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088話 アリシアの料理

 

「実はさ、以前から食べたい物があったんだよ」


「食べ物? お前らは飯を食べないって話じゃなかったのか」


「もちろん食べなくても生きてはいけるさ。でも、俺たちザイノイドにも味覚はあるんだ。食事って栄養だけじゃないだろ? 久しぶりに食べ物を口にしたいし、俺の知ってる料理を皆にも食べて欲しい。ステラにも食事の素晴らしさを分かって欲しいと思って」


 ステラは料理や食べ物に関しては否定的だった。味覚の機能は、毒を見分けるための道具として考えていない節がある。



「この世界とは材料が違うし、そもそも作り方もよく覚えていないから、料理ってほどじゃないんだ。元いた世界の”お好み焼き”っていうやつを作ってみたくて」


「オコノミヤキか。なんかよく分からないけど、旨そうな名前だな!」


 バルザードは頭のなかで勝手な料理を想像しながら、舌なめずりをする。


 お好み焼きなら、小麦粉さえあれば具材は肉でも魚介でも何でもいい。ソースさえそれらしい物ができれば、一緒に混ぜて焼いてしまうだけだろう。


 そのくらいの手順なら、料理が苦手なカズヤでも出来そうだった。



「なんか、パンを作る粉と、肉でも魚でもいいから具材が欲しいんだよ」


「よしきた。それなら、あっちの方にありそうだぜ」


 カズヤが欲しい具材を言ってバルザードが見つけてくる。そんな買い物をひと通り終えると、二人は領主館に戻って厨房を借り、さっそく作り始めた。



 そこへ、ちょうどアリシアとステラが帰ってくる。


 厨房でワイワイ言いながら料理をしているカズヤとバルザードを、アリシアは目ざとく見つけた。


「ねえ、二人で楽しそうなことをしているのね。何を作ってるの?」


「お好み焼きって食べ物さ。俺の国の懐かしい味を思い出したくって」


「でもマスター、私たちは飲み込むことができないんですよ」


 ステラが、カズヤに怪訝そうな顔を向けて忠告してくれる。



「それは分かってるよ。でも食べ物をエネルギーに変えるだけが食事の楽しみじゃないだろ? せっかくザイノイドには味覚があるんだから、ステラにも味わって欲しいんだよ」


「ええ……分かりましたけど……」


 食事について熱く語るカズヤを、ステラは理解できない生き物を見るような目で見つめながらうなずいた。若干引いているようにも見える。



「楽しそうね。それじゃあ、隣で私も別の料理を作っていいかしら?」


「えっ!? 姫さん、それは止めた方が……」


 珍しくバルザードが、慌ててアリシアの行動を止めようとする。アリシアに料理させたくないようだ。


 ……ということは、実はアリシアは料理下手というお約束の流れだろうか。



「なんだ、アリシアは料理が苦手なのか?」


「ちょっと失礼ね。小さな頃からしっかり教育されているわよ」


 カズヤの邪推に、アリシアは軽く怒った振りをしながら反論する。


「わたしの料理は、どこにでもある食材しか使わないから、いつでも作れるの。大好きな料理をご馳走してあげるから待ってて」


 そう言ってアリシアは厨房に入ると、カズヤの横で腕をまくりながら何かを作り始めた。



「……おい、バル。本当はアリシアは料理下手なんじゃないのか?」


 カズヤはそっと小声で尋ねてみる。


「いや、下手という訳では無いんだが……」


 そう答えながらも、バルザードは冷汗を流している。元Sランクとは思えないほど怯えた様子だ。


 カズヤはアリシアの料理が気になりながらも、自分の料理に集中した。



「よし、出来たぞ!」


「わたしも出来たわ!」


 二人の料理が、ほぼ同時に完成した。


「まずは俺の料理を食べてくれないか。熱々なうちが美味しいんだ」


 カズヤが言い終わる前に、さっそくバルザードがかぶりついた。



「おおお、めちゃくちゃ美味いじゃないか! 外はカリカリしているが中はふんわりとして、うまそうな匂いが鼻から抜けていく。野菜のシャキシャキ感とモチモチの生地が口の中に同時に広がってきて、具材の香りと旨味が口の中に溢れてくるぞ!」


 バルザード得意の食レポが止まらない。さらに拍車がかかってきた。



「上にかかっているタレの絶妙な甘さと酸味が調和して、コクと深みを与えているな。色んな具材が外に飛び出していて、見た目も楽しいじゃないか」


 バルザードの食レポは、相変わらず聞いているだけでヨダレが流れてくる。味も三割増しくらいになりそうだ。



「これを皆で一緒に焼くのも楽しいんだよ。ステラはどうだ?」


 ステラはお好み焼きを少しだけ切ったものを、おずおずと口の中に運び入れる。


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