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6 ――テンメイ!――

剣を構えなおしてから、ハイドは大きく後ろへと飛び、2人の背後へと回る。


「俺はあの速さには追いつけない。足手まといになるだけだ。だから……」


「隙を作れってわけかい? あぁ、了解」


やれやれと、フォーンは片手を上げて返事をする。背負う大剣を抜き、テンメイが顔から両手を離す前にフォーンは大剣を突きの形に構えて駆け出した。


いまだに痛みを引きずり攻撃態勢に移れないテンメイに向かって強く地面を蹴って、跳び上がる。重量級の大剣は風を切って宙を切り上げ、そうして、その大剣はテンメイの頭上に振り下ろされた。


だが――――振り下ろした剣はテンメイへと到達しない。それはテンメイが振り上げた手がその大剣を掴んで止めていたからであった。


「なっ」と、思わず驚きの声が上がる。全体重、重量を加えているのだ。100キロをゆうに超える上に、瞬間的な重量は1トンに近かったはずだ。だが、それをテンメイはフォーンの身体後と支えていて、


「貴様に用は無い」


テンメイはその大剣を馬鹿力で押し返す。フォーンはそれを利用して引き抜こうとするが叶わず。やがて剣を手放してそこから飛び降りるが――――剣は宙に残されたまま、テンメイは姿を消していた。


あまりにも異常すぎる身の軽さに、フォーンは慌てて横に飛ぼうとするが、そんな行動を起こそうと思考した瞬間、既にテンメイの拳はフォーンの背中を貫いていた。


悲鳴を上げる暇も無く、フォーンはそのまま真っ直ぐ前へと吹き飛ばされる。


大剣が地面に落ちる音と、フォーンが遠くの谷の壁に叩きつけられる音が響いたのは、ほぼ同時で――――そのテンメイの腹を、シャロンが槍で突き刺したのは、その直ぐ後のことであった。


「貴様は中々面白い」


ニタリと笑うテンメイなどお構い無しと、シャロンは突き刺した槍を縦一閃、上方向へと切り上げた。肉を切り裂く音が耳に障る。血を噴出しながら、胸、首、そして頭へと、瞬く間に切り裂かれていって、シャロンはそれから大きく後ろへと飛びずさる。


その直後に、矢の雨がテンメイへと降り注いだ。瞬く間に矢で溢れかえるその光景の中、微動だにせず立ち尽くすテンメイは、静かにノラの方を向いていた。


「貴様は……鬱陶しいなァ」


呟きながら、手を上げる。ノラへと向けられた手から瞬間的に具現化された、禍々しい黒い弾は、その姿を現すと共にはじき出され――――弓兵顔負けな命中率で、瞬く間にノラの腹を貫いていた。


屋根の上、街灯が届かない位置に居るノラは、弓を手放し、屋根から落とし、次いで、自身も膝から崩れて、地面に向かって落ちた。


身動きする間も置かずに、鈍い音と共にノラは地面に叩きつけられていった。


――――心臓が、大きくドクンと高鳴った。呼吸が乱れる。無意識の内に、剣を握る手に力がこもった。


「貧弱で愚かで貧しく汚らしい人間どもにはお似合いの格好だな」


「黙れよ雑魚が」


思わず漏れた妄言。だがハイドは訂正することなく、大またでテンメイへと歩み寄った。


ある程度近寄ったところで足を止め、剣を構える。次いで、即座に前に身をかがめると――――まるで図ったように、一瞬にしてハイドの後ろへと移動したテンメイが、ハイドが居た虚空を拳でぶん殴っていた。


起き上がり様に剣を振り上げる。その白刃は確かな手ごたえを感じさせながら、テンメイの右腕を切り裂いていく。


その勢いを利用して右足を軸に、左足を振り上げ放つ回し蹴りがテンメイのわき腹に直撃。


風を切る足はそのままテンメイを蹴りを加えた方向へとバランスを崩させていった。


――――そして、次の瞬間。フォーンの大剣が倒れかけるテンメイのわき腹を切り裂き、その刀身は徐々に腹の中へと飲み込まれていく。


大剣はもう片側からの腹から顔を出し――――テンメイの腹を両断していった。


上半身が力なくビチャリと、切断面を塗りつぶすような血液を大量に流して地面へと叩きつけられた。下半身は、背骨や、内臓の位置など。その位置が鮮明に確認できるほど綺麗に残ってから、倒れてまた流血。


大剣は切り裂いた勢いをそのまま地面に叩きつけ、突き刺さったままその体勢を維持。そうして――――シャロンは大きく息を吐いた。


「止めはお前が刺せ」


テンメイの指を指してシャロンは声を掛けた。言われてから、その姿を良く見ると、腕も足も、微弱だが確かな意思を持つように動き、さらに潰えてなど居ない莫大な魔力が、テンメイの存命を示していることに気づく。


「後は任せた」


シャロンは軽くハイドの肩を叩いて、ノラの元へと掛けていく。街灯の中の薄暗い闇の中へと消えていく姿を途中まで見てから、ハイドは大きく深呼吸をした。


「……俺は、お前を……殺す」


口に出して、決意する。いままで殺すつもりで戦ってきたのに、改めてこの状況になるとしり込みしてしまう自分を、そうやって殺していった。


額から汗が滴る。不快感を催させる汗が身体を包んでいて、ハイドはもう一度、深く息を吸い込んだ。


そうしてから、ゆっくりと、テンメイの頭の上に立ちふさがって、切っ先をその後頭部に突きつける。


「……どうした。魔族はこの程度では死なんぞ? 最も、身動きは出来ないがなァ……」


「黙って死ね」


ハイドは剣を振り上げて、力いっぱい振り下ろす。テンメイの頭を切り裂いていく白刃は、肉体とは違う、気持ちの悪い柔らかさを覚えてその頭を切断していった。


――――脳髄が、血液が、その頭蓋骨から垂れ流れて大地へと浸透していく。そうして、アレほどまで脅威だった魔力が、最後まで消えることの無かった圧迫感は、それを境にして、二度とハイドに襲い掛かることは無かった。


そうして一回り、ハイドはまた大きく成長する。


仰いだ空には、満天の星空が広がっていた。

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