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第8話『魔術師たちの街の革新』

同時刻――――魔牢院の戦闘員たちは聖竜院本部ビル、地上5階の階段を慌しく駆け上っていた。


倒れる多くの人間は竜聖院。そして侵入してきた魔牢院との比率を考えると――――魔牢院の襲撃者は、余りにも少なすぎた。


ココまでで既に87人の死傷者が出ている。その9割以上が竜聖院。そして、侵入してきた魔牢院テロリストの数は、36人。現在では32人にまで数を減らしているが――――。


「6階部分制圧完了! 7階より上、10階までは医療施設ですが――――どうしましょうか」


1人の、胸に小さなバッジを付ける男は『雷槍トライデント』の切っ先を天に向けながら、腕章をつける、鋭い目つきの男に敬礼をする。


「そうだな……、なら封呪魔法を扱える者を2人、それとお前と、あと1人で占領していけ。決してバラけるなよ」


了解イエッサー!」


背筋を伸ばして大きな返事をした男は、振り返ってそそくさと、直ぐにメンバーを集めて行動し始めた。


短い金髪の頭を軽くかきながら、『イブソン』は大きな声で残りの兵隊に指示を出す。


「残った奴等は西と東の階段に別れて上れ! 決して油断するなよ、奴等は弱いが、雑魚じゃあない! 舐めて掛かると痛い目に合うからなァッ!」


コツンと、鞘の尻で床を叩く。兵士は揃った動作で敬礼をしてから、行動を開始した。


やれやれと、イブソンは息を付きながら道の先、東通路へと昇る兵隊たちのしんがりを務めるためにゆっくりとした歩調で、だが油断などしていないと言う気迫を振りまいて歩みを進めていった。


――――話を聞く限りならば、幹部は総てで4人。牢獄の看守長を合わせれば5人だ。


強さはピンからキリまで。だが一般戦闘役員よりは遥かに強いらしい。


まず始めに、竜聖院のトップである『デュラム』の側近、『ラウド』。実力は組織の中で2番。


次に、身の丈ほどの刀を扱う銀髪の剣士『ソウジュ』。その力はラウドより劣るといわれているが、誰も彼の『本気』を見たことが無いので一概にそうだとは言えない。


そして蒼いマントを羽織る女魔法使い『アオ』。多彩な魔法で相手を翻弄し死に至らしめるが、相手を自分より弱く見てしまう癖が油断を生むために、戦闘という点では弱い。


最後の1人は『エンブリオ』。スキンヘッドの男で、武器は主に拳。その力はデュラムをも超越すると言われているが、情報の上でのみ彼の存在を知るものは、そう少なくは無い。つまり、実際に見たものは限りなく少ないのである。


そして番外編。牢獄の所長であるが、彼はこの間死んだと聞いた。


なんでも、凶暴な番犬の躾けに失敗して、頭から食われたらしいが――――。


「しかたねぇヤツだな。ったく」


ハイドたちが”囮”となってくれたお陰で幹部の2人の戦力はこの本部ビルからは失せた。相対するのは2人。


権力で成り上がった竜聖院とは違い、実力でその勢力を高めていった魔牢院の総力は竜聖院ここに大きなダメージを与えている。


この調子で行けば、1時間もしないうちに最上階まで上りつめることが出来るだろう。危惧すべきは、確実に戦うことになる2人の幹部。『ラウド』が居ることは確定しているが、他に居るのはアオならば、魔牢院は圧倒的有利になる。


仲間が居ればある程度の実力を発揮できるようだが、その前に叩いてしまえばいい。


イブソンは一通り考えて、魔方陣の刺繍が入った指貫グローブを手に馴染ませた。


この作戦での隊長を務めるイブソンの戦闘力は高い。といっても、メアリーには少しばかり劣ってしまうが。


考えている間に、やがて11階、医療機関を抜けた先へとたどり着いた。既に待ち構えていた戦闘役員たちと刃を交わす兵隊たちが甲高い金属音を掻き鳴らしている。


1人倒されるが、あっという間に、27人は10数人を打ち負かす。


よくやった――――そう口を開こうとして、イブソンは息を止める。


目の前に展開される光景に、言葉を失い、さらに思考を真っ白に染め上げられたからだ。


バタリバタリ。槍を敵に突き刺して、勝利に少しばかり微笑を見せていた兵、酷く悲しそうに眼を瞑っていた兵、無表情で、更なる敵を探していた兵。その皆が、一様にして床に吸い込まれていった。


受身も取らず、腕で身体を支えようともせずに、床に叩きつけられる。それらは皆、宙に後頭部から血の尾を引いていた。


「随分騒がしいと思ったら、魔牢院テロリストの方々か。手厚く歓迎、いたしましょうか?」


ゆっくりとした動作で、倒れる兵隊を踏みながらやってきた男は、ずれたメガネを直して聞いた。


「いやいや」イブソンは拳を構えて、姿勢を低く落とし「もう十分ですよ」


両拳を体の前でぶつけ合う。すると、接触面が眩く光だし、やがて両手を包んで――――光が治まると、両腕は黒く染まっていた。


禍々しく、さらに太く。命でも刈り取りそうなソレを見て、『ラウド』が感想を告げる。


「即死魔法の具現化か。それの応用? 面白い、ならお相手いたしましょう」


ラウドは直したばかりのメガネを外し、そこいらに投げ捨てる。


ブラウンの瞳は赤く――――妖しく光り、イブソンを捉えていた。

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