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2 ――帰郷――

東の大陸に来て一ヶ月と少しが経過した。季節は夏。倭皇国ならば季節感は顕著なものとなり、それをいい具合に味あわせてくれていただろう。


「おい、本当にもう帰っちまうのかよ……」


八月も半ばに入り込む。その日はまだ朝故に涼しかったが、やはり外に出ていては汗ばむほどの気温である。


日は経って、今日はウィザリィの傭兵団と共にハイドらは帰国する予定であった。一方通行の魔法陣は、行きと帰り、両方作っておくことにより行き来を可能とする。


最も、使用する魔力は莫大なモノで、しかも一度起動すれば魔力を流し続けなければ消えてしまうため、実質使い捨ての魔法陣であった。


見送りに来るのは、アルセとアンリ、それに運良く戦争から生き残った兵たちである。


「ああ、お前等もこれで清々するだろ。よかったな」


寂しそうに俯くアルセに、何か言いたそうに顔を下に向けるアンリ。


並ぶ兵達はそれぞれ無造作に別れの言葉を告げて、それらが収まる頃、一行は魔法陣の中に入り始めた。


街の外で展開されている為に強い明滅や衝撃によって何かに危害を及ぼしたり迷惑をかけたりすることが無い。


だからメノウは思い切り魔力を注ぎ込んで、ソレを起動する。


と、同時に、アンリが顔を上げて叫び始めた。


「今まで申し訳なかったっ! ま、また来るんだぞっ! 来なかったら――――」


魔法陣の外周が光を放ち、巨大な光の柱が出来たように彼等の姿は遮られた。


短い彼女の台詞は良くハイドの胸に届き、また光の中で誰かの声が聞こえたが、残念なことにソレは何を言ったのか分からなかった。


一瞬――――意識が途切れたかと思って眼を開けると、既にそこは懐かしい荒野であった。


鉱山都市『レギロス』の前の荒野。そこは魔導人形の定位置である。


「着いたか。実感ねぇなぁ」


大きく伸びをしてハイドは声を漏らし、それからその場を離れる。気がつくとその前にも同じような魔法陣があって、ウィザリィの傭兵達は皆そこに集まって行く。


その場に残るのは、フォーンとハイド一行だけであった。


既に別れの言葉は交わして在る故に、何も言わず、彼らは再び光の中に包まれ――――そしてその場から姿を消した。


あっという間の出来事過ぎて、本当にそこに人が居たのかと脳が錯覚する。


ハイドは疲れているのかと思って首を振ると、


「街に寄っていくかい? 多分皆、歓迎してくれると思うけど……」


フォーンはソレを察したのか、そう声をかけてくれる。


だがハイドは一刻も早く国に戻りたかった。今更、既に新たな王に掌握された後なので急いでもゆっくりしても然程変わることは無い。


それでも、立ち止まったらいけない気がするので、ハイドは首を振った。


「いや……、でも、また来ますから。きっと」


頭の中はいつになく落ち着いている。だからこれ以上止まっていると歩き出せなくなりそうな気がして、ハイドはそのまま背を向け歩き出す。


シャロンとノラはそれぞれフォーンに会釈だけして、彼についていった。


――――彼等は森の中へと突入する。そこを抜けて少し歩けば貿易都市へ。そしてまた数日歩けば、すぐにロンハイドである。


早くも四ヶ月になる旅路はものの数日で帰郷することができて――――それも成長なのかなと、ハイドは冗談っぽく思っていた。


「ムゴゥッ!」


すると突然、森の脇から一つ眼の巨人――サイクロプス――が棍棒を手にして道へと飛び出てきて、


「ムギャ――――」


不意に消えるハイドの直後、一瞬にしてサイクロプスの眼前まで彼は移動して、鎌が一閃。鋭い切れ味のソレは難なく首を刈り取っていき、ソレは叫び声を上げる暇も無く地面に崩れていった。


シャワーのように首から血を噴出し、また刹那に元の位置に戻るハイドは、血に濡れた刃を振るいながら呟いた。


「なんか、『死神のハイド』的な肩書きが欲しいですよね」


ソレ以外には魔物の気配は無かった。それを確認しながら、道をふさぐ巨体を避けて歩いていると、シャロンが少し考えてから口を開く。


「疫病神のハイド」


「いやだよ、厄介ものじゃねーかよ」


やれやれと息を吐いて、妙な事は口にしないでくださいと、いつものように注意するハイドに、彼女等は安心したように、それぞれが言葉をかけ始めた。


真剣そうで、だがどこか抜けているようなハイド。今回ばかりは気を抜かずに真面目を通すのかと思っていたが、いつもの彼だと分かって安堵するのだ。


――――そうして数時間後には貿易都市に。


食料だけ調達したら、彼等は休みもせず道を進んだ。


日はまだ高い。これならば明日の朝には到着しているだろう。そう思いながら、飛びかかってくる狼を蹴散らし――――カクメイを倒した雷槌の跡がすっかり消えている道を歩く。


夜も休まず、少しばかりの休憩を置くだけで進んで――――予定より早い夜更けに、一行はたどり着いた。


王国ロンハイド。元祖勇者の母国であり――――現在は恐怖政治に陥っているらしい国。


彼等は二人いる門番をどうしようかと思考してから、行動に移った。

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