6 ――焦燥は窮地の母――
なんだか一日の魔物のエンカウントが妙に多く感じる今日この頃。といってもまだ一日も経過していないのである。
荒野、土属性やゾンビ・アンデット系の魔物が現れると聞いていた。というかシャロンがそう言っていたので、身体が腐り、死臭を漂わせながら迫ってくる死体や、手首から上しかない魔物などを想像していたのだが……。
現実は時に非情である。非常に。
ハイドはそう心の中で呟いて、目の前の『ソレ』を見上げた。
首が痛くなるほど高い、彫像物。一般的な街や村の展望塔に大きさが近い。しかしそれには2本の足があり、2本の手があり、頭があった。
頭は眼の有る部分に横一線の穴が開いていて、その真ん中にはルビーのような宝玉がはめ込んで有るように、紅く光っている。
腰の括れやら、腕がでこぼこしたり、肩から腕に向かって輪が一定間隔で装着させられてたり、右手に、人と比較すればべらぼうに大きい、幅広の剣が握らされていたり。
荒野の中心に聳えるそんな人型の異形の彫像を見上げながら、ハイド達はソレを避けるために迂回していた。
一般的に『魔呪術人形』と言われる怪物が居るのだが――――どうやらソレが、この巨大彫像らしい。
これほど巨大なモノを作り出すには、膨大な魔力が必要になる。勿論、維持するにも動かすにも、創造に使用したものよりは少ないが、魔力を必要とする。
つまり、これを作ったものはとんでもない怪物か、魔人か、あるいは偉大なる大魔術師様だということであった。
「コイツと戦って勝てるの!? ねぇ! どうなの! 死ぬの!?」
ゴーレムの横を通り、少しばかり離れたところで、心臓をバクバク高鳴らせてシャロンにハイドはすがりつくように聞く。
「死ぬよ。っていうか、まだあまり大きな声出さないでよ」
「了解」
肩を揺さぶる手を離して前を向く。すると、暫くしてズゴゴゴゴと凄まじい大地を揺るがす音がした。
「なぁ、何か音がしないか?」
「……気のせいよ」
「そうです。そらみみです」
そう言いながら手際よく、シャロンはノラを抱っこする。ハイドがそんな姿を見て「なんか姉妹みたいですね」というと、突如シャロンは全速力で駆け出していった。
シャロンといえば、ハイドの全速力を軽いステップで上回る素早さの持ち主なので――――その姿は、あっという間に粒ほどの大きさへと変わっていった。
そうして、ドスン、ドスンと、一定間隔で何か鈍重なモノが地面に叩きつけられるような音が大地を衝撃で揺らしていた。
「これでも空耳だとか妄言を吐くのか」
――――視界に入るからとか、音を立てるとか。そんな簡単な事で見つかるわけじゃあないらしい。有力な説では、線が引かれていて其処を踏むとか、超えるとかすると魔力が飛び、ゴーレムがその信号を受けて起動だとか、そんな感じ。
「えーっと、土属性に有効な魔法はァァァァァっ!」
ようやく、ハイドは駆け出した。背後ではゴーレムが緩慢な動きで一歩を踏み出している最中であった。
そうして一定の距離を保ち、ゴーレムへと右手を差し向けた。
「足止めくらいには……地雷設置ッ!」
サイクロプスの時と同様、その足元に小さな魔方陣が展開された。
小さいといっても、決して3センチとか、そんな程度のものではない。ゴーレムを基準にした大きさである。
そうして――――魔力が残り少ないハイドの殆どをつぎ込んだものであるのだが……。
その魔方陣を、やがてゴーレムは踏み潰し……。
ボンと、花火のような音が鳴り、その足元には小さな火柱が立った。
言うまでも無くゴーレムは無傷。一方で、魔力を使い切ったハイドは意図も簡単に疲弊していた。
理由は、得意でもない魔法を派手さ重視で選び、さらに一度使ってその威力を目の当たりにしたという信頼から放った、『炎属性の魔法』を使用したが為。
このとき、ゴーレムの弱点である『氷属性』か、ハイド自身が得意とする魔法を放っていれば結果は違っていた。少なくとも、氷属性ならば数秒は足止めできていたであろうし、得意魔法ならばそこまで疲れも無かった。
なぜこのような結果になったのか。それは、圧倒的威圧感と、仲間の不在が作り出した焦燥感。
乱れる呼吸は思考を鈍くさせ、逃げることを不可能とさせていた。
「……か、かかって来いよ……でけぇだけが能のお前なんて目じゃないんだよ!」
声が震える。腰の剣にやる手は、小刻みに振動していた。
だが――――ハイドは無謀にも駆け出した。荷物を背負ったまま、それが走る障害になっても。
心の奥底で、決めている事が有るから。
「俺は、逃げない!」
どこかの看板漫画のように『ドン!』という効果音が聞こえそうな台詞を吐いて、ハイドはゴーレムへと立ち向かった。
そうして、迫ってくる壁のような蹴りを直に受けて吹き飛ばされた。
シャロンが駆け出していった方向へと。




