066話 模擬戦
「ほう、こんなに精巧な魔導人形は初めて見たわい」
「……おい、初対面で失礼な奴らだな。俺たちは魔導人形じゃないぞ。それに冒険者として訪れたのに、政治に口を出すのはルール違反じゃないのか」
黒耀の翼の態度にムッとしていたカズヤは、ここぞとばかりに言い返してやる。
「なっ、なんじゃと!?」
人形だと思っていた存在から言い返されて、驚いたゼーベマンは咄嗟に返答できない。
「それよりお前らはアビスネビュラの一員なのか? もしそうなら今すぐにでも街から出て行ってもらうぞ」
「そ、その名前を軽々しく口にするなよ、小僧! お前たちがエストラで行なったことは、すでに我々に知れ渡っているのだぞ」
ゼーベマンが血相を変えてカズヤに反駁してくる。
カズヤは鎌をかけてあえてアビスネビュラの名前を出してみたが、口振りからすると一員である可能性が高い。
「奴らに喧嘩を売るなんて、なかなか楽しそうなことをしているようだな。無茶な奴らは嫌いじゃない」
だがシデンの方は、アビスネビュラの名前を聞いても顔色ひとつ変えない。
「フフッ、ここは威勢がいい人間が多いな」
なぜか満足そうに笑うと、シデンたちは領主の間から出ていった。
「お前らは魔導人形とは全然違うさ、気にするなよ」
バルザードがやってきて二人を慰めてくれる。
別にカズヤは魔導人形扱いされたことは何も気にしていない。ただ、シデンとゼーベマンの二人は、アビスネビュラの言葉に反応していた。
「奴らについて、もっと情報を集めないとな……」
「黒耀の翼ですか?」
カズヤの独り言にステラが反応する。
「ああ。話しぶりからすると、シデンとゼーベマンの二人はアビスネビュラの一員の可能性が高い。奴らからアビスネビュラについて詳しく探れるかもしれないぞ」
彼らの動向には気を付けなければいけない。
カズヤは黒耀の翼への警戒心を高めていくのだった。
※
次の日、黒耀の翼が新首都の建設現場にやってきた。
カズヤはしばらくの間、その後ろから付いて行くことにした。黒耀の翼が街で何をするのか分からないので、少し様子を見てやるつもりだった。
するとカズヤの姿を見つけると、シデンの方から話しかけてきた。
「お前はカズヤとかいったな。たしかに魔力が流れていないようだが、爺の言うように本当に魔導人形ではないのか?」
「だから違うと言っているだろう、これでも人間のつもりだ」
「おい、小僧。若への口のきき方に気を付けろ!」
王族に対する敬意の無いカズヤの言い方に、ゼーベマンが目の色を変えて突っかかってくる。
しかし、カズヤの方が涼しい顔だ。
「お前たちは冒険者としてここにいるんだろう。それなら敬語じゃなくても構わないじゃないか」
黒耀の翼は、冒険者と王族の立場を都合よく使い分けてくる。そのことに、いらだちを覚えていたカズヤは少し強めに言い返した。
「ふふ、その通りだ。爺、気にするな」
シデンは楽しいことを言われたように笑って受け流す。
アリシアもそうだったが、この世界の王族はタメ口を使われるのが、そんなに楽しいのだろうか。
「それにしても、お前からは危険な香りがする。強さの底が知れない」
シデンは値踏みするようにカズヤを見た。
もちろん出会ったことも無いザイノイドだが、すでに実力を見抜いているのかもしれない。
「どうだ、俺と模擬戦をやってみないか?」
「話、若! めったなことを言わないで下さい。他国の雑兵と模擬戦なんて評判に関わります」
シデンの言葉に黒耀の翼のメンバーが色めきたった。
パーティーのリーダーで皇太子でもあるシデンが、他国で戦闘を行なう予定は無かったのだろう。
「模擬戦か……」
シデンの申し出をカズヤは値踏みする。
Sランクというこの世界の最高峰の強さを見ておくのは、カズヤにとっても悪い話ではない。
「よし分かった、やろう。実剣を使うのか?」
「怖いのであれば木刀に変えてやってもいいが……」
「安い挑発だな。乗ってやるよ」
黒耀の翼の態度に腹が立っていたカズヤは、いきおい言葉も強くなる。
それにしても、シデンも血の気が多い皇子様だ。他国で堂々と喧嘩を売るなんていい度胸をしている。
「おいカズヤ、まさか本気でやるのか!?」
様子を見ていたバルザードが、心配して駆けつけてきた。
「Sランクの実力を見ておくのは、悪いことじゃないかなと思って」
「まあ確かにな、めったにできる経験じゃない。やるなら、シデンが使っている剣に気を付けろよ。最高級の魔法剣だから、生半可な武器だと武器ごと斬られてしまうぞ」
バルザードのアドバイス通り、シデンが鞘から抜いた剣は刀身が青白く輝いている。見るからに切れ味が違いそうだ。
「ステラ、何かいい武器はないかな?」
「それなら電磁ブレードはどうでしょうか。対人戦のようなアナログな戦闘は珍しいので、数は多くないのですが」
ステラが近くに止めてあったウィーバーから、短い棒のような物を取り出して手渡した。
「これは?」
「ブラスターと同じ光線でできた剣です。これは柄の部分で、命令すると刀身の部分が出てきます」
まさに期待したような未来的な武器だった。
柄の部分から金属のような棒が飛び出して、その周囲にエネルギー波である光線が刀身を作り出す仕組みだ。
意思によって、伸び縮みで長さの調節もできる。
「武器は問題ないな。……あと、この経験を無駄にしたくない。ステラ、例のあれも頼むよ」
「……あれですね。分かりました」
カズヤがステラに目配せする。
この世界の最強の一人と戦えるのだ。この経験を生かさない手はなかった。
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