064話 黒耀の翼
セドナでの建設を始めてしばらく経ったある日のこと。
見るからに只者ではない雰囲気の冒険者たちが、遷都先のセドナの新市街を訪れた。
遠目でその姿を見つけたバルザードは、驚いた表情を見せながら隣で状況が読み込めずにいるカズヤに耳打ちする。
「おいカズヤ、あいつらはSランクパーティー『黒耀の翼』だぜ!」
「Sランクだって!? たしか冒険者はSランクが最高だとか言ってたよな。それじゃあ、あいつらが最強のパーティーなのか?」
「ああ、Sランクは他にもいるが、この辺りじゃ奴らの右に出る者はいない。個人としても他のメンバーはAランクで、リーダーのシデンはSランクだ。それに驚くなよ……」
バルザードが珍しくカズヤの反応を楽しむように、会話の間をあけて顔をのぞき込む。
「リーダーのシデンは、隣国タシュバーン皇国の皇太子様だぜ」
「何だって!? 皇太子がSランク冒険者?」
「そうだ、剣士としての実力も相当なものらしい。見た目はあんなふうに冷たそうに見えるが、情に厚くて優秀な皇子だともっぱらの噂だ。ほら、あの真ん中に立ってるのがそうだぜ」
パーティーの真ん中を堂々と歩いているのが、シデン皇子なのだろう。
見た目は20代後半といったところだろうか。
長髪の金髪碧眼で背がスラリと高く、整った顔立ちをしている。男であるカズヤから見てもかなり端整な顔なので、周りの貴族の女性たちは黙っていないだろう。
身軽に動けそうな、銀色の鎧が胸や肩を覆っている。腰にはいかにも価値がありそうな、立派な剣をさげていた。
「なんか知らないが、王族ってのは剣士でも魔法使いでも優秀な人間が生まれやすいんだ。単に徹底した教育のおかげかもしれないけどな」
たしかに、アリシアも優秀な魔法使いだ。
遺伝のうえに英才教育まであれば、優秀な人物が生まれてもおかしくないのだろうか。
「でも、そんなに偉い奴が気軽に外を出歩いて大丈夫なのか? あいつらにとって、ここは外国だろう」
知らない男のことながら、王族でありながら不用心過ぎる様子に、カズヤは心配になってきた。
アリシアが言うように、王族自ら国民の手本にならなければ示しがつかない、という考え方は理解できる。
だが、その身に何かあったときの影響が大きすぎる気がする。
「王族とはいえ冒険者だからな、危険は覚悟のうえだろうぜ。それに皇太子が有名な冒険者というのは、国民の自慢にもなっているんだ。
タシュバーンは国をあげて、シデン皇子を応援している雰囲気もあるぜ。それに、もし万が一が起こるなら、そいつが実力不足なだけさ。王族には後継者なんて山ほどいるからな」
皇太子が冒険者として活躍することが、国威発揚に利用されているということか。国のトップの人間が優秀なことは国民の自慢にもなるのだろう。
「それに、黒耀の翼は皇国を代表する強力な仲間に守られているからな。シデンの横にいる老人は宮廷魔道師のゼーベマン伯爵だ。
そんで、ゴツい重装備の男が騎士団イチの実力者イグドラ。それに、黒妖精族のリオラがサポート役で付いているんだからな」
国を代表する実力者が皇太子様を護っているということか。
突如として黒耀の翼が現れたことで、周りの人間たちに動揺が走る。急に辺りが張り詰めた雰囲気になってきた。
「連中のおでましとなれば、誰かが相手をしないとな。市民は巻き込みたくない。俺様が行ってくるぜ」
そう話している間にも、奴らは堂々とした足取りでこちらへ歩いてくる。
バルザードが飛び出していった。
「……シデン、あの男は元Sランクのバルザードだ」
青黒い甲冑を着た大柄な男性が、隣にいるシデンに耳打ちする。この男がイグドラという騎士だろう。
大柄で生真面目な顔をしていて、いかにも武人といった風情だ。仲間内だからか、皇子相手にも敬語を使わずに友人のような口調で話している。
バルザードが黒耀の翼の前に立ちふさがった。
「失礼。貴殿らは黒耀の翼の方々だとお見受けする。皇太子なのか冒険者なのか、どちらの立場でこの国へお越しか?」
普段から、誰に対しても堂々としているバルザードとしては最大限の丁寧さだ。
「お前はバルザードだな。アリシア姫の護衛として、以前我が国に来たのを覚えているぞ」
皇太子シデンは、自国を訪れた時のバルザードの顔を覚えていた。
バルザードも、さすがは元Sランク冒険者といったところだ。周辺国にも顔と名前が轟いている。
「今回は冒険者としてだ。我が国の国境付近を荒らしている魔物がこちらに流れてきている。そいつを始末したいのだ」
シデンが淡々とした様子で答えた。
「若っ、目的はそれだけでは無いですぞ! 隣国のエルトベルクが新たに大規模な都市を建設しているのが気になっておるのじゃ。その視察も兼ねてじゃよ」
魔法使いの老人が話を遮った。
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