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9 ――決着――

――――白く、ただ白く染まる視界。気がついたらソレだけを見ていた。


他には何もない。音も、白以外の景色も何も存在などしていない。


身体があることは分かる。だがそれを視覚的に確認しようなんて考えは思いつかない。ここがどこであろうかとだけ、ハイドは疑問に思っていた。


身体はふわりと浮くような感覚。そんな中で、不意に頭の中に音声が流れた。


『敗因は単純なる経験の差。そして何より――――信念が無い、故に本来の能力ちからを発揮出来ないから』


――――……詳しく。


脳内に鮮明に流れる、透き通るような、男とも女とも取れるその声に、ハイドは疑問をぶつけることなく詳細を聞こうと、強く念じる。


すると、それに応じたように、答えが返ってきた。


『敵が強すぎると買いかぶったのは経験が無いから。敵は確かにある程度強いが、その力を持って冷静に見極めれば少なくとも死亡まけることは無かった。そして、元よりもつその異常な程の力についてはさておき、信念について』


――――正義とか、自分の考えだとか……、そんな感じの?


『生半可な気持ちでは、強く信念を持つ相手に打ち勝つことは出来ない。敵を上回る力があったとしても……。試合に勝って、勝負に負けたというようなものだ。だが今回は程よい力試しになっただろう。これからの旅は、自分が何のためにあるか、見つけるものとするがいい』


――――俺は、この時代には必要の無い勇者そんざいですが。


『勇者として生まれ持つ存在意義が無い。ならば、貴様の、ハイド=ジャンとしての存在価値を見つければ良い――――さぁ目覚めろ、生命の灯火が絶える前に』


ソレが、そう言うと――――ハイドの意識はフッと薄れていく。慌てて最後の質問を、脳に強く念じようとする前に、相手に、名も姿も知れぬ相手にソレが伝心したのだろう。意識が完全に無くなる直前に、それはハイドへと伝わった。


『お前は私だ』


やがて、プツリとハイドは意識を失い、純白の世界は暗転。深淵なる闇の中へとハイドはやって来て……。


――――基調ベースはお前かよ。


なんて突っ込みを寝起き一発、心中でかました。


「うぐっ!? ……そう、か」


全身に迸る激痛。大きく目を開けるが、ぼやけたままの視界は深い闇を映し、身体は異常なまでの寒さと痛みを感じていた。


時間は少しばかり経過したようだが、まだハイドの命は絶えていない。そして、僅かに眠ったせいか、その身体にはわずかばかりの魔力が戻っていた。


自然回復と、『収縮式・雷槌トールハンマー』を放った後の分散した魔力を吸い取った結果だろうと、ハイドは納得する。


傷を治すには十分な魔力量を蓄えているので、ハイドは早速と、命が尽きる前に魔法を唱えた。


「海よ。大地よ。神と、その他諸々の優しい人たち。俺に少しずつ元気を分けて傷を治してくれ」


例によって、身体は淡く光だし――――瞬く間に傷は塞がり、痛みは消える。ぼやけた視界は幾分かましになったが、流れた血は戻らないために、割合ピンチであった。


ハイドはよろけながらも立ち上がる。元気は無いが、元気良く背筋を伸ばす。服が穴だらけで寒いが、この際それを気にする余裕は無かった。


視線を下げる。すると、其処には案の定倒れたままのカクメイがいた。


そこから辺りへと、視界を広げると――――狭い円形の焼け野原が出来上がっている。カラスや魔物に、身体を食われずに済んだのはこのお陰だったらしい。


傷は治っても体力は戻らない。しんどい体のまま、屈んで、カクメイの肩を大きく揺さぶった。


「おい、起きろよ。夜だけど起きろよ……ん? し、死んでる……」


静かに呼吸を繰り返し、気絶しているだけらしいカクメイを見てそういうが――――いくらダメージをハイドに全て受け渡し、無傷の状態とはいえ、ハイドにとっての『必殺技』を全力で放ったのだ。


