057話 魔導人形
多数の兵士がぶつかり合う集団戦闘は、カズヤにとっても初めてだ。
「ステラ。宇宙船のなかに、集団戦で役に立つ武器ってあるのか?」
「調査用の宇宙船なので兵器はほとんど載せていません。拠点を作った時の防衛用の固定式砲台が3機、移動式の砲台が2機あるだけです」
「その砲台というのは人間に攻撃することは出来るのか?」
「もちろんです。人間への攻撃が制限されているのはザイノイドだけです」
それなら戦力になりそうだ。それにしても……
「ということは、俺はどんな扱いになるんだ? ザイノイドになったから、もう人間は殺せないということか?」
「いいえ、マスターのように元が人間種の場合は別です。ザイノイド化したら人間の命令に従うような決まりはありません」
それはそうか。ステラのように、最初から全て機械で作られたザイノイドに対してのみ厳しい制約があるのだ。
人間が何かの理由でザイノイド化しただけで、他の人間の命令に逆らえない訳ではない。
「それなら空中戦に使えるのは2機だけということか……」
「いえ、5機とも使えますけど」
「ん、どういうことだ? 固定式と移動式があるんだろう。違いは何なんだ」
「固定式は空中で自律して移動できますが、敵の攻撃を回避する能力はありません。移動式は、敵の攻撃を回避しながら攻撃できます。ですから、固定式砲台を"空中に固定すれば"利用できます」
「そ、そうか、移動できても回避できなければ固定式と呼ぶんだな……」
要は敵の攻撃を回避できるかどうかが違うだけらしい。回避できなくても自律して移動できるなら、移動式と呼んでも良さそうな気がするのだが。
そもそも、砲台を「空中に固定する」という概念が理解できない。
科学力が違い過ぎると、もはや言葉の使い方も違うようだ。
「それなら、すぐに砲台を全部呼び寄せてくれるか。それと、座布団みたいなF.A.《フライトアングラー》も、出来る限りたくさんだ」
「分かりました、すぐに呼び寄せます」
ステラの持つ装備を使い、すぐさま迎撃体制を整えていく。
それにしても、ステラはこれほど詳細な情報をいつ手に入れていたのだろうか。
事前に教えてもらっていたら、もっと対策を練る時間があったかもしれないのだが。
「ステラ、もし重要な情報が分かったら、もっと早くに教えてもらいたいんだけど……」
「教えることは簡単ですけど、そんなに沢山の情報をマスターに伝えても大丈夫ですか? いま現在も、エルトベルク近辺では怪しげな工作がたくさん行なわれています。全て教えると、マスターの頭がパンクしないか心配です」
なるほど、何百ものボットからの情報を全て処理できているのは、ステラが情報処理型のザイノイドだからだ。
それが有益な情報かどうかを判断する為には、膨大な情報を判別しなければいけない。
ゴンドアナ王国での村の襲撃を知っていても、戦争の口実に使うのでなければ知らなくて良い情報だ。
ステラは、エルトベルクに関係しているから教えてくれた。
軍の編成をしていても、国境の警備であれば知る必要はない。エルトベルクの国境を越えて攻めて来たから教えてくれたのだ。
記憶力や判断力が人間のままであるカズヤは、一度に一つのことしか考えられない。ステラが持つ情報量は、カズヤの頭ではとても処理できないだろう。
「ごめん、確かに無理だわ。必要そうな情報を厳選して教えてくれ」
「もし、処理したいのであれば、マスターの……」
「脳みそをザイノイド化しろと言うんだろう。生き物の部分が少しでも残っていることが、俺の心の支えなんだ。自分から変えることは無いと思うよ」
「了解しました」
ステラの報告を聞いたアリシアは、状況を理解するとすぐに頭を切り替えた。
「とにかく進軍を防ぐしかないわね。すぐに騎士団と兵士を編成しないと」
「アリシア、エルトベルクが防衛に出せる兵力はどのくらいなんだ」
「エストラ市内や他の都市の防備にも必要だから、今すぐ用意できるのは2500人程度だと思う。それと魔導人形を200体ほど連れて行けるわ」
「魔導人形?」
カズヤは初めて聞いた言葉だった。
「あら、知らなかったかしら。土魔法が得意な魔法使いが作り出す、自分で戦う木や泥の人形よ。粗悪なものはゴーレムと呼んだりもするわ。エルトベルクには優秀な魔導人形も多いのよ」
ゴーレムと言われれば想像がつく。
しかし、魔法を使っているとはいえ、この世界でも自律型ロボットを作れることにカズヤは少なからず驚いた。
「そのゴーレムには、どんなことができるんだ?」
「普通の魔導人形だと、土魔法使いに指示された攻撃と防御くらいしかできないわ。突撃するか一定ラインを越えた敵への迎撃くらいね。なかには魔法を使える魔導人形もいるけど……」
「ゴーレムなのに魔法がつかえるのか!」
魔法の使い方としてカズヤに最後の希望が出てきた。魔導人形でも使えるなら、ザイノイドが使えてもおかしくないのではないか。
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