻にあった牢獄襲撃事件は誰にも語られない。魔法の効力の届かなかった地下牢獄は、そのまま潰されて、数ヵ月後にはその上に民家が立ったという。


――――大きな改革は1人の統率者を生み出す。『ラン=アークバ』。デュラムが築いたそこを基点として十数年後、世界に大きな変革をもたらすのだが、それはまた別の話。

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