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17 ――魔族と魔人――

巨大な地面のうねりがあった。


凄まじい大爆発があった。


恐ろしい攻撃の手は止むことが無かった。


切り離されたはずの腕は、細胞を生物だと認識する事によって結合され、ペガサスから降りた魔族ハイメイは彼等に脅威を与えていた。


「私は魔王を継ぐぞ、勇者。そして、貴様のすべき事はわかるな?」


幸い、実力に一抹の不安が残るアオ、アンリ、イブソンの三名はその場から失せている。だがしかし、だからといってハイメイに相対するに当たって十分な戦力だとは言いがたい仲間たちであった。


決定的攻撃力に欠けるのだ。手数が足りないのだ。そして何よりも、


「世界の半分を寄越すなら手下になってもいいぞ」


勇者からの信頼が致命的なまでに無かった。シャロンを除いては。


そんな発言にソウジュらはハイドとハイメイ両名を視界におさめながら、警戒を一層強めると、ハイドの横にいるシャロンは思わず噴出し、高らかに笑い始めた。


「ふふっ、いや、でもさ――――彼にそれほどの力はないでしょうに。そんな酷な事を言っちゃダメよ」


――――なるほど、彼等がそうホッと息をつく。ただの挑発かと、ようやく理解できるのも束の間、今度はハイメイの肩がクツクツと震え始めて、


「今度のは、随分と柔らかい奴だな……ァァッ!!」


咆哮に応じる魔力は波動のように辺りへ広がっていく。衝撃波にも似るソレだが、魔法へと具現化されていない状態ではいわゆる威圧と同程度である――――のだが、それは異常なことに、大気を揺るがし始めていた。


声を出す暇も無く、ハイドはその頭を掴まれると――――瞬時に、魔力の振動は収まって、魔族はいやらしく、口角を上げた。


「……お前、本当に人間か?」


凄まじい力が、優しく頭を包み込む。頭蓋骨が今にもつぶれそうな中で、頭の中が妙に冷静になっていく自分に気がついた。


「まぁいい」


呟くと同時に、彼の魔力がハイドを覆っていく。肩の弾みは腕へと伝わり、襲い掛かる痛みに緩急をつけていた。酷く、僅かなモノであるが。


視界が――――紅く染まる。一瞬にして痛みなどが消え去るのだが、それと一緒に、心の中の、感情の一部が欠落したような感覚を受けた。


ソウジュらのどよめきが耳に入る頃には、頭を掴んでいた手を離され、嫌らしく微笑んでいるハイメイが居た。


「お前、本当に人間か?」


同じ質問が降りかかる。妙に落ち着いた声に戸惑うが、ハイドは迷わずこたえて見せた。


「おいおい、人間なんて恐ろしい生き物と一緒にしてくれては困るな。勇者おれ魔族おれを肯定した。だからこそ生まれたんだ、この魔人オレがなァッ!」


「道理で、洗脳が効かない訳だ」


「俺俺ウルセェ裏切り者ッ!」


「そうか……貴様等は同胞グルで、中と外から滅ぼすつもり――――」


等と、間も無くハイドは四面楚歌となりはじめていた。


事情を知らぬものはこのような思考に陥る。勇者など、身体的特徴も証明書もないような曖昧な存在は、実力さえあればどうとでも言えるのだ。


だが魔族は一見して直ぐに分かる。だからこそ、直ぐにこのような事態に陥ることが出来た。


もしハイドが、彼等に信頼を寄せていたらどうなっていたか――――すぐに分かる挫折を想像し、ハイドは息を吐いた。


「別に良いんだけどさ、始めない? そろそろ」


「ああ、分かった」


同時に放たれるそれぞれの拳は、瞬く間にその顔面に吸い込まれていき、故に巻き起こる衝撃波は両者を後方へと吹き飛ばしていった。


「――――コレを見て、頭の良い君たちなら、どうすべきかわかるさね?」


シャロンは斧を担ぎながら優しく二人に声を掛けた。ただの拳が、相手に地面を抉らせながら吹き飛ばすほどの威力を持っているのだ。これで分からなければ頭のネジが足りぬことになるし――――そもそも、そんな余裕も力も、彼等は持ち合わせていなかった。


「……しかし――――」


「言いふらすも心に仕舞っておくも君らの勝手。さあ、帰った帰った」


手を振る中で、巻き起こる砂塵の中から同時に飛び出す影があった。


シャロンとソウジュらの間で、それらが繰り広げられ始める。


大きく振り下ろされる鎌は地面が突出して出来上がるキリを裂いて、その隙にハイメイはハイドの腹にその攻撃を打ち込もうとするが身軽に、錐に食い込む鎌を支点に背後へと回るハイドによってやむなく中断され、同時に、流れるように鎌の刃が首へと迫った。


すかさず機敏にハイメイは顔を後ろへと下げると、すぐそこにあったハイドの顔面を強打。僅かに緩む速度を見てそこを抜け出すと、ついでハイメイは行動に出る。


ハイドに触れるか否かの所で手を止めると――――大気が圧縮され、急加熱。瞬く間に巻き起こる爆発にハイドは飲み込まれ、衝撃に耐え切れずに宙へと舞い上がった。


ハイメイは追う様にしてハイドへと手を向ける。大気はその手の中で圧縮されては、弾丸のように弾き飛ばされていた。


ハイドは鎌を振り回してソレを弾き返す。だが形の無いソレは、一方的に鎌に衝撃を与えているだけであった。


だから――――。


活火山バーニングショットッ!」


身体の周りに炎の弾丸を作り出し、ソレを打ち出す。押されて上へと上がるだけであった身体はようやく下降し始めて、だが降り立つ大地は煙に満ちていた。


また大地が蠢き、錐が突き出る。それに押されて煙が晴れて――――ハイドは大きく鎌をふるって、その胴部分から切り裂いた。


石が真っ二つに、綺麗に両断され、何十と作られるソレは、作られるたびにその存在意義を失っていった。


――――息を呑む暇も無く、瞬きをする余裕が無い。


かくして外野へと回る二人であったが、彼等の足は止まることなく後退していた。


「もう――――準備運動ウォーミングアップは済んだかよ」


ハイドが鎌を肩に担いで冗談めかしく言うと、ハイメイはニッコリと笑って、


「殺すぞ、お前」


今までに無い殺気を迸らせていた。


「ああ、本気だったのね」そう言うハイドも本気であった。本気でやらざるを得なかったのだが、全く持って太刀打ちできないでいるのだ。


「お前、名前は?」


既に存じているはずの勇者の名を聞くハイメイ。その行動は彼を認めた事になる。その強さや、人格。全てを、一つの存在として、本来見下し虫と同義する人間に対してそうする行為は、名誉あることなのである。


「ハイド=ジャン。お前は?」


理解しているはずの魔族の名を聞くハイド。その行為は特に理由など無い。だがなんとなく、その口から聞いた方が良いと思っただけである。


「ハイメイだ。なら、ジャン――――貴様を、殺す」


「殺せるもんなら殺してみやがれって――――」


言葉を遮ってハイメイはハイドへと飛び込んだ。腕を突き出し頭を掴もうとするが――――振りぬいた鎌はそんな行動を完結させる前に腕を切り裂いていた。


はずだったのだが。


直ぐに結合し、それは思惑通りにハイドの頭へ。そして手と頭の隙間に超高熱が集中し始めた。


先ほどの、ハイドを宙へ弾き飛ばされた際の爆発を上回る高熱。いとも簡単に核は溶け始めて――――全てを巻き込まんとする爆発はそこを中心として巻き起こっていた。

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