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8 ――やさぐれゆうしゃ――

夜のとばりが消える頃。ハイドは見知らぬ土地を前にしていた。


そもそも荒野であるホリク地方自体見知らぬ土地なのだがなどの事は置いといて。


その前にするのは、砂漠であった。次第に多くなる砂を疑問に思いながらも歩いていると、気がつくとそこは砂漠のど真ん中というなんとも摩訶不思議な事態。


枯れ果てた土地。砂漠に適応する植物は数少なく。


地平線から出て間もない太陽を前にして、ハイドはようやく道を間違えたことに気づいていた。


「お日様って西から昇るんじゃないのかよ……」


愕然としてその場に跪く。魔力も切れ、右腕の痛みは既に麻痺、感覚が切れているように思われた。


氷から引きちぎった皮膚から流れ出ていた血は止まり、などなど。割合窮地に追い込まれる結果となっているハイドは、気がついたら空を見上げていた。


その身体を砂に預けて。


「……あ、今寝てた」


ボーっとして、寝ていたか、起きていたかの判断もつかない感覚をさまよって我を取り戻すと、ハイドはそんな事を口にした。


正直、体力の限界であったのだ。


「誰か迎えに来てくれないかな。なぁ、ベルセルク」


剣を地面に突き刺して、それを杖に立ち上がる。身体の節々が悲鳴をあげ、ハイドは立ち上がるだけでも呼吸を乱した。


『移動魔法使えばいいよ!』


口を閉じて裏声を出す。そうすると、不思議とリュックの中から声が聞こえたように、籠って聞こえた。


「俺今魔力切れてるんだ」


昇る太陽を背に、ハイドは再び歩き出した。


一歩、また一歩。砂に足が飲まれていくようで全く前に進まない。そんな錯覚に陥るハイドは、それでも必死に前に足を踏み込ませている。


だが、その速度は確実に下がっている。その中で、一陣の風が吹いた。砂が身体を突き刺すようにたたきつけられ、ハイドは思わず立ち止まる。


砂嵐になると思われたが、それはただの通り風だったがために直ぐ治まった。気を取り直して、足を持ち上げようとするが――――先ほどの風に運ばれてきた砂が、綺麗に足を埋めていて、そんな砂から足を抜く力が入らないハイドは、そのままバランスを崩し、砂漠へと倒れ込む。


が――――、その瞬間、左腕が倒れ込むベクトルに逆らい、何かにつかまれるように停止。そうしてそれに引かれ、身体も倒れるにまでは到らず、なんとか体勢を持ち直すことに成功した。


「付いて来ると思ったら来ないし、戻ったら何処にも居ないし。どこで油売ってると思ったら……たく」


呆れたという風に吐息が漏れた。腕を掴むその主へと、顔を上げて見ると、それはシャロンであった。


額から汗を流し、そんな台詞を吐くシャロンであったが、どこかその表情は安心したものがあった。


「ごめんなさい。反省はしてません」


「少しはしなさいな」


そう言ってシャロンはハイドのへし折れた右腕を蹴り上げた。


神経は忘れていた仕事を再開したように、その腕からは脳髄に電撃が走るが如く激痛が伝わり、ハイドは唸り、脱力。


そのまま一緒に倒れこみそうになるシャロンは、沈んだ身体を利用して、しっかりと肩を組んだ。


「分かった?」


「分かりますん」


そっぽを向いて答えるハイド。シャロンはそんなハイドに笑顔を向けて、開いた手をその右手に伸ばした。


その指先が右腕に少しばかり触れると、


「分かりましたごめんなさい」と即答するハイドがあった。


「走れる?」


「正直無理っす。あと少しで死ぬところかもしれなかったし」


「しょうがないなぁ」


嘆息しながら、シャロンはハイドと対面に、再度身体を沈めてハイドの腰に手を回し首を横腹に当てると、そのままハイドを抱えて立ち上がった。


「これで貸し1つね」


肩に担ぎ、ゆっくりと歩き出すシャロンに、


「俺を置いていったんだからチャラですよ、チャラ」


「あれ? もしかしてスネてる?」


ふふっと、可笑しそうに笑うシャロンに、ハイドは赤面した。


顔が見えない状態でよかったな、と安心すると、その安堵がリラックスを作り出し、凄まじい睡魔を作り出す。


目を必死に開けようと努力するも、ただ眼球を上に向かせるだけで、瞼は無常にも落ちてくる。


だから、ハイドは恐らく今言わなければいえないであろう言葉を口にした。


「ありがとう、ございます……」


がっくりと、そう言った直後に、ハイドは夢の世界へと旅立った。


完全に力が抜けたハイドの身体を感じて、シャロンはどこか安心する。


そうして、


「仲間って言うのも、案外面白いかもね」


ハイドの知らぬ間に、シャロンは改めてパーティに加入する決意を固めていた。

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