5 ――メインは基本的に空気になりやすい――
ノラが活躍できずに落ち込むのを慰めるシャロンを眺めながら、ハイドはあまり考えたくも無いに思考をめぐらせていた。
今度ズブレイド帝国の奴等に見つかったら危ないんじゃないか? という事である。
両手には引きちぎった手錠がぶら下がったままの、ソレを見てふと思った。
だが、なんとなく、先ほどの戦闘で随分信頼度が増したシャロンを隣にして、まぁ、大丈夫かな、なんて考えることが出来たりしていた。
「次の街ってどのくらい掛かるの?」
不意にシャロンがそう聞いてきたので、ハイドは持参した地図をリュックの中から取り出して、
「あー……こっからここまでで1日半だから……、えーと、あと3日くらいだな。目標は……南だ。ホリク地方って書いてある」
「それじゃ魔法やら呪術に秀でた街が多いね」
「つまり、ここは科学的なモノが発展した地方なのですか?」
「そういう事じゃないけど……まぁ、強いて言うならオールマイティな方面かな。科学もあれば魔術もあるって意味で」
「随分詳しいんだな」
地図をリュックに仕舞いながら、何気なくそういうと、シャロンは困ったような笑顔になった。
「傭兵だからね。一応。歩きまわってるのさ」
「それでうっかり4年に1度、大陸を統べる女王を決める闘技会を開催しそうな大陸に捕まっちまったのか」
「少し黙ってた方がいいね、君」
そっぽを向かれてしまった。どうやらやぶへびだったらしいと、ハイドは反省して前を向く。
すると、どうやら森を抜けるらしく、数メートル先は眩い光に包まれていた。
「南という事はあったかいのでしょうね」
「暖かいっていうか……」
やがて森を抜ける。鋭い日差しを全身に受けた其処は、暖かいというより寧ろ暑かった。気温が基本的に高いのである。
周りを見ると、見たことも無い植物が聳えている。縞々模様の樹木に、大きな葉が幾枚か垂れるだけ。あとは適当な雑草がまばらに生い茂っているのみであった。
そもそも自然の少ない其処は、荒野であった。全体的に薄茶色の土が露になる景色。色気の無いそこは、確かにホリク地方であると、森の近くに看板が立てられていた。
次の街まで50キロと、丁寧に書かれているのを見て、ハイドはこりゃ難儀だなとうな垂れた。
「食料の補給とか大丈夫? まぁ、大丈夫じゃなくても進むしかないんだけどね」
「最低でも4日分はあります。大丈夫です」
「最低でも半日分はあります、ダメかもわかりません」
対象的なハイドとノラ。優秀な回答をするノラと、分かりきっていたような答えを口にするハイドとを交互に眺め、シャロンは嘆息する。
「というか、君なんじゃないの? 実質的なリーダーは」
「俺リーダー格なのに誰もいう事聞いてくれない」
「……なんかごめん」
「感覚で謝らないでくれっ!」
そんなこんなで、熱く苦しい荒野の旅路が開始したのである。