009話 黄色い目の騎士
急に敬語に変えたことを指摘されて、カズヤは途端に気まずくなる。
「いいえ、あの、アリシア様がお姫様だとは知らなくて。さすがに敬語を使わないとまずいかなと……」
「そんなの気にしないで、普通に話して欲しいわ。今まで通りアリシアと呼んでよ」
「い……いや、流石にそれは失礼ですよ。一国の姫様相手に呼び捨ては無理です」
「二人とも別の世界から来たのでしょう? それなら、無理にこの国のルールに合わせる必要はないわよね。この国では姫様扱いされて、よそよそしい人ばかりで寂しいのよ」
違う星から来たというトンデモ話を、うまく利用されてしまう。
一般庶民がお姫様と距離をおくのは当然だと思うが、よそよそしいと言われると困ってしまう。
「そうはいっても……」
お姫様の無茶ぶりにカズヤは返答に困る。
「それなら、ステラはどう思うかしら?」
「私は別に呼び捨てでも構いません」
相変わらずステラは、空気を読まずに直答する。
ザイノイドにとっては、相手が王族でも獣人でも関係ないようだ。
「そうよね、こんなことで気を遣う必要なんてまったくないわよね」
「し、しかし、アリシア様……、」
「ア・リ・シ・ア!」
渋るカズヤに、アリシアは軽く睨んだフリをする。
バルザードに目をやると、やれやれといった態度で呆れている。
こうなると逆らえなさそうだ。こんなところは、さすがお姫様といったところかもしれない。
「わかりました。それじゃあ、姫様の命令ということにしておきます」
カズヤは観念してうなずいた。
「俺様も『バルちゃん』って呼ばれるのも、嫌なんだがなあ」
バルザードがステラの方を向いて愚痴をこぼす。
「バルちゃんはバルちゃんですよ。代わりに私のことを好きに呼んでもいいですよ。『ステラちゃん』なんてどうでしょう?」
「そんな俺様、想像できないぜ……」
不満そうなバルザードがブツブツ言っている。
わざとなのかザイノイドゆえの自然体なのかわからないが、場の雰囲気を察せずに直言するステラを、カズヤはハラハラしながら見守っていた。
(……ん、それなら俺もステラのことを別の呼び方にした方がいいのか)
カズヤが考え出した途端、ステラは先手をうって釘をさす。
「カズヤさんは、ちゃんと『ステラ』って呼んで下さいね」
「あ、ああ、わかってるよ……」
ザイノイドとはいえ人の心を読む力はないはずだが。先読みされたカズヤは大人しく黙るしか無かった。
「それじゃあ、エストラの街に戻りましょう。ついてきてね」
アリシアとバルザードは、騎士が引っ張ってきた馬にまたがる。
カズヤは喜んでついていくことにした。とにかく、この国の姫様に街を紹介してもらえるのなら、願ってもない機会だ。
カズヤとステラはウィーバーに乗りこんで、隊列の後ろからついていく。
その時カズヤは、倒したブラッドベアに騎士たちが群がり解体している様子が目に入った。
何やら大きな石をブラッドベアの体内から取り出している。
「いったい彼らは何をしているんだ……?」
取り出された石はガラスや宝石のように透き通っていて、石の中を煙のようなものがユラユラと揺れている。
「あれは魔石よ。生き物の体の中に埋まっている魔力や魔法の源なの。地中に埋まっていたりもするし、灯りとか火とか色々な物に利用しているのよ」
魔石がこの世界のエネルギー源ということか。
電気のようなものだと考えると想像しやすかった。持ち運びできる魔石は電池みたいなものかもしれない。
「生き物の身体の中ということなら、俺の身体の中にもあるのかな」
「いいえ、カズヤさんの身体の中にそのような物はありませんでした。おそらく、この世界で生まれ育った生き物の中にあるんじゃないですか」
浮かんだ疑問に、すぐさまステラが答えてくれる。
カズヤの治療をしたステラが言うのだから間違いない。
(ひょっとしたら、魔石が無いと魔法を使えないのかな……)
カズヤの脳裏にそんな考えが、かすかに浮かんだ。
*
アリシアを先頭にしながら、騎士の隊列が街道を進んでいく。
アスファルトはもちろん、石やレンガで舗装されている様子はない。土を踏み固められているだけの広い道だ。
しばらくすると、遠くの方に城壁のある街が見えてきた。壁の奥には石造りの建物の屋根が見え、さらにその奥に高くて美しい尖塔が目に入った。
大きな石を積み上げた城門をくぐると、石畳の道にレンガ造りの建物が広がっている。
「うわぁ、これがこの世界の街なのか……」
初めて見る景色に、期待で胸が高鳴ってくる。
すると横の建物から、褐色の髪をした身なりのよい騎士が近寄ってきた。
その姿を見たカズヤに戦慄が走る。
(あいつだ!! なんでこんな所にいやがる!?)
それは森の中でカズヤを襲った、あの黄色い目の男だった。
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