071話 空襲
ゴンドアナ王国のグリフォン部隊が、エストラの街を蹂躙する。
泣き叫ぶ者、走りだす者、抵抗する者。街は大混乱に陥っていた。
そして、最も恐れていた事態が起こった。
攻撃による激しい衝撃を受けて、再びエストラの街の崩落が始まってしまったのだ。
幸いなことに全てのエリアではなかった。
しかし以前と同じくらいの規模の崩落だ。底が見えない暗闇に多くの人と建物が吸い込まれていく。
境界にいる人たちは我先へと市外へ逃げ出した。
さいわい崩落が連鎖することは無かったが、再び起こった災厄に市民の心は恐怖に囚われた。
夕方遅く、ウィーバーに乗ったカズヤとアリシア、バルザードがエストラに到着した。
その時には、すでに想定以上の収穫を得たグリフォン部隊は、無理せず退却していた後だった。
カズヤたちが着いた時には、被害を受けたエストラの街だけが残されていた。
「……お父様、ご無事ですか!?」
アリシアは真っ先に王宮へと駆けつけた。国王は王宮の地下へと避難しており無事だった。
「ああ、私は大丈夫だ。突然の襲撃で、国境警備の兵からの報告は間に合わなかった。おそらく前回の地上戦の時に、我々の防衛網を調べていたに違いない」
国王は、エストラに残った民衆の移住のために、食糧と物資の補充に専念していた。
その作業中にグリフォン部隊が襲ってきたのだ。
カズヤは瓦礫と化した建物と、拡大した空洞を見つめて放心状態だった。
さらに王の間に駆け込んでくる急使が凶報を伝えた。
それを聞いたバルザードは、珍しくいったん気持ちを落ち着かせる。
そして、冷静さを取り戻してから、アリシアたちに報告した。
「陛下、姫さん。冷静に聞いてください。同じ時間帯にセドナにも、ゴンドアナ王国のグリフォン部隊の襲撃にあったようです」
カズヤは我が耳、いやセンサーを疑った。カズヤたちがセドナを離れた隙に襲撃をかけたのだ。
「さいわい、黒耀の翼とステラがいたお蔭で退けられました。大きな被害はなかったようです」
黒耀の翼とステラのお蔭……。
大きな被害にならなかったことに安堵する一方で、黒耀の翼に助けられたことに驚いた。
彼らはタシュバーン皇国としてではなく、冒険者として街を救ってくれたのだろう。
気に食わない奴らだという印象もあったが、セドナの街を救ってくれた。
それは、いくら感謝しても、し足りないくらいの功績だった。
それにしても、ステラはこの襲撃を知っていたのだろうか。
いくら黒耀の翼に入ったとはいえ、情報くらいカズヤに教えてくれても良かったのではないか。
カズヤは心がもやもやとして、頭の中がまとまらない。
「……。……ズヤ。もう、カズヤったら!」
アリシアがカズヤに向かって大きな声をあげた。慌ててカズヤは顔をあげる。
「ぼうっとして大丈夫!? お父様がカズヤにお願いがあるっていうのに、何度呼びかけても反応しないんだから」
衝撃的な出来事が続き、カズヤの頭が付いてこない。
「カズヤくん、すまないがお願いがある。今回の襲撃を受けて、エストラの街を一刻でも早く離れてセドナに移住したいという者があふれているのだ。
セドナの準備はまだできていないだろうが、エストラの家も壊れてしまったから彼らは気にしていない。護衛してセドナまで連れて行ってくれないだろうか?」
ようやくカズヤの頭が情報に追いついてきた。
今回の襲撃を受けて、エストラから移住したいという人が増えてきたのだ。
また次の攻撃を受けたら、さらに崩落が進むかもしれない。彼らの気持ちは十分理解できた。
「移住を希望するのは、何人くらいでしょうか?」
「2000人はいるだろう。ひょっとしたらもう少し増えるかもしれない」
2000人……。それだけの民間人を連れて移動することが想像できない。
「彼らは自分たちの食料は持つし、野営用のテントも持たせる。セドナに着いてテント暮らしになっても構わないと言っている。任せられるだろうか?」
「……分かりました。責任をもって送り届けます」
カズヤははっきりと引き受けた。
きっと大丈夫なはずだった。
セドナでの街づくりはボットたちのお蔭でかなり進んでいる。
できあがった家から住んでもらうことにすれば、テント生活はそんなに長くならないはずだ。
「すでに荷物をまとめるように伝えてある。明後日の朝一番に出発するように準備してくれ」
「もちろん私たちも協力するわ」
アリシアが無理やり笑顔を作って励ましてくれる。
エストラの襲撃を防げなかった借りを返さなければいけない。
再び空からの襲撃があるかもしれないが、同じ失敗は二度と繰り返さない。
カズヤはこぶしを固く握りしめた。
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