062話 開拓
急遽ステラに用意してもらったウミアラシの餌をウィーバーの後ろにくくりつけると、カズヤはウィーバーに乗ってウミアラシの目の前で気を引いた。
ウミアラシの視界に入るよう、食べ物を釣り餌のように見せびらかす。果物がなっている木や、死んだ魔物をくくりつけた餌をチラつかせた。
すると、ウミアラシは面白いようにカズヤの後をついて走ってくる。
「よし、罠にかかったな。このまま走り続けてくれよ」
カズヤのアドバンテージは疲れを知らないことだ。当然ながら、ウィーバーの速度にウミアラシが追いつくことは無い。
この巨大なカメの魔物と長時間鬼ごっこをして、周辺の木を切り倒してもらうつもりなのだ。
ウミアラシが通り過ぎた後には、倒れた樹や破壊された岩が転がっている。
アリシアたちは、カズヤとウミアラシから一定の距離を取ったところで、人間と巨大なカメとの追いかけっこという異様な光景を見守っていた。
「……よくあんなこと思いついたわね」
「まったくですな」
アリシアとバルザードは完全に呆れていた。
ドスドスと大きな足音と振動が周囲に鳴り響いている。
はじめは心配そうに様子を伺っていたセドナの住民たちも、ウミアラシが街を襲って来ないことがわかると、やがて見世物を見るかのように楽しみ始めた。
10万もの人が住む街を作るには、周囲の森を開拓する必要がある。
いくら平地が広がっているとはいえ、大量の樹が生えたままだったり岩石が転がっている土地は、そのままでは利用できない。
セドナ周辺を、避難先として「土地」を確保できても、それが人間が住める土地であるかどうかは別の話だ。
カズヤはどうやってセドナ周辺の森を開拓するのかを以前から悩んでいた。
宇宙船に備え付けられている設備やステラの装備を聞いても、大規模に開拓できるような装置は持っていない。
そんな時に、このウミアラシに出会ったのだ。大量の樹を倒して岩を破壊しておけば、今後の開拓はかなり楽になるはずだった。
丸1日鬼ごっこを繰り返すと、周囲の地形がかなり拓けてきた。
「……おっと」
長時間追いかけっこを続けているうちに、カズヤは何度かウィーバーから落っこちてしまった。
しかし、それでもウミアラシに襲われることはない。
ウミアラシはじっとカズヤが乗るのを待つと、再び餌を求めて追いかけてくる。それは魔物としての敵意は無く、お互いにまるで楽しんでいるかのようだった。
「この感覚、なんか覚えているぞ!」
カズヤは、小さい頃に飼っていたペットの犬を思い出した。
今のウミアラシのようにカズヤが走るのを待って追いかけてくる。いいタイミングでご褒美の餌をあげれば、ペットとの散歩と変わりがない。
思わずカズヤの口から笑いがこぼれた。
二人だけの散歩が、お互いに楽しくて仕方がなくなってきたのだった。
カズヤが、楽しそうにウミアラシとじゃれ合う様子を見て、アリシアは我が目を疑った。
「カズヤにはテイマーとしての才能もあったのかしら? 見ている光景が信じられないわ」
S級モンスターであるウミアラシをテイムした話は、さすがに聞いたことがない。
もしかしたら、ウミアラシという魔物は大きさや強さから忌避されていただけで、意外と大人しくて人が好きな魔物なのかもしれなかった。
結局、丸2日間にわたって鬼ごっこは行われた。
逃げて、疲れたら一時停止してウミアラシに餌をあげて、そしてまた逃げる……ということを繰り返し、ウミアラシが疲れて眠ったら起きるのを待っていた。
「これなら、倒れた木を処分するのも手伝ってくれるかな?」
すでにアリシアとバルザードはカズヤのことは放置して、遷都先のセドナの街で作業していた。
ステラはウミアラシの餌を探すのに大忙しだ。
3日目には、カズヤは牛馬耕のように、ウミアラシの後ろにトンボのようなものをくっつけた。
すでにウミアラシはカズヤをご主人様のような目で見つめ、大人しく付けられるがままになっている。
追いかけっこを再開すると、ごみ処理のように木が集まってくる。
そのように鬼ごっこを繰り返していると、セドナの街周囲の地形がかなり拓けてきた。
初めは森が生い茂り雑草が生えて固まった土地も、ウミアラシの大きな足と爪によって耕され、焦げ茶色の土が現れて柔らかそうな土地に変わっていた。
その名の通り、普段は海を荒らす魔物かもしれないが、今回はいい具合に陸地を荒らしてくれたのだ。
こうしてカズヤとウミアラシの働きによって、立派に拓けた平地が出来上がる。
新たに王都を建設するには十分な広さだった。
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