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1 ――真面目に不真面目――

瞬間移動テレポっ!」


ハイドは一瞬にして人の壁の背後へと移動する。そして続けざまに瞬間移動。通路の突き当りまで移動して、ハイドはそこを曲がった。


すると、そこには伏兵が居た。


「あら、はやいわねぇ」


ゆったりとした口調は聴き間違えるはずも無く、部屋から抜け出した夜に出会った女性――メノウ――であった。


ハイドは続けて瞬間移動をする。メノウの後ろ、見えた通路の突き当りへと転移するが――――目の前に、彼女が居た。


「いい判断ねぇ。中々いいと思うよ。わたし」


雷網かなあみ


ハイドは勢いよく両手をクロスさせる。その折に、5本の指からそれぞれ放たれた、計10本の電撃の糸が網状に紡がれてメノウへと迫った。


一瞬にして鼻先へと到達する。だが次の瞬間には、ハイドにより近い位置に瞬間移動をして攻撃を避けていた。


「バーニングストーム」


ハイドの足元から炎が渦巻き、それは瞬く間に2人を包んでいった。発動させた覚えも無いこの魔法は、メノウのものであった。


瞬間移動からの魔法発動が異常なまでの速度をもっているメノウは、続いてハイドの胸に手を当てた。


呼吸が出来ないそこで、ハイドは網膜が焼けるのを我慢してメノウをにらみ、魔法を発動させようと大きく口を開くと――――頭に言葉が流れ込んできた。


『わたしは貴方の敵じゃないわ。貴方にとって最良の選択を補助する。いい?』


一瞬にして、その言葉を理解する。脳のめぐりが良いからではない。言葉が空気を介さず、脳へと直接意図を刻むからである。


だがハイドは呪文を紡いだ。


「絶対零度」


喉が焼けた。鼻も焼けた。今目を閉じれば確実に瞼が解けてくっつくと、そう思っていると、辺りは瞬く間に涼しくなっていく。


否、寒かった。


天井を焦がす炎は、2人を焼失させる口実のようなもので、実際には殺意の片鱗も無く、ただ姿をくらますための炎幕に過ぎなかったのだが――――。


炎は鎮火。さらに曲がり角はきれいに凍りつき――――メノウが胸を当てていたハイドは、すぐに姿を消してた。


ハイドは彼女の遥か後方の、T字路にやってきて、また直ぐに消える。まるで陽炎のようなハイドは、ここで完全にメノウの索敵範囲から出ることが出来た。


T字路を右にまっすぐ進んで、再び走り出したハイドは足を止めている。何故か、その答えは明瞭明確。


目の前には、一部分に妙なくぼみがあるだけの壁だったのだ。


「ほんとに迷路だな。ここは」


くぼみの横に、なにやら操作パネルのようなものがある。非常に怪しい。


ハイドは上と下を表すパネルの下を、迷わず押した。壁の窪み上に、液晶が光って、1から15までの数が半円に並んでいるのが見えた。


そして時計のように矢印が、順々に1から15へと迫って――――8で止まった。


一体これはなんじゃらほいと考えていると、壁の窪みが真ん中から左右に開き、個室を作り出した。


「うわっ、なにこれ。忍者屋敷?」


中に入ってみる。どうやらここが本当の行き止まりらしい。出口は無く、閉鎖感があって息苦しい。


脅威が去るまでここで隠れていろということか――――振り返ると、兵士が数人、こちらに迫っていた。


背筋が凍りつく。呼吸が自然と速くなる。


扉が一向に閉まらないことに焦燥感を抱くが、一体何をどうすればいいのか分からない。


開いた壁の右側に、先ほどの操作パネルの拡大版のようなものがあった。1から15まで数字が並ぶ。そして下には、内側を向く矢印と、外側を向く矢印。


――――なんて暗号だ。これを解かなければ扉が閉まらないのか……?


