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065話 会談


 この話を遮った男が、宮廷魔導士のゼーベマン伯爵だろう。


 シデンの胸辺りほどの身長しかなく、頭の髪の毛も寂しく減っている。焦げ茶色のローブをまとって杖を握っており、いかにも魔法使いといった様子だ。



「それはじいが気にしていることだ。俺は魔物の方が優先だ。俺たちはギガントエイプを追っている」


 性格的に、皇子の方は冒険者気質だが、魔導師の方は政治家気質といったところか。


 確かに隣国で新たな都市が勝手に開発されていたら、領土の拡大を目論んでいるのではないかと、警戒する気持ちも分かる。



「冒険者としてなら、無闇に入国を拒否できないな。あいにく、ここら辺はまだ建設中だから宿屋も無いんだ。設備が整っているセドナの旧市街の方へ行ってくれよ」


「おい、お主。首都が崩落しただけでなく、ウミアラシまで出現したというではないか。なぜ、こんな場所に遷都する予定なのじゃ?」


 ゼーベマンが単刀直入に尋ねてくる。



「そういう政治的なことは、下っ端の俺に分かるわけ無いだろう。もっと偉い奴に聞いてくれよ」


「では、ここの代表者にお会いしたい。取り次いでくれ」


「おいおい、あんたたちは冒険者として来たんじゃ無かったのかよ。……まあ、とりあえず話だけは伝えてやる。とにかく、今は旧市街に行ってくれないか」


 少し嫌味も込められたバルザードの返答に納得したのか、黒耀の翼の面々は言われた通りセドナの旧市街の方へ歩いていった。



「バル、あいつらは何しに来たんだ?」


 遠くから様子を眺めていたカズヤが、戻ってきたバルザードに問いかける。


「皇子様は魔物退治が目的のようだぜ、他の連中は違うみたいだがな。奴らが冒険者として魔物を退治してくれるだけなら、有り難いんだがな……戦いの助っ人としては、この上ない戦力だ」



「でも、そんな奴らが街の周りをうろうろするのは少し落ち着かないな。奴らの詳しい情報が知りたいけど」


「そんなことより、カズヤ。あいつらに建設の様子を見せても大丈夫か? 怪しげな魔導具が飛び交っているのを見たらひっくり返るぜ」


 たしかに、ボットを使った街づくりは、この世界の人間には信じられない光景だ。



「でも、コソコソ隠れながら建設する余裕もないしな……まあ、堂々と作ってやろうぜ。どうせ見たところで仕組みは分からないし、真似できるもんじゃないんだから」


 バレたところで何もできないはずだと、カズヤは開き直った。




 結局、遷都までのセドナの代表を務めているアリシアは、黒耀の翼と面会することになった。


 シデンは有名な冒険者だが、隣国の王族でもある。結局ほうっておくことは出来なかったのだ。


 新市街は建設中なので、セドナの旧市街にある領主の館で会うことになった。



「これはこれは、シデン皇子。お久しぶりです。今回は冒険者としてこちらへ来たと聞きましたが、何の御用でしょうか?」


 アリシアは氷のような笑顔を浮かべて挨拶した。


 シデンと会えて嬉しいなどとは微塵も思っていないことが、言葉と態度にあふれている。


 部屋全体に冷気が流れるような、アリシアの冷たい対応だった。



 アリシアは、ゼーベマン伯爵がセドナの新首都建設を気にかけているという話もカズヤから聞いていた。


 他国の政策に口を出してきた無礼を牽制するための駆け引きのひとつだった。いつもの気さくなアリシアからは想像もつかない、王族としての厳しい姿だ。


 為政者としてのアリシアの本気の顔を、カズヤは初めて見た気がした。



「俺はそのつもりなんだがな。仲間は他のことが気になるらしい」


 シデンが言葉少なに言うと、ゼーベマンが終わりかけた会話に横から割って入ってくる。



「お久しぶりでございます、アリシア殿下。私はタシュバーン宮廷魔導師のゼーベマン伯爵ですじゃ。単刀直入に窺いますが、なぜ新たな街をここに建設されておりますのじゃ? 我が国の国境にもかなり近い場所ですが」


「これは陛下のご命令です。陛下の御心は、私などには推し量ることは出来ません」


 アリシアとしては、国王を敬ったフリをしつつ有耶無耶に終わらせたい。



「我が国の国防にも関わる話ですじゃ。しばらくこの街に滞在して、様子を見させてもらいますぞ」


「おい、失礼なことを言うなよ! お前たちはエルトベルクの内政に口出しできる立場じゃないだろう」


 ゼーベマン伯爵の失礼な態度に、我慢できなくなったバルザードが凄みながら口をはさむ。


 部屋のなかが、一触即発の険悪な空気につつまれる。



「とにかく冒険者として滞在するのは自由ですから、どうぞお好きになさって下さい。新首都の建設は我が国の事情ですので、他国には関係が無い話です」


「それが本当かどうか確かめさせてもらいますね、アリシア殿下。もし、御用があればいつでも声をかけて下さい」


 ここで初めて口を開いたのが、黒妖精族のリオラという女性だ。



 バルザードによると、ハルピュイアという妖精の一族らしい。彼女の背中からは黒くて大きな翼が生えている。


 これが『黒耀の翼』の名前の由来だろう。褐色の肌で胸が大きくグラマラスだ。男ならばどうしても見てしまうような美しい外見だった。



「こちらからは何も話すことがありません。いつでも好きな時に帰って下さって構いませんよ」


 アリシアがリオラの目すら見ずに冷たく返答すると、シデンはフッと軽く笑い出口の方に向かった。



 すると、ゼーベマンが退室する途中でカズヤとステラを見かけて立ち止まった。


「ほう、こいつらには魔力が通っていないようじゃ。こんなに精巧な魔導人形は初めて見たわい」


 つられて黒耀の翼の面々が、二人をまじまじと見つめる。


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