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9 ――結果発表――

その日も平和に仕事を終えて帰宅しようとするハイドの前に、大剣を背負ったフォーンが立ちはだかった。


「仕事のほうはどう?」


笑顔でそう問いかける彼に、ハイドは大きく溜息をついてみせる。


「どうもなにも、一ヶ月もやってりゃ嫌でも慣れますよ。お陰で身体は十分鍛えられましたが、いつになったら本格的な鍛錬に移行するんですか?」


「僕が教えることなんて何一つ無いよ。だって君は、言われなくても1人で勝手に剣術を学んでいたからね。それに、生活の一挙動がそれぞれ戦闘に生かされる。だから、特別何かを教えるといっても、何もないんだよ」


「そ、そんな亀仙流だったんですか……」


なんだか騙されたような気がしてうな垂れると、


「だから少し、手合わせしてみないか?」


自信をつけさせるためにわざわざそう言ってくれた。ハイドはソレを察して頷くと、準備がいい事に、その手にはハイドが借りているブロードソードが握られて、それを手渡された。


「疲れてるほうが元気だから、俺が有利になっちゃいますね」


採掘場から出てすぐのところは丁度良く人が居ない。皆さっさと帰ってしまったためである。


だから都合がいいと、ハイドは距離をとって剣を構えた。


「強くなったと言っても、今までの不安定な力が自由自在に操れるようになっただけだから、過信しすぎないこと。それと――――」


言いながらフォーンは高く跳び上がり、威圧感たっぷりの大剣をハイドの頭上に振り下ろした。


ガキンと金属同士がぶつかり合う甲高い音がして大剣の動きが止まったのは、ハイドが咄嗟に剣で防いだため。


「そう。油断しないことが一番だ」


「しゃらくせぇ!」


そのまま剣を傾け、フォーンの重心が僅かにずれたと感じると、そのまま一気に懐に潜り込み、無防備なその腹に痛快な蹴りを加えるが……。


その足が掴まれた。そして残る片足を払われ、ハイドは転ぶ。足を離されて完全に地面に落ちると、その眼前には再び大剣が迫った。


が、それはピタリと、ハイドの鼻先に優しく触れて停止。そうして大剣は徐々に退いていく。


「わざと見せた隙かどうかを見極める力も必要だね」


「ワンモアセット!」


西の空が紫色に染まる中で、ハイドは鼻の頭から流れた血を気にもせず、再び駆け出した。






――――その頃、荒野の真ん中月の下では、ナイフ一本を構えるシャロンがノラに相対していた。


「修行の成果発表会だよ。どこからでもいらっしゃい」


両手を下げて笑顔のままノラを見るシャロンに、少しばかりの警戒心を滾らせてノラは弓を構えた。


「努力は正義! 絶対に負けないんだからっ」


装備を整えて来いと言ったのはこんな抜き打ちテストのためかと頭の橋で考えながら、ノラは4本の矢を手に、それを次々に撃ち放つ。


1本は眼前に迫り、避けられないはずなのだが恐ろしき動体視力によって叩き落され。そのまま駆け出すが直ぐに追撃。だがそれは首を横にずらすだけで簡単に避けられた。


3発目。横ではなく真っ直ぐに迫るシャロンに狙いを定め、放つが高く飛びあがられた。


――――そうして、無防備にも宙に浮くその身体に狙いを定めて、弦を引く指を離そうとした瞬間、空から何かが降り注いだ。


ノラは慌てて背後に飛ぶが、凄まじい速度で落ちてきたソレは避ける前にその肩に突き刺さり、それと同時に、目の前にシャロンが着地した。


烈しい痛みが全身を走る。気を緩めれば直ぐにでも矢が放たれてしまいそうなその中で、ノラは弓を構えたままで硬直する。


「どうした? 私はお前を殺す気マンマンだぞ? だったらその矢を放たなければならないね。この至近距離なら避けられないし、仮に致命傷にならなくても時間は稼げる。次弾を用意するもよし、傷を手当てす――――」


言い終える前に、弦の振動する音が聞こえて、矢は無事に放たれた。


だがしかし、予想通りにその矢はシャロンの人間離れした身体能力によってつかまれ、身体に傷をつけることすら出来ずに居た。


「避けられないけど、防げないとは誰も」


さらに一発。素早く背中の筒から抜いた矢を、またもや言葉を遮って放つ。だがそれさえも、シャロンは得意気に掴んで止めるが……。


もう1本。ノラは苦しく呼吸を乱しながら、矢を抜いて構えた。


「これで避けられないし、防げないって事になりますよね?」


両手を防がれ、さらに1メートルも無い距離。笑顔になるノラは、ソレを図っていたのだ。


「精神的には随分強くなったと認めるよ。速射も随分慣れてきたみたいだし」


手から矢を離して、両手を上に上げるシャロンを見て、ノラは大きく息を吐くと、その場に座り込んでしまう。


簡易治療イージーモード


ナイフを引き抜くと、血がどばっと溢れて更に気が遠くなるほどの痛みが走った。早急な治療が必要となったので、ノラは治癒魔法を掛けて傷を治していく。


「でも、ごめんね? まさか当たるとは思ってなかったから」


「すいません。避けられなくて」


しょんぼりとして、ただでさえ小さな身体がさらに小さくなっていくので、シャロンは慌てて訂正する。


「いや、そういう意味じゃないよ? えーっと……その、アレ……、ごめん」


困ってしまってあたふた、身振り手振りして何かを伝えようとして、結局何も言えずに謝罪するシャロンに、ノラは意地悪そうに舌を出して、


「えへへ、冗談ですよ。避けるか、撃つか。一瞬の判断が出来なかったわたしがまだ未熟だったんですから」


夜のとばりが落ち始める頃、ノラはシャロンに背負われて帰路へとついていった。

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