052話 課題とアイディア
カズヤはバルザードの言葉から、ある方法を閃いた。
「ステラ、元の世界にもあったんだが……。ブロックを積み上げて、家を建てていくのはどうだろう
「ブロック……ですか?」
「皆に手伝ってもらって積み木遊びをしてもらうんだよ。ボットたちには地盤整備と資材づくりに専念してもらえばいい」
「なるほど、マスターは時々賢くなりますね。たしかに、それなら工事期間を大幅に短縮できます」
ステラの少々失礼な物言いも、今のカズヤには慣れっこだ。
興奮するカズヤをよそに、アリシアが話を遮った。
「ちょっと、私にも分かるように説明してくれる? 何の話かまるでイメージが湧かないわ」
「ブロックづくりと基礎工事や杭打ちなどはボットにやってもらうんだ。そこにブロックを積み重ねる作業だけを人間がやるんだ。指示された場所にブロックを積み上げるだけだから誰でもできる。だから積み木遊びといったんだ」
元の世界にもあったように、3Dプリンターで建物を作ることを思いついたのだ。
だが、建築用ボットが5台しかないので、土地から建物まで全部作るのは無理だろう。
それなら、建築用ボットには地盤やブロック作りに専念してもらって、人間の力でできるところは、人間にやってもらった方が効率がいいと思ったのだ。
「ブロックを積んでいくだけなら、俺様のレンガ造りと同じじゃないのか。不安定とか言ってなかったか?」
「ブロックの形を工夫すれば釘や接着剤を使わなくても、しっかり固定することは可能なはずだ。ステラなら分かるだろう?」
ステラに日本古来の建築技術の話をすると、すぐに理解してくれた。星を渡る宇宙船を作る技術があるなら、城壁や建物を作るくらい問題ないだろう。
エストラやセドナで人夫を募集して、ひたすらブロックを積み上げる作業をしてもらう。
簡単な作業だから工期や費用を大幅に削減できるはずだ。
「問題は強度のあるブロックを作れるかだけど……」
「それなら大丈夫です。この世界の建築を見ると、一部を除いたら高くても5階建てくらいです。何百階建てのような高層建築では無いので、その辺りの土や樹木を材料にすれば十分な強度のブロックを作れます」
たしかに元の世界でも、植物の繊維を使った強固な素材があったはずだ。
家のなかの細かな造りは人間がやらないと無理なので、職人ギルドに手伝ってもらえばいい。
これで住居建設についての目途はたちそうだった。
新首都セドナの建築方法が決まったことで、アリシアには安堵の表情が浮かんでいた。
「建物のほうは何とかなりそうなのね。そういえば、エストラ市外の畑や畜産は崩落の影響を受けていないわ。農家の人達は今まで通りで大丈夫だと思うけど」
もちろん、街の外で生活している人達まで無理に連れていく必要は無かった。
「もちろん、それでいいと思う。エルトベルクの主要な産業は何だったんだ?」
「農作物ね。畑を広げることを制限されていたから、豊かな収穫という訳にはいかなかったけど」
はじめのうちは、農産物を増産したいというアリシアの提案を国王が拒否している理由が分からなかった。今となっては、アビスネビュラの指示で制限されていたことを知っている。
「近隣の国と、食料や生活物資のやり取りはしていないのか?」
「基本的に生活に必要な物を他国に頼ることはないわ。どこの国や村でも自分たちで賄えることを目指しているの。もし関係が悪化したら困るでしょう?」
言う通りかもしれない。
他国との関係が悪化して必需品を止められてしまうと、一気に生活が危機に陥ることは目に見えている。
「魔物や盗賊の被害もあるし、商人が貿易で扱うのは護衛をつけて運ぶような特産物や高級品くらいね」
近隣と食糧のやり取りをしていないのは意外だったが、国内を賄うだけの食料や物資があるのだから良い知らせだ。
ただ、移住となると通常と違ってたくさん必要になるので、自国内だけでは賄えなくなる恐れはある。
「エルトベルク全体で、食料の備蓄はどのくらいあるんだ?」
「冬がくるまでの食料はギリギリ大丈夫だと思うわ。ただ、こんな大がかりな移住は考えてなかったから、この先足りなくなる可能性は高いと思うけど……」
アリシアは申し訳なさそうな顔をして下を向く。
アリシアが悪い訳では無いのだが、統治する者の一人として少なからず責任を感じているようだ。
「そうなったら、足りない分は他国から購入するしかないか。やっぱり、ますますお金が必要だな」
「そうね、6万人もの人を動かす話だもの。何か良い案はあるの?」
「いや、今のところはまだ無いんだ。でも、何か新たな産業になるような物を考えないとな……」
新たな首都を作るという大事業だ。資金はどれだけ沢山あってもいい。
カズヤは新たな難題に頭を悩ませた。
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