094話 失われた記憶
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「カズ兄の本当の名前はキリヤマ・カズヤって言うんだよね。ふわふわして雲みたいな妖精だから、雲助って名付けてくれたんだよ」
「その名前を誰に聞いたんだ!? どうして君は知ってるんだ?」
「誰って……お兄ちゃんが自分で言っていたんだよ」
ピーナと名乗った女の子の顔をよくよく眺めている。
すると、わずかに生身のまま残っている脳の奥底にある、遠い記憶の何かが刺激されるような気がしてきた。
「こいつ、本格的な記憶喪失になっちまったみたいだな」
「ピーナたちは、脱走した後に奴らに見つからないように隠れていたんだよ。カズ兄はスクエアから脱出したあと行方不明だったんだけど、同じ名前の人がエルトベルクにいるって噂になっていたから、ムルダおじさんと確かめに来たの」
脱走……隠れていた……。
不穏な言葉が何度も続く。ここまで聞いてもはっきりとは思い出せない。カズヤは頭に手をあてて考える。
「……くっ、何も思い出せない」
何の話か分からないが、すでにピーナの話は聞き逃せなくなっていた。
ピーナが語る話は、カズヤにとって、とても大事なことのような気がしてきたのだ。
「やっぱり忘れちゃったのかな。ムルダおじちゃんがその可能性もあるって言ってた。もし、カズ兄が生きていたら、真っ先に俺たちを探しに駆けつけてくれるはずだって」
ピーナの言葉が、カズヤの脳みその奥をかき回す。
(もしかしたら俺は、何かとてつもなく大切なことを忘れているのか……!?)
そんな予感が湧いてきたのだ。
強く思い出そうとして記憶を探るが、強烈な痛みがカズヤの頭の中を走り抜ける。
「ピーナちゃんは、一人でセドナに来たの?」
苦しむカズヤの姿を見たアリシアは、話題を変えようと優しく尋ねた。
「いいや、ムルダおじちゃんと一緒だよ」
「私たちを、そのおじさんの所に案内してくれる?」
「いいよ! こっちだよ!」
ピーナは一目散に走りだす。カズヤたちは慌てて後をついていった。
※
「カ、カズヤじゃないか!? やっぱり噂で聞いていたのは、カズヤのことだったんだな!」
そこには見知らぬ男性がいて、カズヤの顔を見て驚いている。しかし、その男性を見ても、カズヤは何も思い出せない。
「いや、申し訳ないが、君のことを何も覚えていないんだ。このピーナという少女のこともだ」
「俺の顔も分からないのか? お前の魔導具作りを手伝っていたムルダだぜ」
「申し訳ない……何も思い出せないんだ」
カズヤの肩に手をかけて親しげに話しかけてくるということは、それだけ親密な関係だったのだろう。
そもそも自分が魔導具作りをしていたなんて、カズヤは考えたこともなかった。
「……やはり、奴らに捕まった時に魔法で記憶を消されてしまったのかもしれないな。カズヤは特殊な世界の知識があって大事にされていたから、スクエアの記憶だけを消された可能性がある」
特殊な世界の知識というのは、地球にいた頃の話だろうか。この男が言ったことは何も思い出せないが、否定できないのも事実だ。
「その記憶って、どうしたら戻るんだ?」
「いや、申し訳ないが魔法については俺にも分からない。誰か詳しい人に見てもらわないと……」
「アリシア、何か分かるか?」
「たしかに記憶を消す魔法というのは存在するわ。ただ残念だけど、私はあまり得意じゃないの」
「そうなんだ。逆に記憶を取り戻す魔法というのもあるのか?」
「あるけど、私には使えないし、今のエルトベルクに使える人はいないわ。魔術ギルドに魔法契約を止められてしまったから……」
そうだった。エルトベルクでは、過去に魔術ギルドと契約した魔法は使えないようにされているのだ。
国全体で考えれば使える人がいたはずだが、特殊な状況なので諦めるしかない。
「ステラの力で何とかならないかな?」
「忘却の原因が魔法なら、宇宙船の医療用ボットでも限界があるかもしれません。魔法については、まだ分かっていないことの方が多いので」
ステラの科学力をもってしても解決できない。なにせ記憶が無いこと自体を忘れてしまっているのだ。
「……マスター。不本意ですが、彼らに助けを求めるしかないのでは?」
「そうだな。たしかに借りを作りたくは無いが、この国で魔法を使える人はいないのなら仕方がないな」
ステラが言わんとしていることに、カズヤは気が付いた。
「おい、誰のことだよ?」
「……黒耀の翼だよ」
バルザードはハッとして思い出したようだ。
「ステラ、黒耀の翼は今どこにいるんだ?」
「セドナと国境をはさんだ、タシュバーン領の街にいます」
「よし、頼みに行こう!」
すぐさまカズヤたちはウィーバーに飛び乗ると、ピーナとムルダも連れてタシュバーン領へと向かった。
「わあ、すごく速い乗り物! 雲助に乗るよりずっと速いね」
「ピーちゃん、オイラが本気出せば、こんなツルツルした奴なんかに負けないよ」
ピーナが雲助と呼んでいる、謎のフワフワの雲と会話している。
ピーナが昔話をするたびに、カズヤは心の奥底がムズムズするような焦りを感じるのだった。
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