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091話 二人きりの海辺

 

「当たり前かもしれないけど、今の人たちは魔術ギルドから教えられた魔法しか使えないの。古代魔術は自由度が高いけど、使いこなすには魔法についての深い理解が必要なのよ」


 カズヤには、何となくアリシアが言いたいことが理解できた。


 古代魔術は便利な代わりに、魔力の本質に対する理解と、繊細な感覚がないと使えないのだ。


 アリシアが当たり前のように使っているのは、幼少期からの魔力過剰症に対する不断の努力があったからだ。



「ひょっとしたらそれだけじゃなくて、魔術ギルドはそれを利用しているのかもしれないと思っているの」


「なるほど、テセウスが言っていた話か……」


 カズヤは、以前エルトベルクの元騎士団長だったテセウスが、「魔術ギルドの魔法は威力が弱い」という主旨の話をしていたことを思い出す。


 契約で魔法を簡単に使えるようにする代わりに、威力を弱めているのだ。



「それに、私だって他人のことは言えないわ。特に風魔法に行き詰まっているの。古代魔術を教えてくれる人はいないから、私自身で探求していかないと……」


「でも、最後の風魔法は凄かったじゃないか」


 カズヤは、アリシアがお手本として見せていた魔法を思い出す。


 風が竜巻のように横向きに渦を巻いていて、見たことが無いくらい強力な魔法だった。



「そんなことないの。古代魔術を使いこなすには、この世界についてもっと理解を深めないと……ねえ。カズヤの世界では自然や風についてどう教えていたの? 魔法は無かったんでしょ」


「えっ、俺の世界での知識を知りたいの? えっとそうだなあ、俺たちが子どもの頃に習っていたのは……」


 そう言いながらカズヤは、日本でなら誰でも知っているような風や空気の仕組みをアリシアに教える。


 正直、役に立つのかも分からないような、当たり前の話ばかりだ。


 しかし、この世界では聞いたことがない未知の情報だったらしい。アリシアは目を輝かせながら、カズヤの話に聞き入っていた。




「……そうそう、こんな魔法の話がしたいんじゃなかったわ。カズヤに渡したい物があるから、ステラに伝言を頼んでいたの。さっき領主館に運んでもらったから、後で説明するわね」


 思いがけない話で盛り上がってしまった。呼び出した理由の物は、領主館にあるらしい。



 二人は話が途切れると、この星の太陽にあたる輪光星《オスター星》が、ゆっくりと沈んでいく様子を眺めていた。


 それは地球での日の入りのように、世界全体がオレンジ色に染まっていく穏やかで美しい夕焼けだった。



「……そういえば、アリシア。最近、魔力過剰症はどうなんだ?」


「相変わらず時々起こるわ。でも訓練してきたお陰で、小さかった頃に比べるとかなりマシになったの」


 アリシアは両手を自分の胸の前に出すと、手の平をじっと眺める。


 すると、炎のような魔力の揺らぎがアリシアの両腕を明るくおおった。


 瞬時に炎の魔法が具現化する。


 軽く意識するだけで、すぐに魔法が出せる状態なのだろう。この溢れ出す魔力のおかげで、強力な魔法を使えることをアリシアは理解していた。



「もちろん、私一人の力では無かったけどね。一番助けてくれのはお母様だったの」


 アリシアの母親の話を聞いてカズヤはどきりとした。


 アリシアには国王である父親しかいないことが気になっていたが、こちらからは尋ねにくかったのだ。



「その……アリシアのお母さんって、どんな人だったんだ?」


 カズヤは思い切って尋ねてみた。



「お母様は魔法が得意な家系の出身で、魔術ギルドでも偉い地位にいたのよ。私が魔法使いなのはお母様の影響だと思ってるわ。でもね、私が16歳の時に行方不明になってしまったの」


「えっ、王妃が行方不明ってことか? それは大事件じゃないか!?」


 思いがけず重大な出来事を耳にして、カズヤの方がうろたえた。



「そうね、当時は大変な騒ぎだったわ。でも、どんなに探してもお母様は見つからなかったの。今となってはアビスネビュラを疑うわよね」


 たしかにその意見に賛成だった。



 アリシアたちは、昔はテセウスのような人物を信じていたし、アビスネビュラのような組織を想像したことも無かったのだ。気付かなかったとしても無理はない。


 ひょっとしたら父親である国王が、数年前から体調を崩していた理由にも関係しているかもしれない。


 王妃が行方不明になっていては、気が気ではなかっただろう。



「お母様も魔術ギルドのおかしさに気付いていたわ。魔法の契約金と継続料だけでも、とんでもない額のお金が動くからね。魔術ギルドと契約し続けない限り魔法が使えない状況に、お母様も違和感をもっていたの」


 その母親が行方不明になってしまった。16歳で母親がいなくなるのは、どんな気持ちだったのか。


 当時のアリシアの気持ちを考えると、カズヤは言葉が出てこなかった。



「しんみりしちゃったわね。……逆にカズヤはどんな子どもだったの?」


「俺か……とりたてて特徴がない地味で平凡な子どもだったよ。食べることと寝ることだけが大好きでさ。目立つこともない抜きん出た才能もない、取るに足らない男だった気がする。こんな人生でいいのかな、って思ったこともたくさんあったよ」



 日本にいた時の自分を思い返しても、カズヤはそんな言葉しか出てこなかった。


 何もできなかった訳ではない。しかし、何かが特別得意だった訳でもない。大人から与えられたレールの上を、何も考えずに歩いてきただけだった。


 周りからは悪い子だと思われていなかったはずだ。しかし、地味で平凡だったことに安住して、何も挑戦してこなかったという、はっきりとした後悔が残っているのだ。



 ふと気付くと、アリシアの頬に涙がつたっていた。


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