081話 援軍
今日は2話投稿して、第2章完結します! 第3章は1/26金曜日からスタートです。
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そして次の日、ゴンドアナ軍が建築したばかりの城壁にたどり着いた。
「な、なんだ、この壁は!? 進路上に延々と繋がっているぞ」
ゴンドアナ軍の先頭の部隊は、目の前に現れた巨大な建造物に戸惑った。
壁の向こうは見通せず、迂回しようにも終わりが見えないほど壁が続いている。
ゴンドアナ軍があっけにとられている最中、エルトベルク側から戦闘を仕掛けた。
魔法が使えなくなった者は、城壁の上から石や弓矢で攻撃する。城門を開けて騎士や兵士が地上戦をしかけて、優勢を保ったまま引き返して来る。
ゴンドアナ軍は、こんな所に城壁があることは知らなかったので、攻城戦用の武器を持っていないのが幸いした。
まだ5倍近い戦力差があるので、エルトベルクの兵士は貴重だ。出来る限り最小の被害に留まるように戦い続けなければいけない。
対策をねられる前に、相手の数を減らさなければいけない。
城壁をはさんで有利な条件で何度も攻撃を繰り返す。
始めは順調に戦況は推移した。
エルトベルクの被害を最小限にしながら、着実にゴンドアナ軍の兵力を削いでいくのだった。
しかし、相手の数が圧倒的に多いのは変えられない。次の日には次第に物量で押され始める。
アリシアは先頭に立って風魔法を使い、必死にゴンドアナ軍からの弓攻撃を防いでいる。
通常なら城外から飛んでくる弓矢を、魔法使いたちの風魔法で蹴散らすことができた。
だが、エルトベルクのほとんどの魔法使いが魔法を使えない弱点が、ここでも出てしまっていた。
幸いにも以前と変わらず魔法を使える魔法使いが、ごく少数いたが、とてもではないが人数が少なすぎる。
ゴンドアナ軍から大量に飛んでくる弓矢を、彼らだけで防ぐのは不可能だった。
「もう限界ね……私たちの魔法だけでは、とてもじゃないけど防ぎきれないわ」
ついに城壁が突破され、セドナ近郊にたどり着く敵兵が現れたのだった。
「ステラ、ゴンドアナ軍の兵力はどうなった?」
「まだ、7000人以上の兵士がいます」
「新市街の住人たちも旧市街への避難が終わっている。仕方がない、奴らを新市街の中へ誘いこもう」
わざとセドナ新市街の方の門を開けて、少数の敵兵を中に誘いこむ作戦だ。
待ち伏せた兵士で囲い込んで数を減らしていく。ありふれた戦法だが、多数で少数を囲い込むので安全に数を減らすことができる。
何度か繰り返して、少しずつ敵の兵力を削っていった。
しかし、その作戦もすぐに見破られてしまう。
門を開けた瞬間に、多くの兵士が新市街のなかへとなだれ込んできた。建設したばかりの新首都セドナは、敵に蹂躙され破壊される。
せっかく作りあげた新首都が、見るも無惨な姿に変わっていく。
「まずいな、このままでは兵力差で押しつぶされてしまう」
カズヤの焦りの色が濃くなってきた。
「旧市街まで侵攻されるのも時間の問題だ……」
だが、カズヤが次の手を考えて悩んでいたその時。
ギャアアッ!!
