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063話 建設開始


「お前のおかげですっかり開拓できたよ。ありがとな」


 最後はウミアラシを海へ連れて行って別れるだけだ。しかしカズヤは、自分にすっかり懐いたウミアラシと別れるのを渋りはじめた。



「なあ、こいつを飼うことはできないかな。街の守り神になると思うんだけど」


「マスター、残念ですが不可能です。陸地にはカメさんの餌がほとんどありません。3日分の餌を集めるだけでも大変な作業でした」


 珍しくステラが不平を口にする。


 巨大なウミアラシの食事を集めるのは、想像以上に大変な作業だったのだ。



「そうだよな……。お前も海に戻りたいもんな」


 そう言うと、ウミアラシはギャアと鳴き声を上げ、ドスドスと大きな足音を鳴らしながら海の方へ歩いて行った。



「たまには街のことを見回りに来てくれよな!」


 大声でカズヤが叫ぶと、ウミアラシは立ち止まってこちらを向き、もう一度ギャアを鳴いた。


 カズヤには、その鳴き声が「分かった」と言っているような気がした。



 こうして、かつてのペットを思い出しながら、カズヤは泣く泣くウミアラシと別れる。


 カズヤとステラは寂しそうな顔でウミアラシの姿を見送った。



「いったい私たちは何を見させられているのかしら……」


「相変わらず、信じられないことをする奴らですぜ」


 アリシアとバルザードは、目の前で起きていることを受け入れられず、ただ呆然と眺めたのだった。




 思いがけない侵入者もいたが、街づくりは順調に滑りだしていた。


「アリシア、魔石の商売はどうなんだ?」


「順調よ。質が良くて大きな魔石が格安で手に入るから、国外へもどんどん売れているの。国内の需要も満たしてくれるし絶好調よ」



 リサイクルした魔石を売却する商売も問題なさそうだ。首都を移転する大事業には、お金はたくさんあった方がいい。


 先日のゴンドアナ王国との戦いで捕らえた捕虜たちは、食料や物資と交換することでゴンドアナ王国と交渉できている。


 ゴンドアナ王国にとっては安い取引だ。


 まずは1000人の捕虜を釈放する代わりに、大量の食料と物資と交換することができていた。



 セドナの隣の「新市街」と名付けた場所には、エストラとほぼ同じ図面で街造りをする予定だった。


 エストラの街の配置は、ステラと衛星が集めてくれたデータを利用する。それをこの場所に再現するのだ。


「面白いなあ! 本当に街ができあがっていくよ」


 カズヤは建設現場を眺めながら、思わず本音をもらした。



 ウミアラシの力を借りて、土地を大まかに開拓することに成功した。


 次は地盤を固めて、建物用のブロックを作る作業だ。


 そこでは建築用のボットたちが活躍した。中型のボットが主に地盤や杭打ちをし、小型のボットはブロックの製作を行う。



 材料となる土砂を運んだり、出来上がったブロックを運ぶのは魔導人形の仕事だ。


 魔導人形という名のゴーレムは、もくもくと同じ作業を繰り返すのに適している。魔導人形の動力源も魔石なので、魔石はいくらあっても困らない。



 そして魔導人形が運んできたブロックを、雇われた人夫たちが積み上げていく。


 仕事としては、ボットによって線が引かれたところに、ブロックを積んでいくだけの簡単な作業だ。


 積み上げていくのは少し技術が必要だが、慣れてくれば難しい作業ではない。


 もともとはエストラで仕事を失った人たちが中心になっている。セドナの旧市街の住民も働いているので、新たな公共事業のようになってきた。



 そして、職人ギルドの協力で、住宅や家具の職人も徐々に連れてきている。彼らには窓やドアの設置などを行ってもらうことになっている。


 宇宙船の技術は大規模な作業を行うには向いているが、細かな作業は熟練の職人の方が早くて正確な場合が多い。


 なにより、自分たちが住む新しい街を、自分たちの手で作ってもらうことで、愛着を持ってもらえる。



 すでに800人ほどの人夫たちが働いていて、急ピッチで作業が進められていた。


 この辺りの、人への指図や段取りをつけるのはアリシアが上手だった。


 アリシアが王女や魔法使いであるということを脇においたとしても、すぐれた実務家の印象は変わらない。



 ボットと市民が一緒になって作業している様子は壮観だった。


 てきぱきと効率的に無言で作業するボットと、ワイワイ話しながら楽しそうにブロックを積み上げる人間たちが対照的だ。



「新しい街はどうだい? 問題なく作れそうかな」


 建設現場を眺めていたカズヤは、作業している市民の一人に話しかけた。


「……ああ、カズヤさんか。新しい街を一から作るって言うから心配してたけど、この調子なら何とかなりそうだよ」


「それは良かった。なにか気になる点はあるかい?」



 現場から声を吸い上げる大切さは、日本の仕事で叩きこまれていた。


「そうだなあ。エストラと同じ配置にするのはいいんだけど、もう少し井戸が多くてもいいんじゃないか。エストラでは水が足りなかったけど、ここならたくさん井戸を掘れる気がするんだが」



 確かに指摘された通りだ。


 以前のエストラは地下が空洞だったせいで、井戸が少なく水不足になることが多かった。セドナなら遠慮なく掘っても問題は無いはずだ。


「そうだな。教えてくれてありがとう、井戸の数を増やしてみるよ」


 市民との何気ない会話から、得られる知見も多かった。


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