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008話 アリシアの正体

 

 アリシアに向かって「姫」と呼んだ。


 たしかにアリシアは、鮮やかな色彩と優雅さを備えた服を着ている。品のある立ち居振る舞いを見て、一般人では無いかもしれないとは思っていた。


 しかし、まさかお姫様だとは思っていなかった。



 豪華な服装や周りに指示を出す、堂々とした態度にも納得がいく。


 カズヤは、今までアリシアに自然とタメ口を使っていたことを後悔した。今後は言葉遣いや態度に気をつけなければいけない、と密かに思い直す。



 ところが、カズヤが気を引き締めたのとは裏腹に、ステラは獣人のバルザードを見ると浮かれたように目を輝かせた。


「綺麗な毛並み……すっごくモフモフしてます!」


 ステラがバルザードの毛を撫でながら、大騒ぎし始めた。


 意外にも見えるステラの可愛いもの好きの一面が、ここでも発揮されたのだ。



「な、なんだお前は!? こら、なれなれしく身体に触るな!」


 突然近寄ってきたステラに、バルザードも戸惑っている。



「バルくん、この人たちがブラッドベアを倒してくれたのよ」


 他の戦場での様子を、アリシアが説明してくれる。


「そ、そうなのか。ブラッドベアとオークが群れで襲ってくるなんて聞いたことないからな。今回ばかりはヤバいと思っていたから助かったぜ」


 バルザードがステラに向かって礼をする。


 こんなに大きな図体をしていて、『バルくん』などと呼ばれていることにカズヤは笑いそうになる。



「どういたしまして、私はステラです。綺麗な毛並み……あなたはバルちゃんっていうんですね」


「お、おお、そうなんだ。俺様はバルザードなんだけどな、まあよろしく……」


 ステラはバルザードのモフモフに夢中で、まるで会話がかみ合っていない。


 バルザードは諦めたようにステラから目をはなすと、今度はカズヤの方に向き直った。



「お前がオークを一掃するのも遠くから見ていたぜ。すごい魔法を使うんだな!」


「いや、俺じゃなくてこの武器が凄いだけなんだ」


 カズヤ自身は大したことをしていないが、ブラッドベアをひとりで倒すような猛者に褒められると満更でもない。



「それは何という魔導具だ? 俺様は世界中を回ってきたが、こんな武器は見たことがないぞ」


 この世界では、魔法の力をもつ武器のことを魔導具と呼ぶのか。


 見たことがないのは当然だろう。ブラスターはこの世界の物ではなく、他の星から持ち込まれたものだ。



「そのステラが用意してくれた武器なんだ。俺も詳しくはわからない」


 アリシアの興味も、二人が乗ってきたウィーバーの方を向いている。


 ウィーバーは二人が降りても空中に浮いたまま、一定の距離をあけてついてきていた。周りの兵士たちが目を丸くして見つめている。


「宙に浮くなんて妙な乗り物だな。この形はどこかで見たことがある気もするんだが……」


 バルザードが興味深そうにウィーバーを見つめる。



「不思議な乗り物ね。その可愛らしい子はどこから来たの?」


「彼女はステラというのですが……その、どうやら遠い星から来たみたいなんです」


 あまりにも幼稚な説明で申しわけなくなる。



「遠い星? ここはエルトベルクという国なんだけど、それは知ってるかしら?」


「いいえ。この辺りどころか、この世界のこともよくわかってなくて困ってるんですが……」


 アリシアは純粋に疑問に感じたことを尋ねてくる。


 あまりにも素性が怪しい二人だが、詰問する口調ではないことに少し救われた。



「それなら私の街に来てほしいわ、案内してあげる。二度も命を救われたんだから、しっかりお礼しなくちゃ」


 アリシアは怪しい二人組を歓迎してくれるようだ。



「……あの、俺の言うことを信じてもらえるんですか?」


「星っていうのが何の意味かわからないし、正直ちょっと信じられないんだけどね。でも、あなたたちの不思議な服装や乗り物、凄まじい威力の武器を見ていたら、知らない所から来たというのが嘘では無い気がするの」



 確かにカズヤとステラが着ているボディスーツのような服装は、鎧姿の人達からしたら違和感だらけだろう。


「それに別の機会でいいから、この不思議な魔導具を詳しく見せてくれるかしら。私の研究に役立ちそうな気がするの」


 アリシアは姫という立場でありながら、何かの研究をしているのだろうか。



 カズヤは確認するようにステラを見ると、無言でうなずいた。ブラスターを見せても問題ないということだ。


「いいですよ。その代わりに、この世界について教えてもらってもいいですか?」


「もちろんよ!」


 アリシアは喜んで同意してくれた。



「そういえば、森で会った時に魔物の情報を聞いたと言ってましたけど、わざわざ、姫様が直接見に来たということですか?」


 さり気なく敬語を使いながら、今度はカズヤから尋ねてみる。



「上に立つ人間が後ろに隠れていたら示しがつかないでしょ。それに私は魔法が得意だから、ちゃんと戦えるのよ」


 たしかに、アリシアは3体のオーク相手に一歩も引いていなかった。


 偉い立場の人間には聞かせたやりたいセリフだ。上に立つ人間が率先して戦ってくれれば、下の者も信頼してついて行く気になるものだ。



「その途中で、ひとりで森の中へ入っていく女の子の姿が見えたから、あわてて追い掛けちゃったのよ」


「姫さんが見たっていうその女の子に、俺たちは誰も気ついてないんですがね。オークとの戦闘中に姿が見えなくなって肝を冷やしましたぜ。ブラッドベアから助けてもらったと聞いたが、それがお前なら大感謝だな」


 バルザードが思い出したように口をはさむ。



「それにしてもカズヤ、どうして急に敬語になっているの? 最初は普通に話していたのに」


 急に敬語に変えたことを指摘されて、カズヤは途端に気まずくなった。


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