072話 大移動
最終的に3000人近い移住希望者が集まった。セドナまで徒歩で進むには3日ほどかかる。
ゴンドアナ王国の空からの襲撃をおそれるだけでなく、地上にいる魔物や盗賊の襲撃にも警戒しなければいけない。
カズヤは昨日一日の間に、100機近いF.A.を護衛として呼び寄せていた。移住者に近付く魔物がいたら、自動的に迎撃するように指示を出してある。
そして、3機の空中砲台も呼び寄せて、ウィーバーに乗ったカズヤとアリシアやF.A.と共に、空からの襲撃に備えた。
3000もの人が列を作るだけで、数kmもの行列になる。その端から端までをカズヤが中心となって護衛するのだ。
そんな移動中に、一人の男性がカズヤに話しかけてきた。
「……あんたがカズヤさんかい? 昨日はどうして襲撃に間に合わなかったんだよ。空からの攻撃で俺の仲間がやられちまった。あんたがエストラに来てから不幸な事件が続いているじゃないか」
「そ、それは……」
男性がぶつけてきた言葉は、カズヤにとって痛いものだった。
男性は無力でやるせない思いを八つ当たりしているだけかもしれないが、カズヤは何も言い返せなかった。
ステラと喧嘩さえしなければ、昨日の空襲は防げていたかもしれない。エストラを襲撃しているのはアビスネビュラだ。
だが、何も知らない市民からすると、カズヤたちが来てから被害が拡大しているように見えてもおかしくはない。
カズヤは言い返せずに黙りこむ。
しかし、沈黙するカズヤの代わりに他の市民が割って入ってきた。
「おいおい、カズヤさんに何てことを言うんだよ! この人が来てくれたから被害がこれだけで済んでいるんだぞ。カズヤさんに助けてもらった人はたくさんいるんだ!」
その言葉を聞くと、不満をぶつけてきた男はすごすごと列の方へ戻っていった。
「カズヤさん、あんな奴を気にする必要は無いぜ。あんたが一生懸命俺たちを助けてくれようとしているのは皆分かってるんだ。
あの2回目のエストラの崩落のときに、俺はあんたの声を聞いて、王宮に逃げて命を救われたんだ。あんたに感謝している市民だって、いっぱいいるんだぜ」
その言葉を聞いたカズヤは、涙が流れそうになった。
自分の命をかえりみずに、市民たちに避難を呼びかけたことで救われた人がここにもいたのだ。
結果としてカズヤはザイノイドになってしまったが、それによって救われた人が何人もいるなら、報われたような思いだった。
出発してから二日目。
カズヤがゴンドアナ王国の周辺に放っていたボットから、グリフォン部隊がエストラに向かって出発したという情報を手に入れた。
「空中戦は、カズヤや姫さんたちに任せるぜ。地上に落下した敵は、俺たちが捕まえてやるからな」
地上での警備は、バルザードを中心とした冒険者たちにお願いしていた。
「前回の襲撃の借りを返してやろう。奴らは空中戦があるなんて考えてないはずだ」
カズヤの言葉に力がこもる。
もう二度と失敗したくなかった。
ステラがいなくなってしまったことで、まんまと旧首都エストラへの空襲を許してしまった。
そして、住人に問い詰められたように更なる被害を重ねてしまった。
これ以上、被害を拡大させるわけにはいかないのだ。
カズヤは移住者の行列から1kmほど離れた森の中で、ボットたちと共に伏せていた。
その後ろにはウィーバーに乗ったアリシアや、バルザードたち地上部隊も伏せている。
やがて、遠くから飛んで来るグリフォンの姿が見えてきた。
やはり移住者たちを襲撃する予定だったのだ。
前回の空襲が、まんまと成功したことで自信を深めているのだろう。空中で編隊も組まずに自由に飛んでいる。
二度も同じ目にあうつもりはない。
エストラを奇襲してきた奴らに、今度こそ痛い目を合わせてやるのだ。
「よし、今だ。全員叩き落としてやるぞ!」
カズヤの指示とともに、地上のボット達が一気に垂直上昇を始める。
カズヤとアリシアのウィーバーだけでなく、空中砲台3機と100機以上のF.A.が同時に浮上した。
100機以上のボットたちが、瞬時に上昇する光景は圧巻だった。
突然、真下から目の前に現れた予想外の敵兵に、生物であるグリフォンたちが動揺する。
背に乗る兵士たちは操縦を取り戻すのに背一杯だ。
その隙を逃さずに、カズヤの指示でボットたちの攻撃が開始された。ボットの攻撃は、全てエネルギーを変換したレーザー攻撃だ。
しかし、ボットの光線はグリフォンに弾かれてしまう。グリフォンは魔法抵抗が強いので、光線による攻撃は効果がないのだ。
「グリフォンには効果が薄いぞ! 操縦している兵士を狙って地上に落とすんだ!」
事前にカズヤの指示はボットに伝えてある。グリフォンの上に乗っている操縦士の方が魔法の抵抗力が低いので絶好の標的になるはずだ。
攻撃を受けた操縦士たちは次々と地上へと落ちていく。地上に落ちた敵兵はバルザードたちが待ち構えている。
とにかく空中にいる兵士を叩き落として、グリフォンを自国へ追い返すのだ。
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