3 ――暴れん坊勇者――
真っ直ぐ、拳へと降り注ぐ。ハイドは宙ぶらりんになる手を上げて、その手を軽々と受け止めた。
「何? 使えなかったらどうするつもりなのかな? かな?」
拳を話される前に、包み込むように優しく握る。そうして間もおかず、ハイドは力を込めた。
「ばっ、は、離せッ!」
「うっせーよ、まだライフポイント腐るほどあるだろうが」
さらにもう片手で、胸倉を掴む手首を握る。同じように力を込めると、男は叫びながらもがき始めた。
だから――――
「うるさい」
首を大きくそり返し、勢いをつけて両手を塞いだ男の額へと頭突きをかました。ゴツンと鈍い音がして――――男はそれっきり黙り、力なく地面へと伏していった。
「粘着炎」
薄暗い中、ハイドは手を前へと向け、そう呟くと――――掌から炎が飛び出た。竜のように長く、意思を持ったように動く炎は放物線を描き遥か前方の地面へと降り立つ。
そうして、辺りは炎によって明るく照らされた。
直ぐ下には気絶する男。目の前、数歩進んだ先には、狭い通路に無理矢理2人並ぶ男、その前に、衣服を破られ下着姿になる少女の姿。
「『傷つき迷える者たちへ、敗北とは傷つき倒れることではありません。そうした時に自分を見失った時のことを言うのです』……本の中の英雄の言葉だ。つまり、お前等は負けているってことになるな」
ハイドは一歩歩みを進める。一人の男は血迷い、少女を突き飛ばして炎の向こう側に行こうと走り出した。
男は身体を小さく、炎に面する箇所が少ないように炎へと飛び込み、向こうへと抜ける。そうして、地面に倒れ込み、炎を消そうと転げまわるが――――。
「なっ、あ、熱ッ! あ熱いっ! 焼ける! ぬわーーーーーーっ!」
身体に纏わり付いた炎は消えず、男の身を焼き尽くし、そんな断末魔を上げさせた。
ハイドは飛び込んでくる少女を受け止め、上着を脱ぎ、かぶせる。まだ13か14くらいの小柄な少女は、小刻みに震え、全てを恐れ、絶望したような表情をしていた。
ハイドはそんな少女を一瞥してから、
「言ったろ? 粘着炎って。粘着質なんだよ、どこまでもついて行くぜ?」
残った1人に言うと、ソレは降参だというようにその場に崩れた。
ハイドはその男の肩をしっかりと掴むと、パチンと指を鳴らす。それを合図に炎は消えて、先ほどまでもがいていた男はやがて静かになる。
――――それから火傷の治療を行い、1人に気絶した男を担がせて、路地から出ると、城へと連れて歩いた。
「どこへ行くん……でしょうか」
気絶したリーダー格を運ぶ男が口を開いた。
「城だよ。誘拐犯だし、強盗だし」
「えぇ……そりゃないですよ」
「黙れよ、殺した後に腹割いてお菓子詰めんぞ」
そうして平和的に城への道は進んでいった――――。
「――――はい。そうです、この娘が誘拐されて。それでこの三人組が犯人です。俺は王様に用事があるんで、じゃ」
城の門の前に構える衛兵へと3人を受け渡して、ハイドは門の中、王の下へと向かう。
赤い絨毯は真っ直ぐ伸び、その先には広い階段。またその階段の両脇に兵士が槍の切っ先を天井に向けていた。
もし兵士が天井に槍を突き刺したら、丁度そこに立っていた人は大惨事になるな、なんて事を考えていると――――ハイドはやがて、階段を上った先、玉座の間の扉の前に到着した。
扉は最初から開いていたので、既に玉座の間に入っているのとなんら変わりはないだろうが。
「……ハイドか」
扉がある仕切りから中へと足を踏み込むと、王はそう呟いた。
ハイドはそのまま返事をせずに玉座へと近づき――――その手前に跪いてから、「はい」と短く首を縦に振った。
「今日は仕事でここに参りました」
ポケットに入れた便箋を差し出しながら言うと、近くの衛兵がソレを手に取り、光に透かし、王の了解を取ってから開いて中身を確認。それが安全なモノだと判断してから、王へと手渡された。
「……ふむ、なるほど。リートも中々人を見ているようだのう」
「王様も勉強なさるとよろしいのですけどね」
「ほほう、中々口が達者な事だ」
ハイドが言うと、王は衛兵が口を挟む間も無く言葉を紡ぐ。そのお陰で、穏やかなムードは崩れずに居た。
「あの、王様。仕事の内容がイマイチわからないのですが……どのようなものなのでしょうか?」
王は「あぁ」と言った後、ゴホンと咳払いをした。
「ハイド、これは仕事ではない」
「……と言いますと?」
「お主を旅立たせよとの要請じゃ」