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097話 脱走

 

 一緒に生活するなかには、さらにデオという変わった魔導人形もいた。


 リナが制作した魔導人形だったが、他の魔導人形とは性格が全く違っていた。デオは穏やかで知性的で、カズヤたちにも友好的だった。


 リナは、そのような魔導人形をたくさん造りたかったのだ。



「カズヤさん、おかえりなさいませ。こっそり夜食を用意してあります。奥の部屋で隠れてお食べください」


 親切なデオは、腹をすかせたカズヤの世話を焼いてくれていた。他の魔導人形とは違い、優しくて思いやりがある。



 デオがなぜこんな魔導人形になったのか、かつてカズヤはリナに尋ねたことがあった。


「乱暴な魔導人形が悪い訳じゃないよ、作った人間が悪いの。創造されたばかりの彼らは赤ん坊よ。戦争ばかりしている人間たちは、魔導人形に平和で明るい世界を見せられているかしら?」


 リナの問いかけに、カズヤは返答できなかった。



「魔導人形を戦争で使うために作り出して戦場に送り出す。そんな環境で知性を持ったって、心優しい魔導人形になる訳ないじゃない。


 デオにはそんな魔導人形にはなって欲しくないの。自分の子どものように愛情をこめて接すれば、魔導人形にも愛情や優しさは伝わる。そんな魔導人形が増えて欲しいのよ」


 リナの言うことは、もっともなことのように感じられる。なぜなら、そうやって育てられたのがデオだったからだ。



 そんなカズヤは、スクエア内で言葉を覚え出した頃から、意外な才能を発揮し始めた。


 それは魔導具造りだった。


「この世界には魔導具なんて物があるけど、日本と比べると遥かに数が少ないな。もっと便利な物があるといいのに……」


 この世界では、生活を少しだけ便利にするために、わざわざ魔導具を使うという発想が少なかったのだ。



 たまたまリナが魔導具造りの方法をカズヤに教えると、カズヤは日本での知識を生かして次々と新しい魔導具を作り出した。


 もちろん複雑な魔導具は作れない。しかし、ちょっとだけ生活が快適になるような魔導具を作ったのだ。



 その中でも、スクエア内で急速に広まったのが、光量を調節するランプや魔石を使ったアイロンやケトルだった。


「……カズヤくん、この前作ってもらったアイロンとかいう道具は、とても助かるわ。ここで着ている服の素材は悪いけど、アイロンを使ってピンと伸ばすだけで気持ちに張りが出るわね」


 カズヤが造った魔石アイロンの試作品を使ってもらうと、衣料や洗濯を担当している女性から感謝された。



 カズヤにとっては些細な発明だったが、この世界では誰も知らない知識だ。


 魔法という便利な概念がある世界だというのに、生活の知恵のようなものは所々抜けていた。



「カズヤ、この前作ってくれた魔石ケトルって魔導具はすごく便利だな。ちょっとお湯を使いたいときに最適だ。料理をつくるときの手間が省けて感謝してるぜ」


 料理担当の男性がカズヤにお礼を言う。


 不自由な生活の中でも、生活が少しでも快適になるのはカズヤにとっても嬉しかった。



 カズヤの魔導具は構造が単純なので、複製するのも簡単だ。


 スクエア内で一気に広まったかと思うと、さらに魔導人形の上にいる人間がそれを目にして、外の世界へ持ち出して金儲けを始めたのだ。



 簡単で便利なカズヤの魔導具は、すぐに周辺国へと広まっていった。


 しばらくするとカズヤは、スクエア内で土魔法使いと同等の立場として扱われるようになった。



 そのカズヤの平凡ながらも地道な行動は、いつしかスクエア内の人間たちの信用も集めていたのだ。


「カズヤくん。これについてどう思う?」


「カズヤさん、ちょっと話を聞いて欲しいんだけど……」


「おい、カズヤ。この荷物はどうしたらいいんだ?」


 気が付いたらカズヤは、スクエアの収容所で半年以上過ごしていたのだった。



 ※


 ある日、思いつめた表情のムルダが、作業後のカズヤに話しかけてきた。


「……カズヤ、俺たちはもう限界だ。このままスクエアで死んでいくのは我慢できない。仲間と脱走を計画しているんだが、お前も参加するか?」



 魔導人形には聞こえないように、小さな声でカズヤに尋ねた。


 人間を見張っている魔導人形には自我があるが、知能は決して高くはない。


 人間たちが命令通りの作業をしているかを監視しているだけなので、話の内容までは理解していないことが多かった。



「……そうか、たしかに俺も限界だ。こんな生活がずっと続くのは耐えられない」


 魔導具造りで少しばかり生活が改善されたとはいえ、根本的な不自由さは解決されていない。


 日本で生まれ育ってきたカズヤにも限界が迫っていた。



「それなら、カズヤからピーナに協力を頼むことはできるか? 彼女の力があれば成功する可能性が高まる」


「分かった、ピーナとリナにも相談してみるよ」



 居住区に戻ったカズヤは、さっそく脱走計画について相談した。


「そろそろ皆が我慢できなくなる頃だと思っていたの。私は脱走できないけど、皆のことは応援するわ」


「……おばさんは一緒に逃げないの?」


 ピーナが不安そうな顔でリナを眺める。



「私はここで特別扱いされているから大丈夫。でも、その分警戒されているから、私が逃げ出そうとすると皆に迷惑をかけてしまう。ピーナもいつまでもここで生活する訳にはいかないだろ? カズヤたちと一緒に逃げた方がいい」


「分かった……でも、必ずおばさんを助けにくるからね!」


 ピーナは渋々うなずきながらも、リナを必ず助けにくることを誓った。



 そして、ついにカズヤとピーナ、他の奴隷の人間達は魔導人形の都市から脱走を試みる。


 ピーナと雲助がスクエアの裏門を開けると、皆が一斉に外へ飛び出した。


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