第1話『要らぬ勇者の存在価値は』
勇者――――それは誰もが憧れる存在。
身体能力、扱える魔法の数々、全ては平均的。だがそれらを圧倒するカリスマ性があった。
人々を魅了する何かがあった。何かしら、きっと、どこかに……。
「お前には何も無いがな」
白い髭を蓄え、偉そうに冠をかぶって玉座に腰を掛ける初老の男は、確かな権威を持つ国王であった。
――――広大な土地を有する国家、『ロンハイド王国』。特産物は香辛料。歩いて2日、馬車で半日掛かるお隣『貿易都市ハクシジーキル』と仲が良く、そのために発展していた。
そしてその他にもう1つ、このロンハイドが有名で且つ信頼される国家である理由があった。
それは――――勇者の故郷であることだ。
その昔、魔王と名乗る大層悪者がいたそうだ。だが敗れた。それは勇者によって、至極ご都合的に。
魔王を倒したその者は、それから勇者と呼ばれた。その勇者の故郷が、このロンハイドであった。
それから、血が絶える事も、分かれることも無く、この地に定住する勇者の血。
数百年、あるいは千年ごとに現れる大悪党を倒しては、また安息を手に入れる。それは全て勇者の仕事であった。
「だけど俺には勇者としての力がある!」
跪きながら高らかに叫んだ少年。名は『ハイド=ジャン』。この世界では名字が先に来る。ハイドは代々継がれる勇者の名。因みに国の名前は其処からちなんで名づけられたというわけではない。
ハイドはよく、『あ、ハイドじゃん!』なんて呼ばれることを快く思っていないので、たとえ親しい間柄の友人同士でも、『ハイド』と呼ぶように強く言っていた。『ジャン』を強調させると『ジャンじゃん!』なんてよくわからない事になってしまうための妥協案である。
稀に『ジャンハイド』とよくわからない、業界用語風の呼ばれ方もするが、兎も角名前で弄られるのが苦手なハイドは怒り狂うのである。
「力を使う機会が無いのならば全ては無駄なこと、寧ろソレは、危惧すべき存在になりうるのだが、勇者の名に於いてそのような不躾且つ恩知らずなことは出来ぬゆえな。放っておくが……あまり無茶と問題行動は控えるように。ハイドちゃん」
「ハイド=ジャンです、王様」
「うむ」
気にしないといった風に、豊富な顎鬚を撫ぜる王に、内心溜息を吐きながら、深く頭を下げ、ハイドはその場を後にする。
――――これで5度目になる国王への呼び出しは、その事如くの理由がハイドであった。
ある日街に入り込んだ魔物を退治した。だが派手すぎる勇者の技のせいで、街には魔物が危害を加えた以上の被害が出た。
ある日、魔物に襲われていた子供を救った。だが魔物を無意味にひきつけすぎたせいで魔物は子供へと攻撃。子供は全治一週間の軽い怪我だったが、烈しい非難を買った。
――――そして今日、今回は最も真っ当な『魔物退治』であった。
街から少しばかり離れた洞窟に住み着いた魔物が、悪さをしに街の周囲をうろつくので退治をして欲しいという依頼を受けて洞窟へ。
そこで言われたとおりに魔物を退治して戻るが――――ハイドはまたもや街の人間から非難された。
その理由は、洞窟の魔物を退治したせいで天敵が居なくなった魔物が出てきて、農夫が怪我をしたというものだった。
いくら何でも、それは横暴だと言い返そうとしたが――――今までの、完全なる過失が脳裏を過ぎり、ハイドは何もいえぬまま、やがて衛兵に連れられ、国王の下へとよこされたのだ。
「うわ、もう出てきたよ才能の無駄勇者が」「今回はホントに何しにいったんだろうね」「脳筋だからしょうがないよ」
門から一歩、外へ出て、街の視線を集めた途端にコソコソと、ハイドに対する悪口が紡がれ始める。
ハイドは何も言い返さず、また何も言えずに、俯き、帰路へと付く。
すぐ近くに自宅があった。だが、大分前からそれはハイドが寝泊りする家ではなくなっていた。
ただ両親が平穏に済む家。
ハイドは周りの、自身に関係する誰にも迷惑をかけないように、自立をしていたのだ。
生暖かい風が吹く中、ハイドは自宅を一瞥もすることなく素通りする。
何故だか――――胸が烈しく痛むのを感じて、ハイドは無理に、前を向く。
まだ青々とした空。透き通る空には、雲ひとつ無い。そうして頭上へと視線を向けると、青紫に変色。
立ち止まり、振り返ると、西日は紅く染まりあがっていた。
「さて、次は何をして勇者の必要性を証明するかな」
ビキビキに笑顔を引き攣らせ呟くハイドは、周りの視線を気にすることなく、寝泊りする自宅へと足を向けた。