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095話 異世界転移

 

「……なんで儂らが、小僧を助けなきゃいかんのじゃ!」


「カズヤ。お前の周りでは、相変わらず面白い出来事が起こるな」


 カズヤの話を聞くと、ゼーベマン伯爵は不満そうに大声をあげ、シデンはトラブルを楽しむかのように笑った。



 さいわい黒耀の翼は、セドナから国境を越えてほど近い街に滞在していた。そこに皆でおしかけたのだ。


「小僧なんかを儂の魔法で治してやる義理はないのじゃ。……それより、ステラ。またこっちに来る気はないかの?」



 カズヤに対しては上からの物言いだが、ステラになると途端に祖父のような口調になる。


 ステラがパーティーから抜けた時に、わめきながら文句を言っていたのが嘘のようだ。


 しかし、ステラはゼーベマンの話にはいっさい興味を示さずに、黒妖精族のリオラの翼をそっと撫でている。これが以前の日課だったのだろうか。



「記憶の魔法か。リオラは使えるはずだろう?」


「使えます。シデン様」


 大きな黒い翼を持つリオラが答える。


 同じパーティーの仲間でも、シデンに対しては普段から敬語を使っているみたいだ。



「面白そうだから治してやれ。何を思い出すのか俺も聞いてみたい」


 うなずいたリオラがカズヤの前に立つ。


 身体をこわばらせながら座るカズヤの目の前で、長い呪文を詠唱し始めた。


 記憶を回復する魔法なのだろうか。初めて受ける魔法にカズヤの緊張が高まる。



「……ぐ、あああっ……!!」


「カズヤ、大丈夫!?」


 苦しむカズヤを心配したアリシアが、思わず声をかける。



 まるで頭の中を掘り起こされるような感覚が襲ってくる。


 今まで味わったことのない、頭の中をいじられるような不快な感覚だ。魔法が脳の奥へ奥へと入ってくるのが分かる。


 カズヤは頭を抑えて苦しみだした。



「こんなに強力な魔法は初めてです……」


 リオラが額に汗を浮かべながら詠唱を続ける。


 そして、しばらく続けていると、カズヤの頭の中に、突然覚えていなかった大量の情報があふれてきた。



 見たこともない景色、聞いたことのない言葉……。


 奥底に隠れていた数多くの記憶が蘇ってくるのが分かった。散らばった断片的な情報が、あちこちから湧いてくる。


 カズヤは、苦労しながらひとつひとつ整理する。



「そ、そうか。思い出してきたぞ。俺は……」


 ようやくカズヤは、この世界に転移してきた時のことを思い出したのだ。




 *


「……どこだ、ここは?」


 目を覚ますと、カズヤは見知らぬ森の中に寝そべっていた。



 辺りを見渡しても見たことがない景色で、植生や天体も元いた世界とは大きく異なっているように感じる。


 昨晩、カズヤはいつも通り、仕事から帰ってきた後にテレビを見ながら寝てしまったはずだ。


 自分の服装を見ると、いつもの寝巻のスウェットの上下を着ていた。



(ひょっとして、これは異世界転移ってやつか?)


 大好きだったアニメの設定を思い出して、カズヤは思いつく限りのお約束のワードを叫んでみる。



 しかし、何も起きない。


 特別な能力も、特別な武器や防具も持っていない。日本でも特別な能力を持たない平凡な男が、ただ単に知らない世界に飛ばされてしまったのだ。



 カズヤが途方にくれて森の中でたたずんでいると、遠くからこちらへ向かってくる足音がしてきた。


 あわてて木の陰に隠れて様子をうかがうと、やってきたのはほぼ人間と同じ大きさの奇妙な4体の人形だった。


 外観は、人間の形を模して木や石で作られていて、肩やひじの一部が金属でできている者もいる。


 全員鎧をまとっていて、手には剣を握っていた。



 不気味な異形の姿を見たカズヤは、動揺を隠せず思わず逃げ出そうとしてしまった。


「※※、※※※※!」


 先頭にいる人形が大きな声をあげると、素早く他の人形たちがカズヤを囲い込んだ。



 何の能力も持たない非力なカズヤは、なすすべもなく捕えられてしまった。


「お前たちは誰だ!? 俺をどこに連れて行くんだ?」


 カズヤの問いかけに、人形たちは無反応だ。


 手錠をつけられると、カズヤは人形に付き添われて連行されていった。



 しばらく進むと、今度は鎧をまとった兵士たちとすれ違った。今度は間違いなく人間だ。


「た、助けてくれ!! 奇妙な人形に捕まったんだ!」


 日本語が通じるとは思わないが、カズヤは必死に助けを求める。



 しかし、兵士たちはカズヤの言葉に全く興味を示さない。


 むしろ、どちらがカズヤを連行していくのかを、人形たちと話し合っているように見えた。



 結局カズヤは、人形たちに手を引かれて連れて行かれてしまう。


 離れる際に兵士たちとすれ違った時も、彼らは感情の無い目でカズヤを見つめるだけだった。



 そして、カズヤが連れて行かれたのが、「スクエア」と呼ばれる魔導人形が支配する収容所だったのだ。


 この収容所に入れられる時に、カズヤは左腕に奴隷の証と印をつけられる。それが左腕についていた、あの痣だった。



 四角い殺風景な壁に囲まれた巨大な建物であるスクエアは、自我と知性を持った魔導人形が支配する場所で、人間は奴隷のように扱われていた。


 カズヤはそこで、奴隷の一人として囚われてしまったのだ。


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