067話 カズヤ対シデン
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「なんじゃ、その乗り物は!? そんな剣も見たことがないぞ」
ウィーバーと電磁ブレードに驚くゼーベマン伯爵が騒がしい。うっとうしいのか、すでに誰も相手をしなくなっていた。
お互いに剣を持って準備ができると、少し離れたところでカズヤとシデンが向かい合った。
周囲にいた人夫たちも仕事の手を止めて、二人の決闘に見入っている。
「いいぜ、いつでも来い」
シデンが煽ってくる。
「望み通り、こっちから行かせてもらうぞ!」
シデンの挑発が戦闘開始の合図だった。
まずはザイノイドの力任せに、カズヤが突っ込んでいく。
バルザードの剣技をトレースした連続攻撃、以前のカズヤなら目にも止まらない強烈な攻撃だ!
突進の速さと威力に呼応したかのように、地面が震えて土煙が舞う。
だが、シデンは落ち着いてカズヤの剣筋を見極める。
目にも止まら無い太刀筋で、全ての攻撃を受け止めた。
ぶつかりあった二つの剣が、不気味な音をたてて跳ね返った。シデンの魔法剣を相手にしても、カズヤの電磁ブレードが折れることはない。
思いきりぶつけても壊れる心配はしなくても良さそうだ。
「いい剣を持っているな。俺の魔法剣を受け止められる剣は、そう無いぞ」
シデンが、電磁ブレードを物珍しそうに見つめた。
「次は俺からだ」
今度は、シデンの攻撃が襲ってきた。
「は、早いっ……!」
バルザードの攻撃よりも速くて強い。
両手に握られた剣の動きが、ザイノイドの視界センサーにも留まらない。
凄まじい剣技だ。
「くそ、これじゃあ防げない、自動防御だ」
最初の二、三撃をかろうじてかわすと、カズヤはすぐさま自動防御を発動した。
カズヤが身体の各部に指示を出すよりも早くに、身体が自動的に動いて攻撃を防いでいく。
これだけ攻撃が早いと、ザイノイドの目や耳のセンサーで感知できても、カズヤの頭では脳の命令が追いつかなかったのだ。
「やるな、この攻撃を防ぐのか!」
自信があった攻撃を防がれたことに、シデンは驚きの表情を見せていた。
二人の距離は、一瞬にして開いたり詰まったりを繰り返す。
魔法剣と電磁ブレードが交差するたびに、周囲にまばゆい火花を散らせた。
先手を取ろうとカズヤが斬撃を放つ。
しかし、シデンも素早く刀で受け止める。
今度は、シデンが巧みな足さばきでカズヤの側面をつく。
真横からの一撃がカズヤを狙うが、瞬時に自動防御が発動して太刀筋で受け流す。
まさに一進一退の攻防だった。
カズヤはその間に攻撃の隙を見つけ出そうと、意識を集中する。
しかし、シデン相手にそんな隙は見当たらない。思い切って踏み込むチャンスが、全く見つからないのだ。
「ふっ……やはり、思った通りの実力だな」
シデンは満足そうな表情を見せる。
Sランクのシデンの実力は、カズヤの想像を上回っていた。ザイノイドの機械としての反射能力だけで、何とか防いでいる状態だ。
カズヤには反撃の手段が思い浮かばず、防戦一方となっていた。
「防御の腕前は分かった。ならば、この攻撃はどうだ」
シデンは一度足を止めると、剣を持つ腕に意識を集中させる。
そして、力を溜めたかと思うと、シデンの腕が怪しく光り始めた。
「な、なんだあれは!?」
カズヤから驚きの声がもれた次の瞬間。
鋭い剣先がいきなりカズヤの腕を目掛けて襲ってきた。気が付いた時には、すでに目の前に迫ってきている。
カズヤは素早く後ろへ飛び退いた。
だが、シデンの魔法剣がうなりをあげて追いかける。
カズヤが背後へ飛び退くスピードよりも更に早く、シデンの剣が近付いてくる。
「く、くそっ!」
カズヤは防ごうと必死に腕をのばす。
だが魔法剣と接触するやいなや、カズヤの電磁ブレードが想像以上の力で弾き飛ばされる。
手から離れた電磁ブレードは、軽々と宙へ舞っていった。
(な、なんだ、あの攻撃は!? 魔法なのか!?)
カズヤが初めて見た攻撃だった。
通常の攻撃ではない。魔法が込められた不可思議で強烈な一撃だ。
電磁ブレードを弾き飛ばしたシデンの剣は威力を抑えきれず、地面に深くめりこみ土煙をあげている。
「いい判断だな。あのまま持っていたら、お前の腕ごと飛んでいたかもな」
にやりとシデンが笑う。冗談で言っているとは思えない威力だ。
模擬戦だというのに、恐ろしいことをする奴だ。
「まだ本気を出していないな」
「……それはお前も同じはずだろ?」
カズヤの返答に、シデンは満足そうに笑って剣をおさめる。
「ふふ、面白い戦いだった。久しぶりに血がたぎったぞ」
模擬戦が終わった。カズヤはホッとひと息つく。
「挨拶は済んだ。それでは、もう少しこの街に滞在させてもらうぞ」
そう言い残すと、黒耀の翼は新市街の方へと歩いて行った。
「よくやったじゃないか、カズヤ! シデン相手にいい勝負だったぜ」
観戦していたバルザードたちが駆け寄ってきた。
「バル、奴の最後の攻撃は何だったんだ?」
「腕に魔力をこめていたが、尋常な量じゃなかった。人並み外れた強化魔法が奴の得意技かもな」
確かにあの攻撃をまともに受けていたら、身体ごと吹き飛ばされそうな威力だった。
バルザードの後ろで、ステラも見守っている。
「どうだステラ、無事にトレースできたか?」
「はい、問題ありません。新たな攻撃方法として、いつでも使用できます」
カズヤの目くばせで気付いたステラが、バルザードの時と同じように、シデンの攻撃方法をトレースしてくれていたのだ。
冒険者として最強の剣士であるシデンの戦闘データを手に入れたのは大きい。
シデンとの戦いで得た攻撃パターンと経験は、カズヤにとって何よりも得難い収穫となったのだ。
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