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1 ――ホリク地方――

「貴様に私を殺せるのか?」


女はまるでハイドの心の内を読むように口を開いた。どうやら凄まじいまでの頭の回転のお陰で幾分か冷静さを取り戻したらしい。


そんな言葉に、ハイドは溜息を吐いて見せた。


「ま、殺す気はないけどな。お前だって、本気で殺すつもりだったら最初ハナっからドデカイの出してるだろうし」


だが剣は降ろさず。今はまだ生きているが、こんなことをした後だ。下手すれば本当に殺されるかもしれない。


最も、その時は仲間が助けてくれるかもしれないが。


やれやれと息を吐く女は、手を離し、杖を捨てる。軽い音を立てて地面を転がる木製とも金属製ともつかない素材で作られたソレは、少しして動きを止めた。


「この状況では私に分は無い」


「聡明なことで」


そうしてハイドは剣を鞘に収めた。杖を奪って、ノラに弓を構えさせて尋問を開始する。


「お前は何だ。あのゴーレムの主か」


「貴様達この先に何の用がある」


「質問に答えろよ」


「この先には立ち入ってはいけない」


話が通じないらしい。先ほどまで饒舌だった口はどうやら自分の役目を話すだけで精一杯らしい。


ハイドは両手に拳を作り、やれやれと、そのこめかみに押し付けた。


「いっ――――ッ、や、やめ、やめろ、私は物理的ぼうぎょろくは極めてひくいのだっ」


舌が回らない。彼女はハイドの腕を必死に引き離そうとするが、非力な魔術師がそれを出来るはずも無く。


閉じた眼から涙が滲み始める頃。ハイドはようやく『うめぼし』をやめてあげた。


頭を両手で抑える女は、足を外側に向けて座り込み痛みに嘆いて俯いた。


「こりゃ少しやりすぎたか」これじゃ話にならなくなってしまったという意味で言うが、


「ハイドさんをあんな目にあわせたんです。コレくらいが丁度いいんですよっ」


同情したように聞こえたらしいノラは先ほどから怒りっぱなしだった。


「まぁ、そういう意味では足りないくらいだけど。やりすぎても面倒だし、甘くても調子づかせるだけだからコレくらいが丁度いいかもね」


「さっさと聞く事聞いて先に進むか」


ハイドは女の前に立ち、屈んで声を掛けた。痛みに唸る女の肩を叩いて。


「お前は何者だ」


女はゆっくりと顔を上げ、ハイドの目を見る。大きな瞳は純真をあらわすかのようなもので、思わずハイドをドキリとさせた。


だが状況が状況なので、ハイドは表情を固めたまま、睨み返すと柔らかな唇はゆっくり開く。


「魔術師だ」


「何処の魔術師で何を目的としているのかを聞いたんだ」


「ウィザリィの魔術師で侵入する者を拒むために配置された」


「ウィザリィ……?」街の名前らしいが、ハイドに聞き覚えは無いので復唱する。


すると女は丁寧に答えた。


「この先にある街の名前だ」


しかしそれを言っても大丈夫なものなのだろうか。機密情報の類ならこの女は今すぐに消されてもおかしくはない。


ハイドは疑問を募らせながらさらに聞いた。


「お前が今まで退いた人数は?」


「貴様等を含めて3人だ」


「俺たちは退いてないぞ。今お前に話しかけてるのが誰だかわからんのか」


「ならば0人だ。そもそも旅人が来ないのでな」


「お前街でなんとなく嫌われてるなぁって感じしない?」


少女は少しばかり考える。敵意の無くなったハイドになれてきたのか、無かった表情は解け、眉間に皺がよっていた。


そうして、「無きにしもあらずだ」と答えてみせる。


「オーライ」ハイドは寂しそうな顔をして彼女の肩を叩いた。


ハイドは無意識のうちに自分と彼女を重ねていたのだ。街ぐるみで嫌われて、やがて追い出された自身と。


彼女は追い出されては居ないが、街から遠く離れた場所での仕事を任じられている。


そう脳内補完したので、十分に同情の余地を見出せていたのだ。


「元気出せよ」


「善処しよう。だが貴様等をこれ以上進ませるつもりは無い」


肩の手を振り払って立ち上がる。いつの間にか杖を手にしていて、彼女は再び距離を取った。


「仕方が無いが、これが私の仕事だ――――ここで死んでいけ」


太陽が燦燦と光を注ぐ。


その下で暑苦しいマントをはためかせ、ハイドたちの前に立ちふさがる少女はなぜか、嬉しそうに口元に笑みを浮かべていた。

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