3 ――合流《さいかい》――
メノウは慌てて数多ある道具の影に隠れて、ソレが治まるのを待った。シャロンたちには距離があるようで、被害はゼロ。
飛んできた破片は、シャロンたちの前に立ちふさがるアオが総て防いでいてくれた。
――――そうして、埃を上げ、小規模な天井の崩壊は、通路の半分辺りから入り口の手前までで終わる。
瓦礫が山盛り。ソレを見て、メノウは冷静に分析を始めるが、
「おっらァッ!」
その中から叫ばれる、籠った声が瓦礫を弾き飛ばして――――未だ上がるその中から、這い出てきた。
不安定な足場、そこに立とうとするが、バランスを崩して転げ、飛び散った破片があるだけの床に落ちる。
彼は無言のまま、手にする『モーニングスター』を両手で構えて、その瓦礫に相対した。
「め、メアリー……?」
不安げに、呼びかける。もし彼がここに居るのならば、ハイドは1階で死んでしまったのだろうか? 様々な思案が胸を過ぎる中、悲しそうな声が返ってきた。
「アイツは死んだよ」
「……こんな状況じゃ、手向けもしてあげられない」
やれやれ、そういった風に彼が肩をすくめ、武器を地面に置いて、後ろへと転がすように床を滑らせた。
一体何をしているのか? 言及する間も無く、それはメノウの足元までやってきた。
「メアリーさんの遺物ですよ。死体は回収できないから、せめてそれだけでも――――」
言い終える前に、瓦礫の山が”切り崩された”。まるで豆腐を斬った様に、その瓦礫は崩れて、中から人を生み出す。
「案外、冷静なんだな。俺はてっきり、捨て身で突っ込んでくるかと思った」
男は感想を口にしてから、何かを投げる。宙を舞ったソレは、ハイドに届く前に床に落ち、甲高い金属音を鳴らした。
剣の、刀身の半分から上、切っ先までの刃の部分。綺麗な切り口を見せるそれは、明らかに切断されたものである。
「武器を投げ、俺の一動作を防いだと思ったら、そんなもので床を破壊するとは――――驚いた」
「俺ァてっきり、床を再構築して攻撃してくれる特殊効果のある武器だと思ってたんでね。こちとら心臓バクバクだ」
丸腰のハイドは、恐れた風も無いままに『ソウジュ』へと言葉を返した。
「だが、お前に武器が無いとなると――――やり難いな」
「心配してくれてんのか?」
「お前が万全な状態じゃないと、俺の強さを理解できんだろう? お前は阿呆なのだからな」
「だったら」ハイドはソウジュに対して背を向ける。「一時休戦でいいんじゃあないですかい?」
振り返ると直ぐ後ろに、見慣れた少女の姿。様々な思い出が蘇る中で、彼女もまた、ハイドの顔を見て驚いていた。
「貴様……」
何を言えばいいのか分からないアオは言葉に詰まる。またアオ自体が嫌な思いでなハイドは、何も言わずに横を素通りしていった。
そうして――――あられもない仲間たちの姿を見て、ハイドは強く歯を食いしばる。
「遅くなって悪かった」
「遅すぎ」シャロンは安心したように、先ほどの殺気が嘘のように消えた微笑を見せた。「役立たず」
「ノラは……?」
ぐったりと、ただ吊らされるままの姿勢で動かない彼女を見て、心配そうに聞く。
「この鎖は、一定以上の力で引っ張ると電気が流れてね。そのせいでノラちゃんは気を失ってるよ」
「鍵は?」
「知らない」
「ったく」ハイドは溜息をついて、シャロンの前に立ちはだかって、「ちょっと我慢してて」
両手を縛る鎖に手を掛け――――それを引きちぎろうと、力いっぱい引っ張る。すると、報告どおり、電撃がハイドを襲った。
脳を揺さぶる衝撃。直ぐにでも手を離したくなる激痛だが――――ハイドが病室から脱獄を図った際に受けた電撃よりは、遥かに易しいものだった。
さらに、お返しとばかりにハイドは体中の魔力を電気に変換して、逆に鎖へと流していくと、間も無く、それは鎖の半ば辺りで弾けた。鎖は、その衝撃で千切れ、シャロンはその場に崩れ落ちる。
ハイドは上着をそこに投げてから、「足は自分でやって」とだけ言い残し、ノラへと移った。
全く同じ事をやって、また残る一枚のシャツをノラに被せてから、足の鎖を破壊。
「強くなったわね」
作業が終えると、背後から声が掛かった。
振り返ると、何故だかいつもの服装をするシャロンが、腰に手を当てて、いつものように偉そうに立っていた。
だが、体中にある様々な傷が、彼女のされていた仕打ちを物語り、ハイドは思わず、拳を強く握る。
「えぇ、お陰さまで」
皮肉っぽく言うと、シャロンは優しく微笑んだ。それから、お得意の『亜空間』から服を出し、
「着替えさせるから、アッチを向いてなさいな」
ハイドに正面を向かせて、気を失ったままのノラに服を着せ始めた。
前、ソウジュへと向き直ったハイドは、そのままアオの隣に立つ。そうして、その頭に手をかざして――――。
「コイツの命が惜しかったら一旦退け」
「……それが本当に”交渉”になるとでも?」
刀を鞘に収め、腕を組んで待機したままソウジュは口を開く。それにハイドは頷いた。
「なるほど、確かに強くなったようだ――――2日前とは別人のように」
「陳腐に言や、『仲間の死が俺を強くしてくれた』かな」茶化すように言って、「だからアンタも強いんだろ?」
「ジャン君、お話はもう終わりよ」
ソウジュの返答が来る間もおかず、メノウは口を挟んだ。
最も、ソウジュはソレに対してこたえる気は無かったようだったのだが――――。
後ろを見ると、モーニングスターを重そうに持ったメノウと、ノラを軽そうにだっこするシャロンが居た。
了解。そう答えてまた前を向きなおそうとすると――――再び、凄まじい衝撃がそこに居る全員を襲った。
床ではなく、牢獄全体が何者かによって烈しく揺さぶられるような衝撃。
立っていられずその場に倒れこんでいると、今度は凄まじい爆発音が、頭の上、地上よりも高いところから聞こえてきた。