表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/316

087話 二人の買い物

 

 アリシアはステラの方をチラチラ見ながら、思い切ったように軽く息を飲みこんだ。


「カズヤとステラは特殊な関係って言っていたけど、いったいどういう意味かしら? その……深い意味はあるのかなって」


「マスターが主人で私が従者だということです。別にそれ以上の意味は無いですよ」


 ステラはいつもの淡々とした様子で返答する。


 それを聞いて、アリシアはホッとした表情に変わる。



「なんだ、そうだったの。二人で何か……、そう、特殊なことをしているのだと思ったの。余計な心配をしていたわ」


「もし、アリシアが男女的なことを言っているのなら、マスターにそんな勇気はありませんよ。もう少し度胸があってもいいと思いますが……。アリシアも気になるんですか?」



「い、いや、何でもないのよ! 二人のことを、もっと知ってもいいのかなと思って……それより、トラックの調子はどうかしら!?」


 アリシアはあわてて取り繕うと、無理やり話題を変えてしまった。



 そんな会話をしながら二人が職人街を歩いていくと、店の外に色とりどりの服が飾られている通りに差し掛かった。


 老若男女、男女問わずさまざまな服が並べられている。



「……ここのお店が良さそうね」


 店外に並べられている服と建物の外観を確認すると、アリシアは一軒の服屋へと入っていった。


「お忙しいところ失礼するわ。ご主人、これと同じ服を作って欲しいのだけれど」


「こ、これはアリシア様! もちろん問題ございません。すぐにお作りします」


 事前の約束もなく王女が入ってきたので、店主が慌てて出てきた。アリシアが持っている礼服を軽く確認すると、すぐに返事をする。



「よかった。それじゃあ、お願いするわ。完成したら私の所に持ってきてもらえるかしら?」


「も、もちろんです。完成次第すぐにお届けします」


 ステラから服の寸法を聞くと、主人は深々と頭を下げる。



「ここには私が着ているような服はないんですか?」


 店内を見回ったあとにステラが店主に尋ねた。


「申し訳ありません。当店では召使い用の服は取り扱っていないんです」


 やはりエストラのあの店は貴重なのだ。



 服屋に常駐してあるボットからは、次々と新作の情報が届いているというのに、セドナの滞在が普通になった今では、なかなか新作を買いに行くことができない。


(トラックで往復しているときに、誰かに頼んで買ってきてもらわないと)


 ステラは、次の便で向かう予定の住人たちを思い浮かべるのだった。



「ステラは他のお店に用事は無いの?」


 店主の見送りを受けながら、アリシアたちは服屋を出た。


「そうですね、せっかくなので本屋があれば寄ってみたいです」



「本屋? ステラが読みたい本でもあるの」


「私が読む訳ではありません。たしかに本好きなザイノイドというのも、中にはいるんですけど。私というよりは、マスターにふさわしい本を探したいんです」


「カズヤに相応しい本?」


 きょとんとした顔でアリシアが立ち止まる。



「最近、マスターの物忘れがひどいんです。建設予定が重なって忙しいのは分かるんですけど、症状を改善するような啓発本でもあるといいんですけど」


「カズヤがそんな本を読むかしら?」


 アリシアには、真面目に読書しているカズヤの姿が思い浮かばなかった。



 二人は本屋に立ち寄ってそれらしい本を探してみるが、やはり見つからない。


「……しょうがないですね。こうなったらと、私が自分で書くしかないようです」


「えっ、ステラが本を書くの!?」


「マスターへの注意事項を列記するだけです。宿屋に何冊かノートがあるので、書いて渡してみましょう」


 二人はそれぞれの用事を済ませると、領主館へと帰って行った。



 ※


 その少し前。カズヤとバルザードはセドナの旧市街を歩いていた。


 途中、サルヴィア教の建物の近くを通りかかると、建物の外で聖職者らしき人物が街行く人たちに何かを伝えていた。



「あれは何を話してるんだ?」


「サルヴィア教の教えを布教しているんだよ。個人の欲望を犠牲にして、サルヴィア様への忠誠を最優先にしろってな」



「そうなのか……でも、欲望を我慢するのは辛いよな。程ほどならできるけど」


「まあ、俺様だってそうだぜ。あとは、労働はサルヴィア様に対する奉仕で、熱心に働いているといずれ救済される、とかだ」



 サルヴィア教の教義を詳しく知らないが、過剰な犠牲を求められたらカズヤには実践できる気がしない。


 聖職者の熱心な訴えを聞き流しながら、二人は足早にその場を通り過ぎていった。 



 カズヤとバルザードは、目的地の食品市場にたどり着いた。市場のなかでも食べ物に興味があったのだ。


「カズヤ、着いたぜ。何でこんな所に用があるんだ?」


「実はさ、以前から食べたい物があったんだよ」


 読んで頂いてありがとうございます! 「面白かった」「続きが気になる」と思ってくださった方は、このページの下の『星評価☆☆☆☆☆→★★★★★』と、『ブックマークに追加』をして頂けると執筆の励みになります。あなたの応援が更新の原動力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