061話 ウミアラシ
カズヤたちはゴンドアナ王国の侵略を、一旦は退けることができた。引き続き、セドナへの遷都の準備に取りかかる。
だがカズヤは、遷都先のセドナ周辺を詳しく調べていないことが気にかかっていた。
「遷都先のセドナっていうのはどんな街なんだ? 街の周辺も見ておきたいし」
「衛星の映像を共有してもいいですけど、ウィーバーで向かえばあっという間です。先に現地を見ておきますか?」
「もちろんだ。できればアリシアたちにも来て欲しいんだけど……」
アリシアとバルザードも含めて、四人はウィーバーに乗って遷都先のセドナに向かう。
ウィーバーこお陰で、すぐにセドナ周辺へとたどりつく。
だが思いがけずその道中で、セドナの方角から必死で逃げ出してくる住人たちと出会ったのだ。
「おい、皆一体どうしたんだ!?」
「セドナの近くに巨大な化け物が現れたんです!」
「巨大な化け物だって!? ステラ、何がいるか分かるか」
「……街の海側の方に、とんでもなく大きな生き物がいますね。高さ50mはある巨大な魔物です。この映像を見て下さい」
衛星の映像を確認したステラが、珍しく唖然とした表情で報告する。
そして、カズヤたちにも分かるように空中にホログラムを映し出す。
そこには巨大なカメのような桁外れに大きな魔物が、悠然と森の中を歩いていた。
「こいつはウミアラシだぜ! とんでもない奴が出てきちまったな」
「ウミアラシ!?」
「ふだんは海に棲息している魔物だが、時々陸地にも上がってくるんだ。ひょっとしたらエストラの崩落の振動が、奴を刺激してしまったのかもしれないな。
あいつはS級モンスターだから、倒そうなんて考える奴はいない。出会っちまったら運が悪いと思って逃げるしかないぜ」
魔物について一番詳しいバルザードが教えてくれる。
「でも、セドナの街が襲われることだけは避けなくちゃ。もう少しだけ近付いてみよう」
カズヤたちは急いでセドナへ向かい、ウミアラシと呼ばれる魔物を探す。
すると探すまでもなかった。
セドナの南方の森に、身体全体が樹からはみ出した巨大なカメに似た魔物が姿を見せているのだった。
山を乗せているのかと思うほど甲羅は大きく、不規則な凹凸が岩山のように連なっている。大木を何本も集めたみたいに太い6本の足が、大地を踏みしめて歩くたびに地響きが伝わってきた。
「こ、こいつか! とんでもなくでかいな……」
カズヤはその大きさに呆然とした。
まるで大きなビルが歩いているようだ。近くで見ると、よりその大きさに圧倒されてしまう。
大木を何本も集めたような太い足が6本もあり、背中には山のような甲羅が乗っている。甲羅の表面はごつごつと尖って生えているので、まるで岩山のようだ。
「このウミアラシとかいう魔物は狂暴なのか?」
「いや、刺激しなければ自然と海へ帰ってくれるはずだ。だが怒らせると俊敏だし手がつけられなくなるぜ」
ウミアラシは大人しそうに森の樹を引っこ抜いて食べている。慣れてくると、その様子は穏やかな草食動物のようにも見えてくる。
「何だか可愛らしいですね。ペットのカメさんみたいです」
思いがけず可愛いもの好きのステラの心を掴んだようだ。
そう言われると、カズヤも水槽で見かける愛くるしいカメが大きくなっただけのようにも思えてくる。
「あんな巨体を見て可愛いと思えるなんて凄いわね。私には恐怖としかうつらないわ」
目をハートにするステラを見て、アリシアが信じられないという表情をしている。
するとウミアラシの巨体を見ていたカズヤは、あることを閃いた。
「バル、このウミアラシの好物が何かわかるか?」
「好物? 雑食だから何でも食べるって話だが……そんなことを聞いてどうするんだ?」
「そうか。いや、ちょっと思いついたことがあるんだ」
カズヤはこの一帯を開拓するのに、このウミアラシという巨大な魔物は都合がいいのではと思ったのだ。
「ステラ、こいつの餌になりそうな物をたくさん用意してくれないか。雑食で何でも食べるそうだ」
「カメさんの餌になるような物ですか。分かりましたけど……マスター、いったい何をするつもりですか?」
「鬼ごっこだよ」
「……はい?」
一緒に聞いていたアリシアとバルザードも目が点になっていた。
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