生きているという事にしぶとさと、強靭さ、そして、『敵を買いかぶりすぎた』なんて言葉に疑問を持ちながら、ハイドはカクメイを起し続けた。


「ぐ……だ、誰だ……」そう言いながらうつ伏せの身体を起して、ハイドを見る。そうして、カクメイは驚き、膝と手を地面についた状態のまま、器用に大きく飛びのいた。


そうして、その衝撃で身体に痛みが走ったのか、カクメイは唸って、その場に座り込んだ。


どうやら虫の息の一歩手前、という事らしい。ハイドは安堵の息を吐いて、立ち上がる。


月の灯りが辺りを照らす。ソレによって、カクメイはハイドの全快を知り、言葉を失って焦点を定められずに居る。そんなところで、ハイドはお構いなしに言葉を投げた。


「俺の負けだ。あらゆる幸運が重なって命があるが、負けは負け。だが死ぬ気はない。そして死に掛けのお前に止めを刺すつもりもない。一度負けたのにそんなんは卑怯だからな」


「……ッ、甘いぞ、ガキが」


途切れ途切れに、息苦しそうに返すカクメイ。少し前の勢いの良さと圧倒する恐怖を一蹴した姿を見せるカクメイに、


「まぁ、お前に殺された5人にゃ悪いが、知らん人だし」


ハイドは辺りを見渡し、狭い焼け野原の外に肉の塊を発見する。そこへと歩きながら言葉を紡ぎ、そうしてソレを拾う。


それは、ハイドの右手、親指より上の部分であった。切れ口の方がグチャグチャに、そして現在の治療技術では結合することは不可能な時間が経過していたが……。


「すごく癒し給へ。そしてくっ付けた給へ」


無くなった右手の其処へとつける。そうして光を放ち続けるのを確認して、ハイドはカクメイのもとへと戻っていく。


「魔族には、掟がある。それは相手に情けをかけられた場合、もしくは勝負に負けても尚息が続いていた場合、自決しなければならないのだ」


プルプルと震える手を、言いながら首元へと伸ばす中で、


「それじゃお前は自決する必要は無いな。俺はお前に情けかけてるわけじゃないし、そもそもお前は勝負に勝ったじゃネーか。話聞けよカス」


不意打ち気味に勝負しかけてこの展開はちょっと意味わかんないな、なんて冷静に考える頭の一部に感化されながら、ハイドは背を向けてハクシジーキルへと歩き出す。


「俺を殺したければ殺せよ。お前が死ぬのは勝手だし、生きるのもどうでもいい。お前の相手は、俺にとっちゃ少しばかり敷居が高すぎるんでな」


ただ1つ残る心配事は――――あれほど啖呵を切ったのに負けて帰ったら、ひょうすべとその他大勢にどんな目に合わせられるかという事である。


このままホントにトンズラするか。そんな事を考えていると、座り込んでいた気配が大きく動いたことを感知した。


「……貴様とは、意見が合わん。無論交わす気など最初ハナから無いがな」


ズサ、ズサ、と足を引きずる音が、ハイドへと近づく。


「俺はお前とは戦わないと決めたんだ。初めて心に決めた信念くらい、貫かせてくれよ」


「断る。勝負とは、どちらかが死んで初めて勝敗がつくのだ!」


翼がばさりと、風を切る音が聞こえると、その気配はすぐ背後うしろへと迫った。


ハイドは結合中の右手を支える左手を離し――――右手で剣を抜き、振り向き様に一閃放つ。


その刃に重さが加わり、何かを切っているという確かな感触が合った。それがカクメイの首だと認識できたのは、切り離されてカクメイの頭が斬撃による衝撃が加わった方向へと飛んでいってからだった。


身体は直ぐに落ち、鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。ハイドは痺れたような感覚が残る右手の違和感を感じながら剣を収めて、溜息をついてから、


「馬鹿野郎が……」


カクメイに対して、あるいは自身に対して放ったのか。自分でも分からないその言葉を呟きながら、ハイドはその場に立ち尽くした。

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