戦場の喧騒に混じって、どこかで聞き慣れた唸り声が聞こえたような気がした。
大地から空へ響き渡るような鳴き声だった。
「……こ、この声は!?」
声の主は、ウミアラシだった。
カズヤを見つけると、ひときわ大きな声を上げる。
「街を守る約束を守りに来た」と言わんばかりだ。巨体を震わせながら、ゴンドアナ軍へ突進していく。
「ウミアラシ、助けに来てくれたんだな。それに、あんなに大勢の兵士を一気に……。凄いじゃないか!」
「衛星からの攻撃による衝撃で、セドナでの戦闘に気付いてくれたのかもしれませんね」
ステラも久しぶりに会えたカメさんに目を輝かした。
「なんだ、この魔物は!?」
「こいつはウミアラシだ! S級モンスターだ、逃げろッ!!」
ゴンドアナ軍の兵士たちは、初めて見る巨大な魔物にパニックになった。
ウミアラシは城壁の外にいる敵兵を次々と薙ぎ払った。
「ここまできたら徹底的にやってもらおうウミアラシを新市街の中に招き入れるんだ!」
カズヤは、ウミアラシを新市街の中へと導き入れる。
壁に囲まれた街のなかで巨大なウミアラシが暴れまわる。ゴンドアナ兵は狭い市内を逃げ回ることしか出来なかった。
ウミアラシによる混乱で、やがて持ち場を離れて本国へ逃げ出そうとする敵兵の流れができ始めた。
「マスター、2機の衛星の攻撃準備が整いました。いつでも発射できます」
ここにきて、ついにエルトベルク軍に流れがやってきた。諦めずに戦い続けてきたことが報われたのだ。
「よし、このウミアラシの混乱に乗じて使ってしまおう!」
「了解しました。……発射します」
ステラが合図すると、空を明るく照らす2本の光線が視界に飛び込んできた。
その直後に、身体が飛び上がるような衝撃がゴンドアナ方面から伝わってくる。
「ゴンドアナ軍の後方部隊に直撃しました。このセドナ周辺にいる敵以外は、もう増軍はありません」
北方に激しい煙が上がっているのが見えた。
自軍方面が攻撃されたゴンドアナ軍は、さらなる恐怖に取りつかれる。
背中を向けて敗走し始めた。
すると、その逃げ出す敵兵を追撃する、見慣れない兵士の一群がいることにカズヤは気付いた。
「マスター、あれは先日解放した捕虜たちです!」
解放した捕虜の一団は、ゴンドアナ軍を後ろから追撃すると、カズヤの元へ駆けつけた。
「ありがとう、加勢に来てくれたのか!」
「ああ、500人ほどしかいないが俺たちは今回エルトベルク側につくぜ!」
捕虜たちはカズヤを見つけると、お礼とばかりに大きな歓声をあげる。
「家族がいる奴らのなかには、戦場に戻らざるを得ない奴もいる。ただ、本国に戻っても命令を拒否して、今回の戦いに参加していない奴らもいるんだ。おれたちは恩を返しに来たぜ!」
そう言い残すと再び戦場へと戻っていった。
ステラが感慨深そうに、つぶやいた。
「こんな人たちもいるんですね……以前3000人を解放したので、この戦争に関わっていない人が半分もいます。彼らが敵兵にならなかっただけでも大きいです。私もまだまだ人間を理解できていないようですね」
「俺だってよく分からないよ。でも、この状況で彼らの存在は大きいな」
500人の援軍というのは多い数ではない。しかし、思いがけない加勢にエルトベルク軍の士気が上がる。
そして、後ろから懐かしい声が聞こえてきた。
「よう、こっちは大変そうだな。俺様が戻って来たからもう大丈夫だぜ!」
「メドリカ軍は撃退したわよ。こっちだって、あともう一息じゃない」
エストラから戻ってきたアリシアとバルザードだった。
そして、アリシアはそのまま走り寄ってくると、いきなりカズヤに飛びついた。
「ちょ、ちょっとアリシア。急にどうしたんだ!?」
「あら、メドリカ軍を撃退したら、ちゃんと褒めて頂戴と約束していたわ」
戦闘を終えたばかりの興奮のせいなのか、アリシアの積極的な行動にカズヤはうろたえる。
「アリシア、どさくさに紛れてズルいですよ。マスターから離れてください」
ステラがアリシアを乱暴に引きはがした。
気を取り直したカズヤは、わざとする必要もない咳ばらいをする。
「よし、奴らを追い返そう。俺たちの街を守り抜くんだ!」
すでに戦況はエルトベルク有利に傾いている。
カズヤたちは戦場の渦へと飛び込んでいった。
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