絶望を感じた。全てで20近くあるボタンから正解を導き出さなければならない。時間は無いに等しいのに。


そんな時に、扉が閉まり始めた。だが――――ボタンを押そうとする指は、そんなことにも気づかずに進んでいた。


8を押す。この階の番号だ。


おそらく、どの階にもこのみのがくれシステムが存在し、そのキーとなるのが階番号。


――――隠し部屋だと信じて疑わないハイドはそう考えていた。


だが現実は非常なもので、再び扉が開いた。機械的な音がハイドをイラつかせる。


失敗すると扉が開くというわけだ。勝手な認識がハイドの思考をにごらせた。


敵は既に目前、十メートルもない。


「くそっ! 動け、動け、動いてよ! 今動かなくてどうするんだよ!」


ボタンをでたらめに押す。すると奇跡が起こった。


――――扉が、閉まっていくのだ。作動音を愉快に聞きながら、ハイドは閉まる扉に間に合わずに置き去りにされていく男たちを見送っていった。


次の瞬間、ハイドに重力が襲い掛かる。体にわずかな負荷が加わる。そして、足元が動いている感覚。


戸惑わずには居られなかった。


でたらめに押した操作パネルは、14、15の数字のボタンが光っている。


閉まった扉の上には、外にあったものと同じ液晶パネル。


1から15までの数字の羅列。矢印は、静かに14で停止した。


静かな、だが感じたことの無い衝撃を受けて、やがて足元の妙な感覚は、体全体にのしかかる小さな重力の負荷は消えた。


――――扉が開く。腰を抜かして床に座り込むハイドの前に、景色が開いた。


真っ直ぐの通路。両壁は全面ガラス。


一定間隔で観葉植物が置かれているそこは平穏を形にしたような場所だった。


起き上がり、ハイドは恐る恐る出ようとすると、また扉が閉まり始める。ハイドはあわてて両端を掴んであけようとすると、それは障害を認知すると直ぐに開きなおした。


――――穏やかな空気。下階の騒動に我関せずといった態度の14階。ハイドは遠くに豪勢な扉を見つけた。


ハイドにとって障害となる兵士は居ない。落ち着いて、前へ進んだ。


通路の奥、観音開きの扉は牛皮で腹の部分を包む豪華仕様。どうやらこの部屋には人が居るらしく、気配が、魔力があった。


「ここは……まずいな」


きびすを返す。振り返ると、隠れ蓑システムの部屋の扉が開いた。


――――1人、また1人と中から兵士が生み出され、やがて10人ばかりの兵士、もとい役員が現れた。


まさに窮地。ハイドは意を決して扉の向こう側へと突っ込む。いとも簡単に開く扉、その向こうの空間に、ハイドは入り込んだ。


広い、ただ広い部屋。まん前と、その両脇の壁は同じく全面ガラス。そして、その前には大きな机。


そのに鎮座する1人の人物が居た。その隣にも、また1人誰かが居る。


「何者だ、無礼者め」


机の脇に立つ男は静かに言って、ハイドへと詰め寄ってくる。だが同時に、ハイドの後ろからも大勢の足音が鳴り響いていた。


そして何よりも――――顔が見えないほどの広さの、その向こうに居る、椅子に鎮座した男の威圧感が恐ろしかった。


全てを見透かされているような気がして、ハイドは身動きを失ってしまう。


やがて扉から10名の役員。そして目の前に、メガネを掛けたインテリタイプの男。


「どういう訳でここを騒動の渦に巻き込もうとしているんだ? ヨーサン、言い訳があるなら聞いてやる」


ハイドを挟んで、その後ろに居る男に話しかけるインテリメガネくんは、偉そうに腕を組む。後ろのヨーサンは萎縮したように、言葉を詰まらせていた。


「ヨーサンは関係ねぇよ。俺が自分の意思でここに来たんだ」


だから、ハイドが全面に出て口を挟んだ。


男のメガネに指をつけ、指紋まみれにしながらハイドは続ける。「シャロンに罪は無い。処刑をやめろ」


――――ハイドの顔面に、一閃が走った。


陥没する勢いの顔は拳をめり込ませ、ハイドは後ろへと吹き飛ばされる。後ろの男たちをなぎ倒す人間ボーリングで見事ストライクを出した男は、さらにハイドの胸倉を掴んで浮かび上がらせた。


「何者だと、聞いているんだ」


殺気だった声。阿修羅のような怒顔を見せる男に――――ハイドは思わず拳を放っていた。

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