050話 ギルド行脚
アリシアと楽し気に話すカズヤを、ステラがジトっとした目で見つめている。
「い、いや、大変な事業だから、みんなで協力しないとなと思って……。もちろん、ステラにも期待してるんだ。ステラの力が無いと、とても成り立たないよ」
「そうですか、それならいいですけど」
少しだけ納得したようにうなずいた。
あわてて繕うカズヤたちを、バルザードが面白そうに眺めていた。
*
「それじゃあ、私たちにもやらなければいけない仕事があるから、ここからは私とバルくんで回るわ」
そう言うとアリシアとバルザードはカズヤたちを置いて、エストラの中心部に向かって歩いて行く。
アリシアの仕事とは、エストラに駐在する多くの団体を回って、遷都にあたっての理解と協力をお願いすることだった。
この世界には職業団体であるギルドが数多くあり、小さなものでは演劇や役者の芸能ギルドから料理人のギルドまであった。
しかし、アリシアが訪れる予定の団体は、国家をまたいだ影響力を持つ5つの大きな組織だった。
まず1つ目は冒険者ギルドだ。
アリシアやバルザードは普段から冒険者ギルドを利用しており、ギルド長とも気安く話ができる。
二人が冒険者ギルドを訪れて、遷都先のセドナ周辺やエストラからの道中での魔物退治の依頼を出すと、ギルド長は積極的に協力することを約束してくれた。
しかし、2つ目の魔術ギルドは真逆の対応だった。
この世界のほとんどの人には魔力が備わっていて、着火や水、風といった生活魔法を自由に使うことができる。
だが、炎や雷撃、防御魔法や能力上昇などの戦闘魔法を使うためには、魔術ギルドと契約する必要がある。
少なくないお金を払って魔術ギルドと契約し、そのうえで教わった呪文を詠唱することによって初めて戦闘魔法を使うことができるのだ。
また、継続して使い続ける為にはお金を支払い続ける必要がある。
魔法使いであるアリシアは魔術ギルドにも所属しているのだが、魔法契約に批判的な態度をとっている為あまり歓迎されていない。
王族であるアリシアへの対応は表向きこそ丁寧だったが、その内容は非協力的だった。
「……実は姫様には言いにくいのですが、いったんエストラから引き上げるように本部から指示が来ています。しばらく魔術ギルドには職員がいなくなりますのでご了承ください」
そう告げると、ギルドの建物から二人を追い返した。
「あいつら、馬鹿にした態度をとりやがって。エルトベルクが小国だと思って舐めているのか!」
「バルくん、落ち着いて。魔術ギルドの対応は予想できたわ。直接足を引っ張られないだけ、マシかもしれないから」
苛立つバルザードをアリシアは必死でなだめた。
ちなみにその数日後には、本当に全職員がエストラを後にしたという報告がきたのだった。
アリシアは気を取り直して、ギルド巡りを再開する。
3つ目は商業ギルドだ。
国家を股にかけて商売をしているので、今回の災厄は商業ギルドにとっては大きな痛手だった。崩落したエストラから離れようとする商会もあるかもしれなかった。
しかし、新しい首都を建設して移転するためには、莫大な食料や生活物資が必要だ。
商業ギルドはそこに商機を感じて、遷都を前向きに捉えて欲しいところなのだが。
「アリシア様のお話は承りました。本部への確認もありますので、少しお時間をください」
商業ギルド長はアリシアの提案を算盤をはじきながら思案すると、検討するとだけ返答して二人を追い出した。
商魂たくましい商人たちは、アビスネビュラという黒幕には気が付かなくても、世界の流れに逆らおうとするエルトベルクの動きを敏感に感じているのかもしれなかった。
「くそ、奴らの打算的な態度は気に食わんな」
「遷都に必要な物資を頼みたかったんだけどね。商業ギルドの協力が無ければ、流通や物資を自前で用意しなければいけないわ」
損得勘定が苦手なバルザードには、商業ギルド長の態度は腹立たしく感じられるのだった。
4つ目に回ったのは職人ギルドだった。
今回一番乗り気になってくれたのが、この職人ギルドだ。新しい首都を建設するといったら、もろ手を挙げて歓迎してくれた。
住宅の建設や家具の製作など、彼らの力を借りることが多くなるはずだ。仕事が増えることを喜んだ職人たちが、張り切ってくれているのが伝わってきた。
そして、一番難色を示したのが、5つ目のサルヴィア教のエストラ教会支部だった。
教会はギルド組織ではないが、国家をまたいだ大きな影響力を持っている。
この世界にもたくさんの宗教が存在しているが、もっとも普及しているのがこのサルヴィア教だ。旧首都であるエストラでも、約7割の市民が信仰している。
教義としては、この世界をかつて救済したと言われる絶対神サルヴィアを崇拝する一神教だ。
数百年前に人々を大災害から救ってくれた4人の天使とサルヴィア神へ、日ごろから感謝することを教えている。
教会支部長はアリシアの話を聞くや否や拒絶を示し、遷都には協力できないと伝えた。それどころか、このままエストラに残って住み続けると主張したのだ。
「私がこの場所に住んでいるのはサルヴィア様からの運命だと感じています。政治的な理由で移住することは考えられません」
アリシアがこの街の地下の構造を説明して、危険性を強調しても首を縦に振らない。
アリシアは説得を諦めて教会を後にするしかなかった。
たしかに、宗教や信条は別としても、他にもエストラに残りたい人々はいるのかもしれない。
安全性を理由にしても、市民全員の移住を強制できないことをアリシアは思い知ったのだった。
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