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1 ――鉱山都市レギロス――

「あぁどうしよう、困ったなぁ」


街をブラついていると、1人の男がそう言いながらハイドの肩を掴んだ。


「私の1人息子がクリスタル鉄鉱を摂って来ると言ってから2日ほど戻ってこないんだ。しかしあの鉱山の洞窟は恐ろしい魔物が現れるというし。困ったなぁ」


そんな魔物の巣窟となる場所へいけるんだから息子さんは大丈夫だろうとか、説明口調でよってこられてもこちとら用事があるんじゃいなどと心中呟きながら、ハイドはその肩の手を振り払い、前へ進んだ。


そうすると、


「あぁ困ったよ、凄く困った!」


そう言って首筋に延髄チョップをかましてきたので、コレばかりは我慢ならんとハイドは振り返る。


「俺も知らないおっさんに絡まれて凄く困ってます」


男の目を見てそう返すと、メガネを掛けた色白の男は驚いたように目を見開いて、


「えぇ!? 私の息子を助けに言ってくれるというのか!?」


「話聞かねーし……」


「その服装じゃ少し心許ないね。なら私の家に来て武装を整えていくといいよ」


そう言って、ハイドは直ぐ近くの武器屋の看板が掲げて有る店へと連れ込まれていき、


「取り合えず鎧だね」


銅製のやたらに重い手甲、脚甲を装備させられ、


「心臓は守らないと」


鉄の胸当てを下げられ、


「後は武器だが……」


柄がハイドの半身ほどの長さで、刃渡りが異常に広いまさかりをもたされた。


「それは戦斧バトルアックスと言ってね。私の店で一番の攻撃力を持つよ」


「一番の重量も持ってますね」


ずっしりと手の中に落ち着くソレを見て、要らんモノを……と、ハイドはそう嘆息して、仕方なく情報を聞き出した。


「取り合えずこの街についてと、鉱山の場所など」


「この街ですか。この街は――――」


――――この街は、鉱山都市で鉱山の採取量が世界随一なのである。故に、街には武具屋や雑貨屋が多く、質の良いしなばかりを取り扱っていて、それを目的に武器買い付けや、観光客などが多くなだれ込んでいるという。


そしてその鉱山は、この町の奥、谷の行き止まりにあるらしい。谷は構造的にUの字で、その中に街を作っているのだ。


驚くことにハイドが居た病院は丁度待ちの真ん中。街を見渡す塔を作る代わりに、そこにあった邪魔な山を崩さずに有効活用したというわけであるとのこと。


よりにもよってその鉱山の奥深くでしか摂れなくて希少なのがクリスタル鉄鉱。鉱山には基本的に魔物は居ないが、何処からとも無く湧いてくるジェル上の魔物が、その奥地に生息しているのだ。


「……また1人で行くとどうなるか分からんし、仲間を見つけてからでもいい?」


「今は一刻を争うんだ! ほら、ランタンと回復薬もつけるからさ!」


どこから出したのかも分からないそれらをハイドの両手に抱かせると、男は有無を言わさず店からハイドを追い出し、


「それじゃ、ファイト!」


そう激励の言葉を送って扉を閉めた。


「……ったく」


大きく嘆息して、ハイドはその重くてたまらない戦斧を肩に担ぐと、歩いてきた道を戻って、その鉱山の入り口を目指した。


坂を上り、未だ病院の中に戻らずタバコをふかしていた医者に一言、鉱山に向かうので仲間が来たらそう伝えてくれと言葉を残し、病院の裏側に有る、表同様の坂を下りて、道を歩いた。


なんら変わらぬ景色。ただ違うのは、行き止まりが存在するせいで妙な圧迫感が有るくらい。


しかし不思議と、こっちの方が店も人も多いらしかった。


――――そうして、巻き込まれた後は新たな物事は舞い込まないらしく、平穏無事に目的地に到着したのだが……。


地獄の門の如く巨大な扉は、今はすっかりその道をふさいでしまって、更に鎖で包まれ、その真ん中に巨大な魔方陣が描かれ、完全に中に入ることは出来なくなっていた。


中へと続く無数の線路はそのままだが、作業の途中で人が忽然と居なくなったという風な感じに仕上がっている。


ハイドは良く分からないままに、そこから少しはなれ、人が居る場所まで戻って手近な店の中へと入って事情を聞いた。


「なんか、鉱山の中に入れないんですけど」


「あぁ、君旅の人? それじゃ知らなくても無理ないね。あそこはなんか凶暴な魔物が入り込んじゃったとかなんとかで、暫く封鎖してあるのよ。魔方陣敷いて魔物の力を徐々に奪ってるみたいで、まだ1週間は開かないよ」


「封鎖したのっていつなんですか?」


「そうさね……確か一ヶ月くらい前かな? 別に一番大きい採取場所はあそこだけど、他にもあるからねぇ……、あれ? もしかして魔物討伐の依頼がようやく承諾されたとか?」


「いや、そーゆー訳じゃ……」


「あぁなんだそうなら早く言ってくれればいいのに。それじゃちょっと待ってて」


中年のおばさんは元気良くまくし立てるように言うと、そのままハイドだけを残して外へと飛び出て行った。


「……なんなんだよこの街は」


――――待つこと数分。今度はおばさんと一緒に若い青年がやってきた。


「へぇ、君があの魔物を倒してくれるというのか。助かるよ、ホント」


青年は言いながら、こっちへ、とハイドを例の鉱山入り口へと案内し、その巨大な扉の前まで着くと、簡単な説明を始めた。


「魔方陣が有る限り魔物は弱るが、その代わりに扉の強度が増す。その代わり、中に入ると魔法が使えなくなるよ。街の安全を考えるとこの扉を開放することも出来ないしね」


鉱山関係者の責任者の息子を名乗る『フォーン』は、背中に身の丈ほどの大剣を背負ってそれを説明した。


「だから中に入るには、この扉の脇に有る、小さな避難口しかない。ランタンは持ってるようだから……、早速行って見よう」


「え? フォーンさんも来るんですか?」


「あぁ、仕事斡旋場で承諾されなかった仕事だから知らなくても仕方ないか」


フォーンは短髪の頭を軽くかいて、


「僕が募集したのは、魔物退治をしてくれる人じゃなくて、それを手伝ってくれる人さ。その大きな戦斧を持ってるって事は、確かな実力が有るって一目で分かったし。よろしくね」


好青年である彼は、眩しいくらいの笑顔をハイドに向けて、ついでに握手を求める手をさし伸ばした。


ハイドは、どうしてこうなったと嘆息をついて、短く「よろしく」とだけ返して、しっかりと握手を執り行って……。


そうして、錆びた音を鳴らして開く扉の向こうへと、足を踏み入れていった。

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