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090話 ステラの取扱説明書

「マスターに渡したいものがあります。これを読んでください」


 一瞬、苦情でも書いてあるのかとカズヤは慌てたが、クレームにしてはやたらと分厚くて書き込んである量が多い。


 ステラがじっと見つめるなか、カズヤはその場で最初のページを読んでみた。




 最近、マスターの忘れ物が増えていて心配です。以下のことに気を付けてください。


 ・マスターは休憩が少なくなると忘れ物が多くなります。身体は疲れていなくても、心を休ませるためにこまめに休憩を取ってください


 ・毎日の予定や、必要なものをリストにまとめて持ち歩くように。


 ・大事なものは決まった場所に置くように意識する……


 』


 最初のページから、注意書きがずらずらと書いてあった。



「忘れ物が多いマスターのために注意点をまとめました。でも、大事なのは真ん中のページからです。しっかりと読んでください」


 ステラが厳しい表情で促してくる。


 よく見ると付箋のようなものがページの上についていた。このような便利な文房具は、どの世界でも使われているのだろうか。



 カズヤは大人しく言われるがままに、ノートをめくった。



 従者ステラに対しての注意事項


 ・マスターとして、従者に感謝の気持ちを日々表しましょう。小さなことにも気を配って、ありがとうを伝えると従者は喜んで、より忠誠心が増すものです。


 ・時々急な贈り物をするなど、特別な時間を創り出して関係に新鮮さと楽しさをもたらしましょう。


 ・マスターは記念日を忘れがちなので、特別な日を忘れずに祝うべきです。そもそも、出会ってから一度も贈り物を頂いていません。女性というものは……


 』



 前半は、お説教のような小言が書かれていて、後半はステラをいかに優しく扱うかについて書いてある。


 これではまるで、ステラの取扱説明書ではないか!



「ちなみにマスター、私がいない間に部屋に入って日記を読んだようですね。女性の部屋に勝手に入るのは失礼ですよ」


「な、なんで分かったんだ!?」


 勝手に部屋に入ったことがバレてしまい、カズヤは驚いて飛び上がった。



「敵の侵入を防ぐために、領主館のなかにもバグボットを飛ばしています。分かるに決まってるじゃないですか」


 それはそうだった。


 ステラはセドナ全体にだってバグボットを飛ばしている。この辺り一体に監視カメラが飛んでいるようなものなのだ。



「ノートをしっかり読み込んで覚えて下さい。今度確認しますからね」


「は、はい……」


 流し読みで済ませようかと思っていたカズヤに、ステラはしっかりと釘を刺す。



「あと、アリシアもマスターに渡したいものがあるようです。市外で兵士たちに魔法を教えているはずなので、立ち寄ってあげて下さい」


 最後にアリシアからの伝言も言い渡されてしまうのだった。




 ※


 ステラと別れたあと指示された場所へ行くと、たしかにアリシアが兵士たちに魔法を教えているところだった。


 アビスネビュラに反抗したことをきっかけに、エルトベルク王国に味方をするものの魔法契約を、一方的に解除されてしまった。


 アリシアは、そのせいで魔法が使えなくなった魔法使いを集めて、新たな術式を教えているのだ。



 それが、古代魔術アルカナ・アーツというアリシア独自の魔法だった。


 魔法について研究していたアリシアは、約600年前に魔術ギルドが結成される以前には、別の魔法が使われていたことを知っていた。


 現在の魔法は魔術ギルドとの契約がないと使えないが、昔はそんな制約はなかったのだ。



 カズヤは練習の邪魔にならないように、少し離れたところから見守った。


 魔法がつかえないカズヤから見ても、アリシアの説明は論理的で分かりやすい。もしカズヤに魔力があれば、魔法の使い方を教えてもらっていたに違いなかった。



 しばらくして、アリシアもカズヤの存在に気付いた。


 区切りのいいところまで演習を続けると、アリシアはみんなを集めてから解散する。


 魔法使いたちが帰っていくのを見送ると、アリシアはカズヤの方に駆け寄ってきた。


 その場にアリシアとカズヤだけが残される。二人は少し小高くなった丘の上に腰掛けた。



「……みんな、練習熱心だったな。新しい魔法は順調に使えそうなのか?」


 真剣な顔で学んでいた兵士たちを思い出すと、カズヤからは自然と称賛の言葉がわいてくる。


 それだけでなく、魔法が得意なアリシアがさらに研究を続けていることにも、カズヤは素直に敬意をもっていた。



「魔法使いにとって魔法が使えないのは致命傷だからね。みんな必死に学んでいるわ」


 アリシアは同意するように、うなずいた。


 明確な証拠はないが、国単位で魔法を使えなくさせられるのは、この世界を支配するアビスネビュラしか考えられない。


 アビスネビュラは魔術ギルドすらも支配しているのだろう。



「でもね……実は、みんなが古代魔術を使いこなすには、まだまだ時間がかかりそうなのよ」


「えっ、そうなのか? それはまた、どうして……」


 予想外の言葉に、カズヤは少し驚いた。


 さっきの魔法使いたちは、みんな真剣に頑張っていたはずだ。


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