053話 魔泉
カズヤには都市計画以外にもやっておきたい準備があった。
それは自身の戦闘力の強化だった。
防御に関しては、ステラが設定してくれた自動防御のおかげで、大半の攻撃は無力化できている。
しかし、攻撃に関しては不安だった。
カズヤは剣の振り方すら自信が無かったので、実際の戦闘では体当たりやパンチなど身体を使う攻撃しかできなかった。
魔法の抵抗力が強い相手にはブラスターの光線が効かない場合もある。早いうちに、実剣での攻撃方法を学んでおきたいと思っていたのだ。
「バル、俺に剣の使い方を教えてくれないか?」
「いいけど、俺様が得意なのは槍だから、剣を教えるのは上手くないぜ。実戦形式で良かったらいつでもできるが」
カズヤの頼みに、バルザードがニヤリとしながら答えた。
「それでもいいから剣を教えてくれ。どこで教えてくれる?」
「カズヤとやるなら派手になりそうだな。街の外に出た方がいい。姫さん、カズヤと模擬戦しますけど、どうします?」
「私も一緒に魔法の練習をしようかしら。魔術ギルドには誰もいなくなったから、遠慮しないでできるわ。気になっていた魔法を色々試してみたいの」
戦闘の準備にはアリシアも乗り気だった。
「せっかく人間より優秀なザイノイドになったんだから、有効に活用した方がいいだろう? 剣の使い方くらい身につけないとな」
「……マスター、ちなみにザイノイドと人間の身体の、どちらが優秀かご存じですか?」
するとカズヤの発言が気になったのか、珍しくステラの方から問いかけてきた。
「もちろん、ザイノイドの方が優秀じゃないのか」
腕力も脚力もザイノイドの方が優れている。一般兵の攻撃くらいでは身体に傷がつかないし、何より疲れ知らずだ。
「たしかに戦闘力だけならザイノイドの方が上です。ただ、自己治癒能力や燃費に関していうと、人間の身体の方がはるかに優秀ですよ」
「そうなのか、でもどこがいいのか想像つかないな」
「例えば、ザイノイドの身体の表面は自動再生金属を使っていますので、多少の傷なら自己修復できます。しかし、深く傷ついたり内部機構が傷つくと、交換するしかない部品の方が多いのです。でも生物である人間なら、致命傷で無い限り自己修復できますよね。
それに、動力源であるエネルギーコアは交換はできても宇宙船で作り出すことができないので、備蓄した物しかありません。しかし、人間は食料だけで活動することができます。ですから、元の星でも人間の身体の方を大事にする人がたくさんいました」
説明されると、カズヤも納得できることが多かった。
ザイノイドは人間と似たような五感を使って外部の環境を感じることができる。しかし、それはあくまでも似ているだけで同じではない。人間の感覚とは違っている。
空気の温度を感じることはできても、それがザイノイドの命の危険に直結することはない。
暑すぎても寒すぎても、情報として理解するだけだ。
耳の聴力も向上した。今までなら聞き取れないような音や声を聞き取ることができる。
しかし、それは聞きたくもない音や声まで聞こえてしまうということだ。カズヤはあえて聴覚の機能を少し落としてもらうようにステラに頼んでいた。
何より、カズヤはザイノイドになりたくてなった訳ではない。人間の身体にはまだ未練を感じているのだ。
カズヤはステラの話を聞いて、考え込んでしまった。
「……すみません。マスターは、自ら望んでザイノイドになった訳では無かったですね」
その様子を見たステラは、少し言い過ぎたと感じたようだ。気まずい雰囲気が辺りをおおう。
「なんだよ、大怪我が治ったんだから良かったじゃねえか。以前のカズヤも良かったけど、せっかく強くなったんだから頼りにしてるんだぜ」
バルザードは、何を悩んでいるのかという風にカズヤを励ます。
単純な考えかもしれないが、カズヤは少し元気づけられた。
少し考え過ぎたかもしれない。
せっかく命を拾ったんだ。この身体を使いこなしてやると決めたはずだった。
「そうだな。もっと皆の役に立てるように強くなりたいんだった」
カズヤは顔をあげて、にこりと笑う。
いつものカズヤの笑顔を見て、ステラとアリシアはホッとするのだった。
※
「いつも俺様が訓練に使っている場所があるんだ。ついて来いよ」
訓練場へ向かうバルザードとアリシアの後ろを、カズヤとステラが付いていく。
エストラの街を出てしばらく進むと、街道の脇に人だかりが出来ているのが目に入った。
「あの人たちは何をしているんだ?」
「あれは魔泉といって魔力が湧き出ている泉よ。触れることで、自分の魔力を回復することができるの」
アリシアが初めて聞く単語を口にした。
「魔力って地面から湧き出ているのか!?」
「湧き出るだけじゃないんだけど、そういう場所が世界中にあるの。地下水や温泉のように、山や大地からの魔力が噴き出ていると言われているわ。カズヤも試しに触ってみる? 魔力の感覚が分かるかもよ」
自分に魔力があるか確かめられるかもしれない。アリシアの提案にカズヤは乗ってみた。
魔泉と呼ばれた場所に着くと、そこは崖の切れ目の端っこの方だった。地面の上に大きな魔石が置かれている。
元の世界の大型テレビくらいの大きさで、石の中を怪しげなエネルギーが渦を巻いているのが見える。
自分の身体の中に魔石や魔力が無いと言われていたカズヤは、魔法を使うことを諦めていた。
しかし、魔泉から魔力を感じられるようだと、可能性があるかもしれない。
期待をこめて、魔泉に触れてみる。
読んで頂いてありがとうございます! 「面白かった」「続きが気になる」と少しでも思ってくださった方は、このページの下の『星評価☆☆☆☆☆→★★★★★』と、『ブックマークに追加』をして頂けると、執筆の励みになります。あなたの応援が更新の原動力になります。よろしくお願いします!




